IN RECRUITING · ISSUE 233
● 12 SEC構造化された受け入れで、新入社員の定着率が82%向上し、生産性の早期達成が70%になる。よく持ち出される一組です。追うのは、この二つの数字がどこに載っているか、だけ。受け入れ方は扱いません。
出どころは、ある調査会社が2015年8月に出した研究ブリーフでした。査読誌ではありません。その表題は「悪い採用の本当の費用」です。82%と70%の一文は、悪い採用につながる最大の失敗を並べた番号つき一覧の頁の「注目の知見」の囲みと、「5. 受け入れの過程の不備」の本文に、同じ形で2回だけ。
そして、この一文に標本の数は付いていません。配布版の全文で回答した組織の数の印字は1か所だけ——冒頭の「主な知見」の図の出典欄、n=153 です。
入社オンボーディング成功力(onboarding)は、入った人がその場所のやり方や人に慣れていく過程。研究の側では組織社会化(organizational socialization)と呼ばれます。扱うのは、その数え方です。
単位を先に。数字を引く査読研究は3本とも研究の統合で、数えられる1件は一人の新入社員ではありません。一つの独立した標本か、一つの関係です。2007年の一本は70の独立標本(N=12,279)、同じ年のもう一本は30本から得た31の独立標本(N=6,104)。以下、論文を「本」、標本・関係・研究を「件」で通します。
全文まで読めた2本に、無作為な割り付けの記述はありません。走査すると "random" は両方に4か所ずつ。ただし片方は2か所が同じ一文の中の同じ語で、中身は手続きの型の名前と、全研究の20%を無作為に抜いた符号の確認と、効果量の無作為な選択。抄録まで読めた1本の抄録の範囲にもありません。だから「こう受け入れれば定着する」とは書きません。

では、その数え方はどうなっているのか。まずたどったのは、この3本でした。
012007年のメタ分析(70の独立標本・N=12,279)は、関係の56%がデータ収集の型の影響を受けたと報告する。全文を読みました。逐語は——70の独立した標本(N = 12,279)を同定した。それらの研究のうち、83%は縦断的なものだった。方法そのものを3つの調整変数で符号化し、関係の56%がその型の影響を受けた、同じ時点で測った変数でより大きな相関が出た、と報告します。56%の分母は関係の件数で、本数でも人数でもありません。縦断の測定時点は平均2.90(SD .94)。
02同じ2007年のもう一本(40本を審査し30本を採用・31の独立標本・N=6,104)も、横断は縦断より強いと報告する。抄録と、版面の再掲による本文を読みました。抄録の「過去20年に30を超える研究」は分野の研究の本数で、組み入れ本数ではありません。本文は——合計40本の論文が同定され、30本が組み入れるのに十分な情報を提供し、31の独立した標本(N = 6104)が得られた。残らなかったのが10本。横断が強い理由として著者らが挙げる共通方法分散と先行刺激は、推測です。
032025年の後継のレビューは256件を同定し183件を組み入れたと書く。読めたのは、その抄録までです。到達したのは公式の抄録までで、本文は読んでいません。逐語は——組み入れ基準を満たす256の研究を同定し、十分な k を持つ183件をメタ分析に組み入れた。差は73件、どちらも人数ではありません。抄録はほかに、水平的個人主義と垂直的集団主義の文化を調整変数として比べたことを書きます。統合値も係数も書けません。2007年の70件から18年で256件。

版面は動きません。動くのは、要約されて手渡されていく途中です。落ちやすいのは3か所。
01「82%は査読を経た数字だ」と読むと、載っているのが研究ブリーフで、定義が無いことが落ちる。載っているのは研究ブリーフで、査読誌ではありません。「強い受け入れの過程」という語はこの報告書に2回しか出てこず、その2回は82%と70%が入った同じ一文です。定義も、定着の測り方も、何と比べて82%なのかも書かれていません。同じ報告書には別の70%も同居します——候補者体験に投資した組織は採用の質を70%改善する。生産性の70%と採用の質の70%は別の数字で、n=153 が付くのは後者の図の出典欄です。
02「実務ガイドにも同じ数字が」と読むと、52%・60%・53%が認識の割合であることが落ちる。2010年の実務ガイド(査読誌ではありません)を走査すると、82%も70%も0件。あるのは別の数字——調査したところ、組織は、効果的な受け入れが定着率(52%)、生産性までの時間(60%)、顧客満足全体(53%)を改善すると認識している。測られたのは記録ではなく、答えた組織の認識です。もう一つ、ある製造企業で構造化されたオリエンテーションに参加した新入社員は3年まで留まる可能性が69%高かった、と。これは相対的な高さで、69ポイントの差ではありません。
03「縦断研究だから時間を空けて測られている」と読むと、多くが同じ時点で測られたことが落ちる。2007年のメタ分析は、組み入れた研究の83%が縦断的だと書きます。同じ論文に——研究が時間をまたいでデータを集めている場合でさえ、報告されている個々の関係の多くは、実のところ横断的である。分類欄と、数字が測られた時点は別のものです。同じ年のもう一本も、独立に同じ向きです。ただし「時間を空ければ本当の値が出る」と読み替えないでください。その理由は、推測のままです。

引いた実測はいずれも個々の研究の統合で、ALIFEが数えたものではありません。読めた範囲に、標本の国の内訳はありません。査読の3本のうち、全文まで読めたのは2本。出典8点で見ると全文が4点、抄録が1点、記録や書誌までが3点で、読めていないものについては書きません。1980年の論文は記録までで、その記録は「新しい視座を提示する」と書きます。1981年の論文は同じ著者の同じ題が同じ年に二つ——4月のほうに副題は無く、8月の予稿に「縦断研究」が付きます。
「最初の90日」の出どころは、2003年の商業出版の実務書で、査読誌ではありません。目録で確かめられるのは2003年刊・253ページと、指導的な職への着任を指す副題まで。全文まで読めた2本に「90日」もこの本への言及も0件。2025年のレビューは抄録の範囲に言及が無い、まで。なお2010年の実務ガイドの文献表に、この本が入っています。
82%と70%が載っているのは、
採用の失敗の費用を数えた、2015年8月の研究ブリーフである。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。入って30日を書き出したときに何が起きるかは、この号では扱っていません。評価しません。誰にも尋ねません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開き、**いまの場所に入った最初の30日**を思い出す。組織でなくても、学校でも講座でも地域の集まりでも。
- 02LIST
1行に1件。**日付・聞いた相手(役割だけ。氏名は書きません)・聞いたこと(10字ほど)**の3つ。思い出せる件数だけでよく、ゼロ件でもかまいません。
- 03COUNT
最後に一行、**聞いた先が何か所あったか**を数だけ書く。残るのは日付・相手・内容の3列と、聞いた先の数がひとつ。
数字は渡されるたびに、出どころを落とします。確かめられたのは四つ。82%と70%が載っているのは2015年8月の研究ブリーフで、表題は「悪い採用の本当の費用」だったこと。その一文に標本の数は付かず、n=153 の印字は図の出典欄の1か所だけだったこと。2010年の実務ガイドには82%も70%も0件で、あるのは認識の52%・60%・53%と相対的な69%だったこと。
査読の側が測ったのは、いつ測ったかで数字が動くことのほうだったこと。いちばん確かなのは、入って30日のあいだに誰かに聞けたという事実のほうかもしれません——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではありません。日付と相手と内容が3列、聞いた先の数がひとつ。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS入社オンボーディング成功力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
