IN RECRUITING · ISSUE 225

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「人材の層を分析すれば、採用コストが23%下がる。労働市場を分析すれば、採用期間が30%縮む。」人を採る話は、たいていこの形の数字から始まります。この号は、その二つの出どころを2026年8月に五つの道すじで追いかけ、一次情報には行き着きませんでした。

英語で二通り探し直しても同じで、業界向けの記事のほうは30%・25〜30%・20〜40%と数字自体がそろっていません。「存在しない」とは書けません。書けるのは、行き着けなかった、までです。残るのは、何を何と比べたのかを、出した側が公開していないという一点です。

代わりに出てきたのは、用語の解説でした。総務省統計局の令和4年(2022年)就業構造基本調査にこうあります——「実際に仕事を探したり、準備したりしているかどうかによって、「求職者」と「非求職者」とに区分した。」求職者は、働きたい人ではありません。探す行動を取っている人です。

採用市場機会設計力(talent market opportunity design)が指すのは、どこにどんな人がいて、どこへ向かって出るかの見立てです。扱うのは、その材料の数字が何を数えていたかです。

この号の「1件」は三種類——文献の1本、世帯とその世帯員、事業所の1つ。企業の1社でも、あなた1人でもありません。三つは別々の調査です。

全文まで読めたのは7点のうち3点、残る4点は公式抄録までです。読めていないものについては書きません。どれにも無作為な割り付けはありません。採用は双方向で、候補者も組織を選んでいます。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
1件は、文献の1本か、世帯か、事業所です。企業の1社でも、あなた1人でもありません。 Visual: ALIFE

では、その数え方はどうなっているのか。

012005年の提案には、標本も効果量も書かれていない。中核理論として掲げられる題の論文は書誌データベースに登録がなく、同じ雑誌の同じ巻・同じ号にあったのは別の題の論文でした。読めたのは公式抄録まで、その一文目は "Two paradigm shifts are discussed here: talentship and sustainability."(ここでは二つのパラダイムの転換を論じる。タレントシップと持続可能性である)。効果の推定ではなく、提案です。2003年の基本文献は、査読誌の論文ではなくハンドブックの章です。

022023年の国際レビューは、101件について効果の推定を一つも報告していない。保健と社会的ケアの要員計画のスコーピング・レビュー〔効果の推定をまとめる設計ではない総覧〕です。この号は刊行版の全文を読みました。六つのデータベースから6,894件、重複を除いた6,105件を九人で選別、654件が全文の選別へ回り、最終的に含められたのは101件(6,894−6,105=789件が重複。この引き算はこの号がしました)。うち86件が高所得国(北米・豪州・欧州・英国)のもの、12件は政策・戦略文書です。

03二つの公表統計は、数字ではなく定義に、誰を数えないかを書いている。就業構造基本調査は、日本の全国約54万世帯(15歳以上の世帯員約108万人)を対象に令和4年10月1日現在で実施されました。求職者と非求職者を分ける基準は行動です——求人サイトを見て応募した、職業安定所に申し込んだ、人に頼んだ、派遣事業所に登録して待っている、開業の準備をしている。行動の一覧で、意向の一覧ではありません。労働経済動向調査のほうは、常用労働者30人以上の事業所が対象です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の天板を、灰色のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚が支えているコンソールテーブル
2005年の提案・2023年の国際レビュー・二つの公表統計。まず開いたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

原典の版面は動きません。動くのは、要約されて手渡されていく途中のほうです。

01「23%下がる・30%縮む」を、確かめられた効果として読む。五つの道すじ——求人サービスの公開ページ三つ、統計まとめの資料、一般検索、査読側のレビュー、書誌データベース——のどれにも、23%と30%短縮の出所を示す文書はありませんでした。この二つの数には、書いた人の名前が付いていません。何社のうちの何社か、何と何を比べた差か、分母がどこにも書かれていません。

02「101件の国際レビュー」を、効果の裏づけとして読む。このレビューが数えたのは、文献です。効果ではありません。要員計画の図解にあたる本数は、二通り印字されています。結果の節は "Most empirical research of this review provides workforce modelling illustrations with 58 of the 101 references"(この総覧の実証研究の多くは、101件のうち58件で要員計画の図解を示している)、抄録と考察の節は、総覧の文献全体について66件。指している範囲が違い、二つがどう重なるかは書かれていません。一方を正解にはしません。

03「人手が足りない」を、全部の職場の話として読む。人手不足感の数字は、厚生労働省が常用労働者30人以上の事業所を対象に年4回行う一般統計から出ています。基幹統計ではありません。30人未満の事業所は、その集計に最初から入っていません。もう一方も同じ形で、行動の一覧に当てはまる人が求職者、働きたいけれど探していない人は非求職者です。母集団の定義は、たいてい数字より小さい活字で書かれている——というのが、この号の読み筋です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
23%と30%を確かめられた効果と読む・101件を効果の裏づけと読む・人手不足を全部の職場の話と読む。落ちるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

射程も書いておきます。2023年のレビューが扱うのは保健と社会的ケアの要員計画で、採用一般ではありません。公式抄録までしか読めていない4点のうち、2000年の総説は自分についてこう書きます——"Reviewers have concluded that we still do not know a great deal about why recruitment activities have the effects they do."(採用の施策がなぜそのような効果を持つのかについて、我々はまだ多くを知らない)。2013年の総説も、自分の仕事を選び取った総説と呼びます。

レビューの側は、取りこぼしを二か所に書いています。抄録は、登録されていない働き手が社会的ケアの働き手と同様に十分代表されていなかったと書き、本文の考察の節は、より低賃金の、登録されていない、無償の役割の記述も文献にごくわずかだと書く。助言の側も同じです。「この採り方でうまくいった」と書けるのは採れた側で、落とした候補者のその後は手元にありません。この号は、採れとも採るなとも書きません。

「求職者」と「非求職者」を分けていたのは、
働きたいかどうかではなく、探しているかどうかだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。定義を一行書き写したときに何が起きるかを測った研究は、ありません。ここからは、ALIFEが提案する実践の入口です。人は測りません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリを開く。公開されている労働市場の統計を一つだけ選ぶ。自治体や業界団体の需給の資料でもかまいません。採用の実務に関わっていなくても大丈夫です。

  2. 02COPY

    その統計の「用語の解説」か「調査の概要」を開き、**母集団の定義——誰を対象にした調査なのか——を一行だけそのまま書き写す。数字は書き写しません。**そのうえで、定義の外側に置かれるのはどんな人かを一行書き足す。言えなければ「分からない」で足ります。

  3. 03CHECK

    最後に一行。いま自分が探している(あるいは過去に探した)人が、その定義の内側に入るかどうかを、入る/入らない/分からないのどれかで書く。残すのは、統計の名前、定義、外側、判定の**四行だけです。**

5分。統計の良し悪しも、人も評価しません。**勤め先や他人を評価する課題ではありません。**候補者・同僚・部下・面接の相手を測る物差しにしないでください。書いたものは誰にも送りません。**採否の判断にも、転職の判断にも使えません。**仕事のことで気持ちの沈みが続くときは、この課題より先に信頼できる相談先や専門家へ。

数字は、引かれるたびに軽くなります。確かめられたのは、こうです。23%と30%は、五つの道すじでも英語二通りの確かめ直しでも一次情報に行き着けず、流通している数字も30%・25〜30%・20〜40%とそろっていなかったこと。2023年の国際レビューは6,894件から101件まで絞り、その101件について効果の推定を一つも報告していなかったこと。二つの公表統計は、求職者を探す行動で区分し、人手不足感を常用労働者30人以上の事業所で測っていたこと。

版面は残ります。残らないのは、その一つの数字だけを、誰を数えたかを外して持ち歩ける部分です。今日残せるのは判定ではありません。統計の名前、定義の一行、外側の一行、内側かどうかの一行。記録が四つ、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS採用市場機会設計力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。

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ISSUE 208元の研究は、手元に無い。ISSUE 22643%という数字は、その資料になかった。
ALIFE · ISSUE 225

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。