IN RECRUITING · ISSUE 231

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「候補者体験がよいと、内定の承諾率が38%上がる。」この号が見るのは、その38%が何と何を比べた数字か、です。面接での振る舞い方も、選考の設計の助言も書きません。

この数はある大規模なベンチマーク調査の名前で語られますが、その発表にも、途中の事業者の解説ページにもあたっていません。読んだのは四段さかのぼった先、IBM の研究部門が2017年2月に出した白書の原本だけ。一段目の調査名と三段目の事業者名を書かないのは、確かめていないからです。

白書の一文は"38 percent more likely to accept a job offer (54 percent vs. 39 percent)"(受諾する見込みが38%高い。54%対39%)。括弧の中が本体です。満足した群の54%が受諾し、満足していない群の39%が受諾した。54 ÷ 39 = 1.3846 が「38%高い」の中身で、ポイントなら 54 − 39 = 15。38ポイント上がったのでも、38%改善したのでもありません。

白書は同じ割り算を四か所で使います。推薦は「2倍を超える」(62%対28%。62 ÷ 28 = 2.21)、内定が出なかった2,623人のうち応募前に良い印象を持っていた人の再応募は「80%高い」(45%対25%。45 ÷ 25 = 1.80でちょうど80%)、顧客は「2倍」(53%対25%。53 ÷ 25 = 2.12)。増えた量ではなく、同じ種類の言い方です。

分母も図ごとに別建てです。54%と39%の図の母集団は「内定を得た4,414人」、他の図は最近の応募者7,096人と、内定が出なかった2,623人。4,414 + 2,623 = 7,037 で、7,096 に59足りません〔行方は白書も書かず、この号も推測しません〕。辞退の側にも二つの数(23%と36%)がありますが、群への割り当ては確定できず使っていません。

標本は、2016年に45の国と地域で実施した調査に参加した最近の応募者。査読を経た研究ではなく、前と後の比較でもありません。全文を走査しても、無作為な割り付けの語も対照群の語も出てきません。

(仮ビジュアル)黒枠の大きな鏡の前に立ち、黒いローブ姿で鏡の中の自分と向き合っている女性。石の台には赤いガラスのカップと黒い本
流通する形=承諾率が38%上がる。原典=満足群54%対不満足群39%(内定を得た4,414人のうち)。54÷39=1.3846、ポイント差は15。 Visual: ALIFE

査読の側は、厚いところと薄いところに分かれます。厚いのは、公正だと思ったか、組織を良く思ったか、受ける気になったか、テストでできたか。薄いのは、受諾したか辞退したか。2017年の総説が「効かない」とは言っていないので、両方を置きます。

01「38%」の中身は、内定を得た4,414人のうちの54%と39%。54 ÷ 39 = 1.384615…、小数第2位まで38.46%を、原典は38と丸めます。絶対差は15ポイント。45対25がちょうど80%になることが、四つが同じ割り算だという証拠です。ただし1ページ目の要約の箇条書きだけは括弧を落とします——"People who are satisfied with their candidate experiences are 38 percent more likely to accept a job offer"(受諾する見込みが38%高い)。

022004年の86標本・48,750人。帰結は承諾ではなく「承諾する意図」。抄録は、86の独立標本(N = 48,750)から、肯定的な知覚を持つ応募者ほど、"report stronger intentions to accept job offers"(受諾する意図をより強く報告する)と書きます。意図であって、受諾ではありません。「実際の」が付くのは選考ツールでの成績だけ。全文は未到達で、書けるのは帰結が意図と知覚だというところまでです。

032009年の26標本・3,481人。届いたのは知覚と動機と成績。説明を与える効果を統合したメタ分析です。"experiments and quasi-experiments"(実験と準実験)による26の標本(N=3,481)にもとづき、説明は公正の知覚・組織についての知覚・受検の動機・認知能力テストの成績に影響する、と抄録は書きます。この一覧に、承諾も辞退も入っていません。効果は実験室より現場が大きい、とも。設計を明示する抄録はこの一本だけで、準実験は無作為な割り付けとは限りません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
54対39は内定を得た4,414人のうち・86標本48,750人の帰結は意図・26標本3,481人の効果は知覚と成績。測られた先は、この三つ。 Visual: ALIFE

話を単純にしないための一本を。2017年の総説は、この分野に向けられてきた主な批判に取り組むことから始めると書き、抄録の後半にこう置きます——"There is also solid evidence that applicant reactions have significant and meaningful effects on attitudes, intentions, and behaviors."(反応が態度・意図・行動に有意で意味のある効果を持つ確かな証拠もある)。ここを飛ばして「効かない」とは書けません。

ただし但し書きが三つ。この総説が自分に付けている名は「総説」でメタ分析ではなく、抄録に相関係数も効果量も出てきません。n=145 は投入された標本の数ではなく、2000年以降に発表され見直された研究の本数です。「確かな証拠がある」は著者たちの総括で、新しい推定値ではありません。

01「38%は、承諾率がそれだけ増えた量」。入れ替わるのは、意味です。「38%高い」は54%対39%の割り算の答えで、「38ポイント上がった」でも「施策で38%改善した」でもありません。ポイントなら15。そして要約の箇条書きの一文だけが、その括弧を持ちません。運びやすい形が、いちばん遠くまで行きます。

02「効果は、承諾という行動まで測られている」。入れ替わるのは、帰結です。2004年と2009年の抄録が挙げるのは、好ましい評価と受諾・推薦の意図、そして知覚と動機とテストの成績。この一覧に承諾も辞退も入りません。ただし逆側にも同じ注意が要ります。2017年の総説が行動への効果の証拠もあると書く以上、「だから効かない」とも書けません。

03「1993年の論文が、効果を測った出発点」。入れ替わるのは、種類です。到達した抄録の最初の一文は、公正モデルが、これまでの知見を整理し今後の研究を導く土台として提案される、です。標本の規模も効果量も印字されていません。始まったことと、測られたことは別です。同じ入れ替わりが n=145 にも——145は見直された研究の本数で、標本の数ではありません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
38%は相対差・帰結の一覧は意図と知覚・1993年は提案。入れ替わるのは、この三つ。 Visual: ALIFE

並べた資料は六つ。全文まで読めたのは一つだけで、それは査読を経ていない企業の白書のほうでした。四つは抄録まで。残る一つ、採用と選抜を扱ったハンドブックの章は、版元が自動収集を一律に拒否していて未到達で、中身は一文字も引いていません。

2009年と2017年は著者が二人重なり、独立した二本と数えますが、無関係ではありません。見直した145本の一覧は抄録に無く、2004年と2009年が含まれるとは断定しません。日本の候補者体験を対象にした査読研究には、行き着けていません。だから「体験を良くすれば承諾率が上がる」型の文は、一つも書いていません。

その38%は、54%と39%の割り算でした。
内定を得た4,414人のうちの、二つの割合です。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。選考を書き出したとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ここからはALIFEが提案する入口です。誰も評価せず、相手の意図も推測しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    過去に受けた選考を一つ選ぶ。入試でも審査でも、途中でやめた応募でも。日付と、名前(記号でよい)を書きます。

  2. 02LIST

    接点があった場面を時系列に並べる。応募、返事、日程、面談、結果。各行の右に、感じたことを短く一つだけ。

  3. 03MARK

    感じたことのせいで行動が変わった行にだけ印を付ける。返信を早めた、辞退した——これが行動です。印の付いた行と、付かない行の数を書きます。

15分。採点も、良し悪しの判定もしません。**勤め先や他人を評価する課題ではありません。**書いたものはどこにも投稿しません。思い出していて気持ちが沈む、苦しくなるときは中止を。落ち込みが続く、眠れないときは、信頼できる相談先や、必要に応じて医療・支援の専門家へ。

年代順に並べると、1993年に公正の枠組みが理論として提案され、2004年に86標本・48,750人のメタ分析が意図と知覚を挙げ、2009年に実験と準実験の26標本・3,481人が知覚と動機と成績を挙げ、2016年の調査から2017年に白書が出て54%対39%が書かれ、同じ年の総説が2000年以降の145本を見直します。そして数年のうちに、その二つの割合は38%という一つの数になり、別の調査の名前で回りはじめる。

うまくできているのは、丸め方のほうです。置いていかれるのは括弧の中身で、そこにしか、誰を数えたのかは書かれていない——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは三つ。38%は満足群54%と不満足群39%の割り算でポイント差は15。母集団は内定を得た4,414人。2004年と2009年の帰結に承諾は入らない一方、2017年の総説は行動への効果の証拠もあると書いている。今日残せるのは判定ではありません。書き出した行と、印の付いた数と、付かない数。記録が一つ、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS候補者体験設計力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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ISSUE 230空欄になったのは、落としたからだった。ISSUE 232その出典は、二つの目録に無かった。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。