IN RECRUITING · ISSUE 226
● 12 SEC「評判が強い企業は、応募数が50%増え、採用コストが43%下がる。2016年の調査で。」——採用の資料でよく見る一文です。この号が見るのは効き目ではなく、その数字がどこに書かれ、何が書かれていないか、までです。
出どころは、その会社自身が公開している統計まとめの資料です。販促用で、査読はありません。「Bottom Line Impact」の枠に並ぶのは4行——離職の28%削減、採用単価の50%削減、質の高い応募者が50%多い、採用までの期間が1〜2倍速い。4行に添えられた出典行は「2011年」の一行だけで、全文でもこの行は1回しか現れません。
43%は、その資料に見当たりませんでした。「43」で走査してヒットは0件。2016年の欄にあったのは別種の数字です——世界の採用の責任者の72%が、雇用主ブランドは採用に大きな影響があると考えている。どう思うかを尋ねた意識調査の項目です。
流通している言い方と一次資料を突き合わせます。①50%は応募数ではありません。あるのは "50% more qualified applicants."(質の高い応募者が50%多い)で、比較の相手も質の定義も無い。②コスト側は43%ではなく、採用単価の50%削減。同じ一つの50%が、応募の側とコストの側の両方に置かれている。③出典行の年は2011年。④何社を何と比べどう測ったのかは、一行もありません。
この号がしているのは、一次資料を書き写して、流通している形との差を数えることだけです。雇用主ブランドに効果があるとも、無いとも書きません。

販促資料の数字が独り歩きした、というだけならここまでです。ところが、根拠として並ぶ査読論文の側では、もう少し厄介なことが起きています。
012003年の論文は、求職者339人で、評判の認知が職の追求に影響したことを支持した。問題は、抄録の最後の一文です。——"reputation advertising did not affect job seekers' reputation perceptions"(評判広告は、求職者の評判認知に影響しなかった)。評判が職の追求と結びつくことと、広告が認知と結びつくことは、別のことです。
02同じ2003年に著者順を入れ替えて出たのは別の論文で、応募者プールそのものを見ている。それまで検証されていなかった信念——評判の良い企業はより多くの応募者を引きつける——を支持。質は「いくつかの証拠が示唆した」で止めます。量は支持、質は示唆どまり——原典が自分でつけた強弱です。材料は二つの公表済みの評判の尺度と、二つの大学のキャリアサービス部門。
032002年の研究の標本は、米国の工学系3校の卒業予定者133名。郵送は1,955通。逐語は "approximately 10% to 13% were returned due to incorrect mailing addresses"(およそ10%から13%が、宛先の誤りで返送された)。返送された封筒の割合であって、回答が返ってきた割合ではありません。計算したのは133÷1,955=6.8%の一つだけで、分母に返送分を含むので下限です。

もう二本。2003年に「組織への魅力」を測る尺度そのものを作った研究は、学部生305名を、5社のうち1社の採用資料に無作為に割り当てた実験室研究です。無作為な割り当てがあるのは、この1本だけ。割り当てられたのは採用資料で、施策そのものではありません。同じ抄録に "no research has systematically examined the assumptions underlying their use"(その使用の前提を体系的に調べた研究は無かった)とあります。
もう一本は1973年の理論論文で、節見出しに Data も Sample も Results もありません(走査して0件)——標本も結果表も持たない理論です。中心は、変えられない属性をインデックス、本人が操作できる特徴をシグナルと呼び分ける区別。折り返せば、採用サイトも受賞の掲示も組織の側が操作できるシグナルに来る——というのが、この号の読み筋です。2016年の総説は、この分野が要素に分けて見る立場と、一つの魅力度に丸める立場の二通りで進んだと整理しています。
01「評判が強ければ、応募が50%増える」——一次資料にあるのは「質の高い応募者が50%多い」で、応募の数ではない。一つの50%が、応募の側とコストの側に置かれています。比較の相手も、質の定義も書かれていません。この号は「43%は嘘だ」とは書きません。「この資料には見当たらなかった」までです。
02「発信すれば、認知が動く」——根拠として引かれる2003年の論文の抄録の最後の一文は、動かなかった、である。認知は職の追求と結びついた(支持)、広告は認知を動かさなかった(不支持)。引用で落ちるのは、後者だけです。ただし、効果が無いことの証明ではありません。求職者339人の標本で関連が観察されなかったという報告で、架空の企業の過去の研究は実在の組織へ一般化できないかもしれない、と同じ文は続きます。
03「1,955通に対する回収は、およそ1割」——「10%から13%」は宛先不明で返送された割合であって、回収率ではない。著者自身が "it was difficult to estimate the response rate precisely"(回収率を正確に見積もることは困難だった)と書き、原典は回収率を出していません。単純に割った6.8%は下限。回収率という語を数字とともに使うのは第2波だけ——133名のうち83名が返送、62%。分母は1,955通ではありません。

本文の全文まで読めたのは、7点のうち3点です。読めていないものについては書きません。査読研究の対象は、求職者339人、卒業予定者133名(1998〜1999年・米国の工学系3校)、学部生305名。日本の求職者を対象にした研究は、範囲に入っていません。
測られているのは、たいてい応募の意図や意思決定であって、入社でも定着でもありません。「こう発信すればこうなる」を組織の側で無作為に割り付けた研究は、到達した範囲にありません。被引用数は、2003年の尺度研究842・同年の実在企業の研究659・同年の応募者プールの研究615・2002年の研究580。「最も多く引かれる一本」は、どの分母で数えるかで動きます。
同じ一つの50%が、質の側とコストの側に置かれている。
添えられているのは、2011年という一行だけです。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。二列に分けたあとに何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、良し悪しは付けません。書き直しもしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリに二列の表を作る。左は「入社前に確かめられる」、右は「確かめようがない」。求人票を1つ選ぶ。過去に応募したときのものでもかまいません。
- 02SORT
属性を一つずつ、どちらかの列に書き写す。勤務地・職種・雇用の形と、雰囲気・成長機会・風通しは、たいてい分かれます。迷ったものは真ん中に置いて印を付ける。
- 03COUNT
最後に、それぞれの列の項目数を数えて書く。残るのは、二列の一覧と、真ん中の印と、両列の数。**どちらの列が長いかを見ることが、この6分の収穫です。**
年代順では、1973年に理論、2002年に133名の調査、2003年に三本。実証の芯は、2003年前後にほぼ揃っています。そのあと2011年の出典行を持つ一行が生まれ、2016年に意識調査と同じ資料に並び、2016年の数字として流通しはじめました。増えていないのは効果の数字のほうです——というのが、この号の読み筋です。
確かめられたのは、四つ。枠の4行のうち二つが50%、出典行は2011年の一行だけで標本も方法も無く、「43」は0件だったこと。2016年の欄は「72%がそう考えている」という意識調査だったこと。2003年の研究が、認知と職の追求の結びつきを支持しつつ広告は認知に影響しなかったと書き、同年の別の論文が量は支持・質は示唆どまりだったこと。2002年の「10%から13%」は宛先不明の返送で、原典は回収率を出していないこと。今日残せるのは判定ではありません。二列の記述と、その数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS雇用主ブランド差別化力を、もっと深く学ぶ。→