IN RECRUITING · ISSUE 227

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

自社で働くことの値打ちを言葉にする。その話には、たいてい数字が添えられます。三つの心理的な充足が、エンゲージメントと.60以上で結びつく、と。出どころを追いかけて、行き着けませんでした。

当たったのは2016年のレビューの抄録です。"a meta-analytic review of 99 studies with 119 distinct samples"(99本の研究・119の異なる標本のメタ分析的レビュー)とある一方で、相関係数は一つも書かれていません。

概念の出発点は1990年の論文。サマーキャンプの指導員16名と、従業員45名の建築事務所の構成員16名で、合わせて32名です。相関は六つ印字されていて、「一つも報告されていない」は版面と合いませんが、どれも「エンゲージメントと何か」の相関ではない。有る数と、引かれる数が、別のものでした。

EVP(Employee Value Proposition)設計力が指すのは、値打ちとしてどんな項目を並べるかです。この号が扱うのは項目ではなく、その出発点の研究の規模と、「何を大事にするか」の測り方です。報酬や処遇の水準も、交渉も扱いません。

単位を先に。1990年の1件は一つの経験の記録で、著者が評定した186件が統計の材料です。2017年の1件は、一人の応募者が実際の求人に対して行った選択。企業の1社でも、あなた1人でもありません。

原典自身が、統計の位置をこう書いています——"They did not serve to test the model"(それらはモデルを検証するためのものではなかった)。2017年は「離散選択実験」、2023年は「表明選好実験」と名乗りますが、割り付けの記述は抄録にありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
1件は、一つの経験の記録か、一人の応募者の選択です。企業の1社でも、あなた1人でもありません。 Visual: ALIFE

では、その数え方はどうなっているのか。まずたどったのは、この3本でした。

011990年の論文の土台は、二つの現場の合わせて32名。相関は六つある。本文全文を読みました。標本はサマーキャンプの指導員16名(男性9名・女性7名、20〜35歳。運営は指導員22名)と、従業員45名の建築事務所の構成員16名(男性10名・女性6名)で、16+16=32名。材料は経験の記録186件(86件=40+46と、100件=48+52。現場別は88と98)。相関は二種類。評定者どうしの一致度 r = .89 / .83 / .81(186件のうち36件を別の評定者が評定。無作為な60件の仕分けの97%一致は別の作業)。もう一つは714〜715頁の脚注で、三つの条件が区別できるかの確認——"The correlations were: meaningfulness and safety, .32; meaningfulness and availability, .42; and safety and availability, .57."(.32・.42・.57)。無作為な割り付けはありません。

02「.60以上」の出どころには行き着けず、当たった抄録に相関係数は一つも無い。読めたのは公式抄録までです。99本・119標本は研究の本数と標本の数であって、効果の大きさでも人数でもありません。この抄録に、相関係数は一つも書かれていません。抄録が最後に置いたのは、尺度と方法についての注意でした。

03応募過程に埋め込んだ2017年の実験は、シフトを避ける額を賃金の20%と推定した。同じく公式抄録まで。全国規模のコールセンターの採用過程に離散選択実験を埋め込んだ推定——"The average worker is willing to give up 20 percent of wages to avoid a schedule set by an employer on short notice, and 8 percent for the option to work from home."(短い予告で雇用主が決めるシフトを避けるために賃金の20%を、在宅の選択肢のために8%)。同じ抄録は、求職者の多くが注意を払っていないことも織り込んだと断ります。標本は北米の特定の職種です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
32人と六つの相関・99本と相関の記載なし・20%と8%と裾。まずたどったのは、この3本。 Visual: ALIFE

版面は動きません。動くのは、要約されて手渡されていく途中のほうです。落ちるのは3か所。

01「一つも報告されていない」と読むと六つが落ち、「六つある」とだけ読むと不在が落ちる。この一文は、二段構えでしか正しくなりません。印字は六つ——一致度 .89 / .83 / .81 と、三つの心理的な条件どうしの .32 / .42 / .57。ただしどれも「エンゲージメントと三つの充足の相関」ではありません。前者は二人の評定が揃った度合い、後者は三つを別々に扱ってよいかの確認です。そして「.60以上」は、1990年の本文に一度も出てきません(全文を走査し、0件)。抄録にも相関係数はありません。射程はこの二つで、「どこにも無い」とは書きません。

02「平均20%」を「みんなが20%払う」と読むと、多数は支払おうとしないことが落ちる。流通する形は「柔軟な働き方には賃金の20%の値打ち」。分母も対象も落ちています。原典の対象は「短い予告で雇用主の側がシフトを決めること」を避けることで、在宅は8%という別の数。同じ抄録の、平均の直前の一文——"Most workers are not willing to pay for scheduling flexibility, though a tail of workers with high valuations allows for sizable compensating differentials."(多くの働き手は柔軟さのために支払おうとしないが、高く評価する少数の裾が大きな補償賃金差を生む)。多数は払わず、少数が高く払い、平均はその少数に引っ張られています。

03一つの順位表にまとめると、測り方の距離と標本が落ちる。①仮想の選択。2018年の論文は、選抜性の高い大学の学部生から、仮想的な選択で選好を推定。ただしその選好は、卒業4年後の追跡調査の実際の職選択とも関係していたとあります。②職選択で検証。2023年は、表明選好実験の推定を実際の職選択で検証。③応募過程に埋め込む。2017年は、本人が実際の求人に対して選ぶ場面。三つとも北米の標本。実務へ広めた書籍で実在が確認できるのは2006年刊の一冊(査読なし)、中身は未到達。「2005年刊の別題の本」には行き着けず、5系統は不在の確認ではなく「合法経路で照会できなかった」側。同年刊で実在するのは別の著者の別の書名で、取り違えの可能性——ただし、断定はしません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
「相関は一つも無い」と読む・「平均20%」を「みんなが20%」と読む・一つの順位表にまとめる。落ちるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

射程を書きます。1990年が扱ったのは、二つの現場の合わせて32名から集めた186件の記録。2017年・2018年・2023年が扱ったのは、北米の、特定の職種や特定の大学の標本です。測っているのは賃金と労働条件の引き換えで、入社後の満足でも定着でも成果でもありません。日本の求職者を対象にした同種の推定には当たっていません。

全文まで読めたのは6点のうち1点。ほかは公式抄録が4点、書誌のみが1点で、読めていない中身については書きません。読めた1点も版元原本ではなく紙面スキャンの複製で、引用は崩れの無い箇所から取りました。2017年・2018年・2023年はいずれも米国の支払意思の推定で、独立した三分野の裏づけではありません。

「相関は一つも報告されていない」と読むと、
六つ印字されていることが落ちる。

だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分で値を付けたら何が起きるかを確かめた研究は、ありません。判定しません。誰にも尋ねません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリを開き、いまの職務——過去のものでも、探しているものでも——の**属性を5つ**書き出す。通勤の時間、シフトが決まる時期、在宅の可否。会社の名前も、人の名前も書きません。

  2. 02PRICE

    その5つそれぞれに、**「これが無くなるとしたら、賃金が何%下がっても受け入れるか」**を数値で書く。0%でかまいません。0%と答える項目が出てくること自体が、情報です。

  3. 03TOTAL

    **5つの合計**を出し、その数を見て一行だけ書く。記録は、属性が5つ、%が5つ、合計が1つ、そして一行。現実離れした合計は、順番がまだ決まっていないという観察です。

10分。**判定はしません。**勤め先や他人を評価する課題ではありません。誰にも送らず、提出もしません。どの研究も、あなたの職務の値打ちを測ってはいません。苦しくなったら中止を。働き方のことで気持ちの沈みが続く・強まるときは、信頼できる相談先や、必要に応じて医療・支援の専門家へ。

数字は、引かれるたびに少しずつ形を変えます。皮肉なのは、「無い」と言い切るほうも、たいてい版面を開いていないことのほうです——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは四つ。①「.60以上」の出どころに行き着けなかったこと。②2016年のレビューは99本・119標本を集めた一方、相関係数を一つも書いていないこと。③1990年の論文の土台は32名・186件で、相関は六つ(.89・.83・.81と.32・.42・.57)あるが、どれも「エンゲージメントと何か」ではないこと。④20%は短い予告で決まるシフトを避けるための額で、在宅は8%、多数は支払おうとしていなかったこと。今日残せるのは、属性が5つと、%が5つと、合計と、一行。記録が四種類、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。