IN RECRUITING · ISSUE 237
● 12 SEC「自分で仕事を作り替える人は、離職率が25%低い。」——よく見かける一文です。この号が見るのは、その25%が本当かどうかではなく、その数字がどこの誰のものか、です。
この号が探した範囲では、その言い回しに対応する調査に行き着きませんでした。語形を変えた検索を2通り。近い数字は、別の文脈のもの。「原典に無い」とは書きません。特定できなかった、までです。
主題はその先です。辿れた先には向きの逆の数字が座っていて、しかも同じ研究でも、版が違えば数字が違う。誰を昇進させるべきかも、どんな制度を入れるべきかも書きません。
辿り着いたのは2017年のメタ分析。K=122の独立標本・N=35,670人です。「離職の意図」の行で、クラフティング全体は rc=−0.021(4本・2,429人・95%信頼区間 −0.066〜0.023)。〔rcは誤差を補正した結びつきの強さ。−1から+1で、0なら結びつきなし、符号は向き〕区間はゼロを跨ぐ——「関連が無い」ではなく「あるとは言えなかった」。測っているのは辞めたい気持ちで、実際に辞めたかどうかではありません。
要旨は、個々の次元を考えると異なる結果が現れた、と書きます。構造的な資源を増やす −0.158(4本・2,429人)、社会的な資源を増やす −0.022(3本・2,240人)、挑戦的な要求を増やす −0.091。そして「妨害的な職務要求を減らす」だけが +0.235(3本・2,240人・区間 0.189〜0.282)で符号が逆〔目安では「弱い」と「中くらい」のあいだ〕。いちばん実行しやすそうな方向が、辞めたい気持ちの高いほうと結びついていた。K=122は論文全体の数で、この行は次元によって3本か4本です。

昇進の側で問題になるのは、数字の大きさではなく、その数字がどの版のものか、です。
012017年のメタ分析が離職の意図の行に書いたのは、明確な差とは言えない、まで。表の一行です。信頼区間がゼロを跨ぎ、妨害的な職務要求を減らす次元だけがゼロの反対側です。測られているのは、辞めたい気持ちのほうです。
02同じ研究が、作業論文版では214社・7.5%、刊行版では131社・6.1%だった。二つの版です。作業論文版(2018年・NBER Working Paper 24343)は米国の導入先214社・53,035人・うち昇進1,531人(2005年から2011年)で、昇進前の売上が2倍だと部下ひとりの売上成績が7.5%低い。刊行版(2019年)は131社・38,843人・うち昇進1,553人で、同じ値が6.1%——対数の変化として推定された0.061からの翻訳です。会社は約61%、人数は約73%に減り、昇進した人の数だけが22人増え、下がり幅の差は1.4ポイント。両版とも、管理者は部下に無作為に割り当てられてはいないと断ります。
03設計の違う2本が、「要求を減らす」方向に同じ向きの所見を書いている。向きのそろった2本です。2019年の研究は、6か月あけた2時点の111人の追跡と、介入群60人・統制群59人の準実験(準実験は著者自身の語)。時点1で要求を減らすことは、時点2のワーク・エンゲージメント、課題遂行、キャリア満足に負の影響を与えた——資源を求める行動のほうは、増加の主な牽引役だった。2024年のK=58・N=20,347人の横断メタ分析も、要求のクラフティングは職務要求の増加を介して職務ストレインを高める、と。

昇進には、正面から対立する二つの説明があります。片方は上の実証。もう片方は2004年の理論で、昇進後に能力が低く見えるのは純粋に統計上の事柄であり、ピーターの法則はいかなる昇進ルールからも必然的に帰結する、と書きます。この号は、どちらかを確定にはしません。
数えられたものは、他にもあります。2021年の論文は大手技術企業1社の人事データで、人の管理の技能は離職と強い負の関係を持つ一方、離職以外の観測された成果のほとんどを一貫して改善はしない、と報告します(因果としての解釈が補強される、とは著者たちの主張)。同じ年の別の論文は1社・5年・9,355件の社内応募の不採用を数えました。出発点の2001年の論文は、効果を「起こりうる」と書くだけです。
01「作り替える人は辞めにくい、とメタ分析で確かめられている」確かめられたのは「関連があるとは言えなかった」までです。唯一大きいのは符号の逆の +0.235 で、「クラフティングをすればよい」ではなく「何をクラフトするかで符号が変わる」という形。
02「成績の良い人を昇進させると失敗する、と分かっている」二つの説明は並んだままで、決着していません。実証の側には「いまの昇進方針は、無作為に昇進させるより少しだけ悪い」という比較も出ますが、反実仮想のシミュレーションの中の比較であって、実際に無作為な昇進を試した結果ではありません。
03「214社の営業データで、7.5%だった」——それは作業論文版の数字。版で動いたのは、その四つだけではありません。売上が2倍のときに昇進する確率の上がり幅も、作業論文版は0.030パーセントポイント・基準比14.3%の増加(基準の月あたり昇進率0.21%)、刊行版は0.074パーセントポイント・32%の増加(0.23%)——同じ言い方で、値だけが違います。書誌は刊行版なのに数字は作業論文版、というねじれが起きやすい。どちらから取ったかを書けば済む話です。

扱った研究は8本、出典欄は9行——1本を二つの版に分けて数えたからです。全文まで読めたのは9行のうち3行。残る6行は公式の抄録までで、抄録の外の限定は書きません——国も、業種も、測定の時点も、標本の内訳も。国名(米国)を書いたのは、本文に「米国に拠点を持つ顧客企業」と印字された両版だけです。
材料は、営業成績を管理するソフトの導入先の企業、大手技術企業1社、社内公募のある1社、そして3本か4本しか束ねていない離職の意図の行。共通するのは、いま在籍している人のデータであること。人を無作為に割り付けた実験は、全文まで読めた3本のどれにもありません。抄録までの6行も、その範囲に記述はありません(2019年の研究は著者自身が「準実験」と書いています)。2017年の論文は、非実験的な研究は因果関係を示すことができない、と自ら断ります。
作業論文版は214社・53,035人で7.5%。刊行版は131社・38,843人で6.1%。
同じ著者の、同じ題の、同じ研究です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。担当範囲を10項目書き出したとき何が起きるかを測った研究は、扱っていません。評価はしません。点も付けません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
**いま自分が受け持っていることを10項目まで**箇条書きにする。1項目20字程度で。他人の担当範囲は書きません。担当という形が無ければ、続けている活動や家庭の中の役割で。
- 02MARK
半年前と比べて範囲が広がった項目にチェック、狭くなった項目には別の印(△など)、変わっていない項目は空欄のまま。
- 03COUNT
チェックの付いた項目だけを見て、「自分から広げたもの」に丸を付ける。最後に**チェックの数、△の数、丸の数の3つ**を書く。
2001年に言葉が提案されてから、2024年のメタ分析まで23年。増えたのは効果の確からしさではなく、どの向きにクラフトしたかを分けて数える習慣と、どの版から引いたかを書く必要のほうでした。
確かめられたのは三つ。離職の意図の行で全体は明確な差とは言えず、妨害的な要求を減らす次元だけ符号が逆だったこと。同じ研究の数字が版で違ったこと。2004年の理論と対立したまま決着していないこと。ほぼゼロは、何も起きていないのではなく、反対向きのことが同時に起きているという意味かもしれない——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、箇条書きと三種類の印と3つの数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS人材成長拡張・昇進支援力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
