IN RECRUITING · ISSUE 236
● 12 SEC「入社のときに聞いた話と実際が違うと、辞めたい気持ちが3倍になる。」採用や人事の資料でよく見かける一文で、出典に1997年の論文が添えられています。この号が見るのは、同じことを数字で測った側が何を報告したか、のほうです。
ここでいう契約は法律上の契約ではなく、相手が自分に何を負っているかについての本人の思い込みを指す研究の言葉です。数え方は、「本」が論文の数、「点」が引いた資料の数——論文6本と誌の説明ページ1点で、7点。
その論文について確かめられたのは、書誌の記録までです。題名に「〜のモデル」の語が入る以上は、本文にも抄録にも届いていません。だから「3倍は原典に無い」とは書きません。書けるのは、本文まで読めた1本と抄録まで読めた4本、説明ページ1点には、その3倍が出てこない、というところまで。
数字を持つのは、10年後のメタ分析です。2007年に出たもので、違反が8つの帰結にどう出るかを51本(うち12件は学位論文や学会発表など)から統合しました。抄録の2文目が核です——"Breach was related to all outcomes except actual turnover."(違反は、実際の離職を除くすべての帰結と関連していた)。
問題の値は TABLE 1 にあります。離職の意図との修正済み相関は ρ=.42(22本・6,268人、95%信頼区間 .36〜.49)。実際に辞めたかどうかは ρ=.06(5本・730人、同 −.12〜.23)で、後者は区間がゼロを跨ぎます。〔ρは誤差を補正した結びつきの強さ。0なら結びつきなし〕
原典の本文は——"the estimated true correlation was close to zero (ρ̂ = .06), and its confidence interval included zero"(推定された真の相関はゼロに近く(ρ̂ = .06)、その信頼区間はゼロを含んでいた)。根拠は5本・730人で区間がゼロを跨いだ一点。「関連が無いと確かめられた」ではなく「関連があるとは言えなかった」です。
同じ原典は、Q統計量が全帰結で有意=研究間の異質性がかなりある、とも書きます。統合値は、51本が同じ結果だったという意味ではありません。

51本の中身は一本ずつ読めません。ここから先は、たどれた1989年・1994年・2000年・2008年の4本の抄録の範囲にあります。
01辞めたい気持ちは22本・6,268人、実際に辞めたかどうかは5本・730人。同じ表の中で、二つは別の行です。「辞めたいか」は質問紙でその日に数が返り、実際に辞めたかどうかは辞めるまで待たなければ数えられません。原典が書くのは、それぞれの本数と人数と値までです。
02「過半数が破られた」の54.8%には、分母がある。1994年の研究の抄録です——"reported by a majority of respondents (54.8 per cent) as having been violated by their employers"(回答者の過半数(54.8%)が、雇用主に破られたと報告した)。分母は、修了時と2年後の2回調査された経営大学院の修了生128人で、働く人一般ではありません。同じ抄録は、違反の発生が離職と正、信頼・満足・とどまる意図と負の相関を示したとも書きます(大きさの値は印字なし)。
032000年の縦断研究は147人を18か月追い、条件を5つ挙げている。条件は5つ——組織と自己申告の業績が低い、正式な社会化の過程を経ていない、採用前に組織の人間との接触が少ない、前の雇用主との違反の履歴がある、入社時に選択肢が多かった。入る前と入った直後のことが5つのうち2つ。違反の報告率の百分率は、この抄録にありません。

出発点の1989年も置きます。心理的契約のもとになった論文で、抄録の最後の一文は——"are described along with their organizational implications."(その組織上の含意とともに記述される)。「記述される」です。標本も方法も出てきません。引く側は、たいていいちばん古い書誌を出典に置きます。
01「3倍は1997年の論文で示されている」——本文にも抄録にも届いていない。試した3経路の応答は、抄録の欄が空、中身の無い頁、自動の取得を止める画面。原典を読んだうえで「3倍が無い」と確かめた、とは書けません。書けるのは、題名に「〜のモデル」の語が入ること、掲載誌の説明ページの使命が理論的洞察の公刊だとあること、読んだ範囲でその頁に「実証データを載せない」と明示する文は無かったことまで。
02「違反されたと感じた人は辞めていく」——実際の離職は5本・730人。2007年の表では ρ=.06、95%信頼区間 −.12〜.23。ゼロを跨ぐので明確な差とは言えず、しかし「関連が無いと示された」でもありません。1994年の1本の研究の抄録は、違反の発生が離職と正の相関を示したと書きます。1本の相関と51本の統合値では、本数も人数も統合の仕方も違います。
03「若い人ほど違反に傷つく」——3つの帰結のうち1つは向きが逆だった。2008年のメタ分析は k = 60 の研究を重み付き最小二乗推定で統合します——"for job satisfaction the moderating influence of age was in the unexpected direction"(職務満足については、年齢の調整的な影響は予想外の向きだった)。信頼と組織への継続的関与では若い労働者で関係が強く、職務満足では年上で強い。3つのうち2つは「若い側」、1つは「年上の側」。総標本の人数は抄録になく、書けるのは60本まで。

同じ TABLE 1 の8行を、本数と人数だけで並べ直します。違反の感覚 11本・4,027人(ρ=.52)、不信 9本・1,536人(.65)、職務満足 28本・14,252人(−.54)、組織への継続的関与 20本・12,523人(−.38)、離職の意図 22本・6,268人(.42)、組織市民行動 21本・12,662人(−.14)、役割内の業績 16本・3,504人(−.24)、そして実際の離職 5本・730人(.06、信頼区間 −.12〜.23で明確な差とは言えない)。
数えられた回数が、そろっていません。値どうしを割ると、職務満足の14,252人は実際の離職の730人のおよそ19.5倍、離職の意図の6,268人はおよそ8.6倍、本数では22本と5本で4.4倍(原典の計算ではありません)。
原典は8行を感情・態度・個人の有効性に分け、組織市民行動と役割内の業績と実際の離職を個人の有効性の側に置きます。辞めたかどうかだけが1桁の本数。測りやすいほうが繰り返し測られている——というのが、この号の読み筋です。
辞めたい気持ちは22本・6,268人で測られ、
実際に辞めたかどうかは5本・730人でした。
本文の全文まで読めたのは7点のうち1点で、それも発行元以外が置いている複製です。読めていないものについては書きません。標本は修了生128人、147人の管理職、51本と60本のメタ分析。日本の雇用を対象にした査読研究には行き着けず、この手順を試した人に何が起きるかを測った資料も7点にありません。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
いまの場所(または直近の場所)に入るとき「こうなると聞いていた」ことと、その後の「実際」の差を**3つだけ**書く。1件2行、各20字ほど。良し悪しは書きません。
- 02SORT
3件の横に、(あ)書面にあった (い)口頭で言われた (う)誰も言っていないが自分がそう思っていた、のどれか1つを記す。つかなければ「不明」でよく、他の人には聞きに行きません。
- 03COUNT
最後に、(う)と「不明」が何件だったかを1つの数として書く。それで終わりです。研究の値と比べる数ではなく、自分の3件がどちらに寄っていたかを見る数。
年代順では、1989年の概念の記述、1994年の実証と54.8%、1997年のモデル、2000年の147人・18か月の縦断、2007年の51本と2008年の60本のメタ分析(並びであって、後の論文が前を検証したという意味ではありません)。19年で細かくなったのは、効果の確からしさではなく、「気持ち」と「実際」を分けて数える区別のほうでした。
確かめられたのは三つ。1997年の論文へ届いたのは書誌の記録までで、全文まで読めた1点も発行元以外が置いている複製だったこと。TABLE 1 が意図と実際の離職を別の行に置き、後者を原典が「関連があるとは言えなかった」に留めたこと。54.8%の分母が修了生128人で、2008年の60本では職務満足だけ年齢の向きが逆だったこと。今日残せるのは判定ではありません。差が3件と、区分と、最後の1つの数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS心理的契約・期待値管理力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。