IN RECRUITING · ISSUE 234
● 12 SEC「役割がはっきりしていると、ストレスが30%低く、成果が25%高い。」配属の話で出てくる数字で、たいてい2005年の論文が出典に添えられます。書誌データベースで姓と年と主題を掛け合わせても該当は0件、ウェブ検索2系統でも出てきません。別の書誌データベースは応答の上限で未到達です。だから「実在しない」とは書かず、照会した範囲では出てこなかった、まで。その姓も題名も書きません。
「25%」に最も近い出どころは、従業員向けの調査を売る会社の記事でした——"Our research shows that overall work performance increases by 25%."(全体の仕事の成果が25%上がる)。同じページに並ぶ4つの割合には、どれにも分母がありません。標本の規模も国も調査年も方法も、参考文献も脚注も無い。「30%」はそのページに印字されていません。
数の取れる側は2本の論文ですが、その後ろにあったのは、同じ国・同じ業種・同じ2003年から2009年の人事データでした。「複数の研究が示している」の中身が、1つの記録だったわけです。
ロールフィット・早期戦力化力(role fit)が指すのは、担った役割とその人の持ちものが噛み合っているか、記録に出るまでどれだけかかるか。扱うのは、それを測ったという数字がどこの誰から来たのか。開いたのは、査読誌の論文6本と会社の記事1本の、合わせて7つ。
数え方も先に。「職務期間」はひとりが一つの職務にいた一続きの期間、「職務年観測」はある職務のある1年ぶんの記録1件。「人」とこの2つは置き換えられません。
「業績」と呼ばれるのは、その会社の年次の考課の点数です。1〜5の尺度で、1が「目標を大きく超過」、3が「目標達成」、5が「目標未達」——数が小さいほうが上です。

では、その数字はどこから来たのか。まず開いたのは、この3本でした。
01「25%」の出どころは、分母の無い4つの割合だった。到達したのは記事ページの本文です。並ぶ割合は4つ——成果が25%上がる、明確さのある従業員は53%効率的で27%効果的、75%は情熱も職務満足も高い、全部門でおよそ50%が明確さを欠く。どれにも分母が書かれていない。査読誌ではありません。「30%」の出どころには行き着けませんでした。
02数の取れる側は、米国の投資銀行部門1社の考課表だった。2011年の論文。全文を読んだのは著者の最終稿です。米国の投資銀行部門の人事記録、2003年から2009年、7,129の職務期間における5,260人。外部採用者の業績は、昇進で入った労働者より2年を超えて弱いまま。著者自身が、単一の事業所の結果が他所へどう一般化するかは今後の課題だと書き、因果の評価には自然実験か操作変数のほうが確かだが見つけられなかったとも書きます。走査しても、無作為な割り付けは0件。
03もう1本の後ろにも、同じ7年の同じ記録があった。2014年の論文。236の職務における5,773人の、7,749の職務年観測。内訳は4,222件の昇進、2,132件の外部採用、1,395件の内部異動——足すと総数と一致し、2,132÷7,749=27.5%は脚注の印字(出来事の28%が採用)と整合します。同じデータであることは脚注が自認——"We reran our analyses using this alternative definition and found very similar results."(この別の定義で走らせ直し、非常によく似た結果を得た)。年も国も業種も一致し、違うのは仮名だけ。

原典の版面は動きません。動くのは、要約されて手渡されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。
01「18%」と「15%」を、別々の研究の食い違いと読む。著者最終稿の抄録——"the external hires are initially paid around 18 per cent more than the promoted workers"(外部採用者は当初、昇進した労働者より約18%多く支払われている)。同じ稿の本文は、昇進で入った労働者が約15%低い給与と総報酬を受け取ると書きます。1÷1.18=0.847、1から引くと0.153。同じ一つの差を、どちらを1と置くかで2通りに書いただけです。
02「複数の研究が示している」と読む。2本の標本の数が一致しないのは、職務期間と職務年観測という単位が違うからで、別々のデータである証拠にはなりません。脚注は、同じデータの上で走らせ直したと書いている。「2本ある」ことと「独立した2標本がある」ことは別です。同じ職務の中で外と内を並べた記録として、読んだ範囲にあるのはこの1つだけ。「他に無い」とは書きません。
03「合っていると成果が出る」と読む。1996年の論文。読んだのは刊行版の版面です。1994年春、大学院で35の組織が採用活動をし、1組織あたり平均14人が面接(総数506件)、320通が返送。面接を受けた129人のうち96人が両方の調査票に回答(印字の回答率は75%。検算では96÷129=74.4%)。約6か月後の3回目は——"Sixty-eight of the respondents who completed the Time 2 survey also completed this survey."(第2回に回答した人のうち68人が、この調査にも回答した)。96人は第1回と第2回をそろえた人数、入社後(平均5.25か月)に答えたのは68人。終着点は離職の意図であって、実際の離職でも成果でもなく、その分母は68です。回答者は19歳から45歳・平均23.4歳、70%が白人、51%が学部生、59%がインターンの職、41%が正社員志望。「56%が女性」は回答者の側で、面接官の側にも56%が女性(24歳から54歳・平均35歳)という一文があり、分母を書かないと入れ替わります。標本は比較的小さく同質的だった、とは著者の断り。

射程を書きます。実証が扱うのは、米国の投資銀行部門1社の7年ぶんの人事記録、米国の大手ヘルスサービス企業1社の内部採用8,107件、英国の雇用主の横断標本、北米の大学院の求職者96人(第3波は68人)。どれも特定の国・業種・期間で、人事の記録を研究者に渡せる組織が対象です。開いた7つの出典に、日本の職場を対象にしたものはありません。
取り違えやすい2本も。1996年のもう1本は、内部昇進と外部採用の選択を分析した純粋な理論のモデルで、公式抄録にデータも標本もありません。2013年の論文の実証の記述は、英国の雇用主の大規模な横断データの分析は予測と整合的である、の一文で止まります。2018年の論文が測るのは、公募か指名かという内側の入り方の違いです。
2011年と2014年は同じデータで、同じ著者が両方に載り、その共著者が2018年の単著者。全文まで読めたのは7点のうち4点、抄録までが3点。読めていないものについては書きません。外から採れとも、内から充てろとも書きません。
「複数の研究が示す」と読める2本の後ろで、
脚注が「同じ分析を走らせ直した」と書いていた。
この3手も、研究が命じた順番ではありません。研究が測ったのは、1社の人事記録と、考課の点数と、求職者の離職の意図です。人は測りません。同僚にも部下にも尋ねません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
公開求人1件か、自分の職歴で直近に役割が変わった1回を選ぶ。**同僚・部下・上司のことは書きません。**
- 02LABEL
外から入る枠か、内側で担当が移る枠かを1語で書く。求人なら「新規」か「欠員補充」、職歴なら「転職」か「異動」。
- 03COUNT
数を2つ。その役割に就いてからの月数か掲載開始からの日数と、それをどの記録で確かめたか。
数字は、引かれるたびに少しずつ形を変えます。皮肉なのは、書誌が添えてあるほど確かめられたように見えることです——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは四つ。2005年の書誌が、照会した範囲では出てこなかったこと(1系統が未到達なので「実在しない」とは書かないこと)。「25%」の出どころが調査を売る会社の記事で、割合に分母が無く、「30%」は印字されていなかったこと。数の取れる側が1社の考課表だったこと。18%と15%が、同じ一つの差の、基準の置き方の違いだったこと。版面は残ります。残らないのは、その一つの数字だけを条件を外して持ち歩ける、という部分です。今日残せるのは、1件と、区分の1語と、月数と、確かめ方です。
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