IN RECRUITING · ISSUE 228

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「候補者の72%が、悪い体験を人に伝える。」よく置かれる一文です。この号が見るのは、その72%が誰のうちの72%か、のほうです。この号は、そのレビューの場の名前を書きません。

よく結びつけられるのは、候補者体験の大規模なベンチマーク調査の発表。ただし、その本文にこの72%はありません。同じ発表の72%は、採用担当の側が、従業員の転職行動を測り予測する技術を今後1年で買う予定だ、という別の話です。指している先が違う。

出どころは2016年のベンダー調査。826人の求職者と374人の人事担当者に、2016年4月11日から29日に尋ねたもの。印字されているのは——悪い体験をした候補者のうち、72%が、その否定的な体験をオンラインで、あるいは誰かに直接、共有している。

三つに分けます。流通する形は「候補者の72%」で、分母が落ちています。原典の形は、分母が悪い体験をした候補者に限定されたもの。同じ資料は候補者の60%近くが悪い体験をしたと書くので、全体では 0.60 × 0.72 = 0.432、およそ43%〔原典は「60%近く」なので概算です〕。三つめが、出どころの取り違え。

さらに、同じ資料の中にもう一つの72%が同居します——雇用主の72%は、1件の応募の審査に15分未満しかかけない。主語が違うので、「72%」で検索すると両方ひっかかる。どちらも査読は経ていません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
流通する形=「候補者の72%」。原典=悪い体験をした候補者のうち72%。全体に直すとおよそ43%(0.60×0.72)。 Visual: ALIFE

分母が落ちるのは、この%だけではありません。公開された従業員レビューを使った査読論文の従属変数は、株式の月次リターン(2019年 Journal of Financial Economics 134巻1号)、企業の職場慣行の変化(2021年 Journal of Accounting Research 59巻5号)、上場前後の従業員満足(2026年 Management Science 72巻6号)、レビューの情報としての価値(2021年 European Journal of Operational Research 288巻2号)。応募率を従属変数にした査読研究にも、「1ポイントで応募率4%増」の一次情報にも、行き着けませんでした。

01「72%」の分母は、悪い体験をした候補者。全体に直すと、およそ43%。別の72%(雇用主の側・審査15分未満)も、150社超・約20万人のベンチマーク調査の72%も、同じ検索で釣れます。三つとも査読を経ていません。

02「星の数」の分母は、誰が書いたか。40,915社・349,550件の内訳は、退職者165,441件・現従業員184,109件。内訳は英国企業を扱った研究の表にあり、165,441 + 184,109 = 349,550 でほぼ半々。2019年 Journal of Financial Economics 134巻1号は、100万件超のレビューと3,906社・2008年6月から2016年6月。時価総額加重で組み、四半期ごとの改善が最大の上位五分の一が、低下した下位五分の一を、翌四半期にわたって月あたり0.74%上回る。差は現従業員のレビューに集中。

03「平均点の変化」の分母は、いつ入社したか。下げていたのは、公開前に入社していた層。2026年 Management Science 72巻6号は、数百万件のレビューと一般化した差の差の方法で、株式公開の前後を調べました。抄録を訳すと——公開のあと満足は下がり、この効果は、公開後ではなく公開前に入社していた従業員によって駆動されている。到達は抄録まで。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
悪い体験をした候補者のうち・退職者165,441と現従業員184,109・公開前に入社した層。まず戻すのは、この三つの分母。 Visual: ALIFE

星の数そのものを調べた研究もあります。2019年 Personnel Assessment and Decisions 5巻3号は、2017年の連邦職員意識調査(回答者407,789人)の機関単位の集約と、同じ機関の公開レビューの評価を突き合わせ、全体評価の相関は .516〔相関係数rは、二つの並びがどれだけ揃って動くかを−1から1で表した数字〕。機関の数27は、到達した抄録に印字がありません。

2022年4月28日付の作業論文(査読誌のものではありません)は、全国的な追跡調査の職務満足と突き合わせました。四つの数字は混ぜません——産業17区分で 0.51(p=0.037)、職種21区分で 0.47(p=0.031)、産業と職種を掛けた309ペアの格子で 0.35。0.44から0.48は満足度ではなく、収入の散らばり(対数収入の標準偏差と四分位範囲)の相関です。

01「評価が上がれば、応募も採用も良くなる」——応募率を測った査読研究にも、1ポイントで4%の一次情報にも届いていない。「1ポイントで4%」の出どころは、そのレビューの場の運営側の記事だけで、数値も文脈も違うもの。近い設計の論文は一つありますが、査読を経ておらず2023年9月に取り下げ、従属変数は求人の再掲載——雇用主の側の行動でした。書けるのは「効果が無い」ではなく「行き着けていない」。

02「星の数は、満足の測定値として使える」——相関は.516で、原典は項目ごとの妥当性は十分には支持されなかったと書いた。「項目ごとには関係が無い」ではありません。十分には支持されなかった、という書き方のままです。上の四つも同じで、0.51と0.47は満足度、0.35は格子を細かくした値、0.44から0.48は収入の散らばり。単位を粗くすると上がり、細かくすると下がります。

03「極端な人しか書かない」——直接に実証した査読研究には行き着けず、むしろ2本が逆の観察を報告している。ここは、事前の予想が外れたところです。株式リターンの研究の標本の記述は——各評価項目の最頻値は3.0。ただし上級経営層だけは1.0で、その項目の平均が低いことと整合する。これで、満足しきった人と不満な人だけが書くという懸念は和らぐ、と続きます。英国企業の研究も、標本は標準的なU字型に従わず、その偏りにさらされる度合いは小さい可能性を示す、と(可能性のまま)。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
応募率は測られていない・.516は全体評価どうし・最頻値3.0には例外がある。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは9点のうち5点。3点は抄録まで、1点は未到達で、読めていないものについては書きません。全文の2点は版元の原本ではなく、2018年7月付の著者公開稿と大学リポジトリの受理稿。測られたのは米国の上場企業・連邦機関、英国の企業、米国のベンダー調査で、日本の従業員レビューの査読研究には行き着けていません。無作為に割り付けた実験は、読めた5点のどれにもなく、残る4点の抄録にも記述がありません。

これは、銘柄選びの話ではありません。月あたり0.74%は、時価総額加重で組んだ二つの群の差で、誰かの取り分でも、これから起きることでもありません。買う・売るの合図に読み替えないでください。評価を上げる方法も書きません。

その72%は、悪い体験をした候補者のうちの72%でした。
候補者全体に直すと、およそ43%になります。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。20件読んで在職と退職を数えたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。組織を評価しません。人も評価しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    公開されている従業員レビューを、どこか1社ぶん20件選ぶ。自分と関係のない組織で。

  2. 02SORT

    1件ごとに「在職中と判別できた」「退職後と判別できた」「判別できなかった」のどれかを記録する。表示が無ければ書きぶりで決め、当否は判定しません。

  3. 03COUNT

    3つの件数を合計し(20になります)、「判別できなかった」が20件中いくつかを1行だけ書く。それで終わりです。

15分。採点はありません。**勤め先や他人を評価する課題ではありません。**どこにも投稿せず、誰にも見せません。判別できた件数は、その平均点をどこまで読めるかの上限で、組織の評価ではありません。**お金や株式の売り買いの判断にも使えません。**苦しくなったら中止、沈みや不眠が続くときは相談先や専門家へ。

年代順では、2008年6月に始まる標本、2019年に株式の月次リターンと妥当性の検証、2021年に企業の行動の変化と情報としての価値、2022年に代表性の点検、2026年に、動いているのは誰かの分解。問いは「株価に効くか」から「何を測っているのか」、「動いているのは誰か」へ移りました。

向きを逆にした研究もあります。2021年 Journal of Accounting Research 59巻5号は、レビューされたあと企業が職場の慣行を改善し、改善は初期のレビューが否定的だった企業と労働集約度の高い企業に集中したと報告します(差の差・抄録まで)。見られることの効果です。

確かめられたのは四つ。72%の分母は悪い体験をした候補者(全体ならおよそ43%)。従属変数に応募率は無し。相関.516でも項目ごとの妥当性は支持されず。349,550件は退職者165,441件・現従業員184,109件でほぼ半々、下げていたのは公開前に入社していた層。査読がほとんど答えない問いほど、実務ではよく引かれる——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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