IN RECRUITING · ISSUE 232
● 12 SEC「オファーの前に懸念点を聞き取ると、承諾率が20%上がる。」採用の資料でよく見かける一文です。数字の後ろには、出典として刊行物の名前がひとつ添えられています。この号が見るのは、その一文の後ろに何が置かれているか、です。
たどると、行き止まりでした。確かめたのは、大学図書館の総合目録と国立の図書館の検索——この二つの書誌データベースの題名一致検索で、どちらも0件。設計の側の資料は5系統をたどっても行き着かなかったと記しています。ただし、世界のどこにも無いと確かめたわけではありません。書けるのは、二つの目録に無かった、というところまでです。
だからこの号は、その20%を根拠として使いません。扱うのは、承諾と辞退が決まる最後の接点で何が測られてきたか。原典は、その数字がどの段で、どの条件で測られたかを、いちいち書き分けています。
最後の段で何が起きているかを、求職者自身の言葉から組み立てた1991年の研究です。ただし本文まで読めたのは刊行版ではなく、作業論文版(番号90-24)。表紙に、査読も承認も経ていないと印字された受理前の版です。標本はある北東部の大学の4学部の卒業予定学生41名で、平均して学内面接18.0回、訪問6.6回、内定3.0件。
原典は、結果は合計738回の学内面接と271回の訪問にもとづくと続けます(41×18.0=738、41×6.6=270.6でおよそ271)。表の散らばりは18.03・8.64・範囲2〜40回、6.63・4.78・1〜20回、3.00・2.85・範囲0〜15件(N=41)。内定が0件だった人も、この41名の中にいます。脚注にはこうあります——「標本の大きさが41のとき、真の相関が.2であったとして、それを検出できる確率は.25しかない」(有意水準5%・両側検定。.4なら.75)。「差が出なかった」と「差が無い」は、別のことです。

41名の記述が、この分野の土台の一つです。数を集めた側はどうか。たどれたのは二つのメタ分析と一つの縦断のフィールド研究、どれも読めたのは抄録まででした。
012012年のメタ分析は、段ごとに書き分けている。規模は232研究・250標本・3,518係数・n=108,632。「知覚された適合は、応募者の魅力の相対的にも独自分散でも最強の予測子だったが、職の選択については有意でない予測子だった」。採用過程の特性は段が進むほど重く見られ、職選択の決定で最大の独自分散を説明したのは仕事の特性、とも書きます。
022005年のメタ分析は、予測されなかったものを名指しする。71の研究から667の係数を統合した抄録は、応募者の魅力の帰結はいくつもの予測子で予測されたが、採用担当者の属性と知覚された代替案によっては予測されなかったと書き、応募者の態度と意図が予測子と職の選択の関係を媒介したと続けます。本文には到達していません。
032003年の縦断のフィールド研究は、現場で追いかけた。現場で、求職者を職探しと選択の過程を通じて追跡した研究です。抄録は「期限を課すこと(いわゆる期限付きオファー)は、職選択の決定にほとんど効果を示さなかった」。ただし同じ抄録には、複数の関係者と会う機会や訪問の設え、迅速な追いかけの重要性を補強した、という反対側も並びます。著者らの要約の言葉で、大きさは印字されていません。

同じ抄録から、もう一文——「仕事の特性は現場の研究でより予測的であり、採用担当者の行動、採用過程の特性、採用の見込み、知覚された代替案は、実験室でより大きな効果量を生んだ」。実験室の側に並ぶのは、最後のひと押しの技術としてよく語られるものと、ほとんど同じ顔ぶれです。現場の側は、仕事そのものの中身でした。
1993年の研究は、考えを声に出して記録する方法で、求人票を見た人が何を見ているかを調べました。勤務地と報酬が最も多くの注意を集め、情報の量にも反応した。採用される見込みについての推論も行われたが「後者は面接に進むという決定においてほとんど役割を果たさなかった」。測ったのは面接に進むかどうかで、内定を承諾するかどうかではありません。
01「最後のひと押しの技術には、大きな効果が確かめられている」。大きな効果量が出たのは、実験室で測ったときのほうでした。「技術が承諾を生む」と示した結果ではありません。どこで測ったかで、出てくる大きさが違った、という報告です。大きな数字を見たら、まず確かめるのはそこです。
02「候補者との適合が高ければ、最後の決定でもそれが効く」。知覚された適合は、応募者の魅力については最強の予測子。ところが同じ文が、職の選択については有意でない予測子だった、とそのまま続きます。「適合は関係ない」ではなく、段ごとの書き分けです。
03「その20%は、研究で確かめられている」。確かめられたのは、題名一致検索で0件というところまで。「世界のどこにも無い」とは書きません。書誌の写し間違いも2つ流通します。232研究のメタ分析の第3著者の姓は Kraichy で、Kraft ではありません。併記される交渉の一般書は、1981年の版の目録記録(xiii+163頁)まで。中身は読んでいません。

本文の全文まで読めたのは、6本のうち1本——1991年の研究の作業論文版だけです。読めていないものについては書きません。だから41名・18.0回・6.6回・3.0件は作業論文版の数字で、刊行版で変わっていない保証はありません。
日本の職選択を対象にした査読研究には、行き着けませんでした。読めたのは主に抄録なので、「実験ではない」とも書きません。書けるのは、実験室と現場で出方が違うと抄録が書いている、というところまで。承諾を取る手順も、人を評価する物差しも渡しません。どの原典も、それを測ってはいないからです。
応募者の魅力で最強だった予測子は、
職の選択については有意でない予測子でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。求人1件を6つに仕分けたとき何が起きるかを確かめた研究はありません。採点も、良し悪しの判定もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開く。**公開されている募集要項を1件だけ**選ぶ。日付と、選んだ求人の名前(記号でよい)を書く。
- 02LIST
2012年のメタ分析が扱った予測子の区分を、6つの見出しとして書き写す——仕事の特性・組織の特性・採用過程の特性・採用担当者の行動・知覚された適合・採用の見込み。順位は付けません。
- 03CHECK
求人票を上から読み、書かれている見出しにチェックを入れる。無ければ空欄のまま。多い少ないも、良し悪しも判定しません。最後に、チェックの数と空欄の数を書く。
年代順に。1981年、交渉の一般書。1991年、41名への縦断的な構造化面接。1993年、求人票の読まれ方を調べる。2003年、期限はほとんど効果を示さなかったと報告。2005年、71研究・667係数のメタ分析。2012年、232研究・108,632人のメタ分析が、段ごとの入れ替わりを示す。31年で細かくなったのは、効き目の大きさではなく、どの段でどの条件で測ったのか、という区別のほうでした。
確かめられたのは、三つ。20%の出典の名前が、二つの目録の題名一致検索で0件だったこと。作業論文版が41名・18.0回・6.6回・3.0件(範囲0〜15件)と書き、738回と271回という内訳と数が合っていたこと。標本41では真の相関.2を検出できる確率は.25しかないと、原典自身が断っていたこと。今日残せるのは判定ではなく、求人1件と、6つの見出しと、チェックの数と空欄の数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSオファー設計・クロージング力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

