IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 208

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

研修の資料でよく見かける七段の三角形。上から聞く5%・読む10%・視聴覚20%・実演を見る30%・話し合う50%・やってみる75%・人に教える90%。出どころを探した論文が、2007年に米国の教育学の雑誌 Education へ出ています。上の並びは論文の本文要約で、同じ論文が載せる団体提供の実物図は6段の10・20・30・50・70・90%。別系列です。

論文が引くのは、この数字を掲げる米国の団体の回答です。問い合わせたのは著者たちではなく、別の大学の職員の電子メールでした——"we no longer have nor can we find - the original research that supports the numbers."(その数字を裏づける元の研究を、もう持っておらず、見つけることもできない)。

回答はそこで終わりません。毎月多くの問い合わせがあり、元の研究を探した多くの人が空手で帰ってきた、と続きます。1954年の別の本の43ページにも、少し違う数字の似た図がある、とも。

学習ピラミッド(learning pyramid)と呼ばれるのは、一枚の図ではありません。2018年に Cogent Education へ出た研究は、同じ名前で数も数字も違う版が流通してきた一群として扱います。

この図はしばしば1946年の「経験の円錐」に結びつけられます。2007年の論文は、円錐が示すのは方法の連続した幅で階層ではないと確かめます。2020年に Medical Education へ出た調査は、もう一段——"It is a model only, and has no percentages of learning retention; in fact, it does not reference learning retention at all."(それはモデルにすぎず、学習の定着率のパーセンテージを持たない。実のところ、定着に言及すること自体がない)。

この号が使った6本は文献を数えた調査・起源の調査・総説で、無作為な割り付けのある実験は1本もありません。「この学び方のほうが効く」型の結論は、どこにもありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
もとの円錐は、方法の連続した幅。三角形に積み直された時点で、それは順位表になった。 Visual: ALIFE

では、実際に数えられたのは何か。

012007年、裏づけを探した論文は、信頼に足る研究は見つからなかったと結論した。ただし同じ論文は、どの方法にも定着があり一貫して優れたものは無いとも書きます。否定されたのは七つの割合の裏づけで、方法の有効性ではありません。限界も著者の言葉で——"we will not attempt to ascribe percentages to given methods"(方法にパーセンテージを割り当てることは試みない)。結論の向きは三角形と逆で、背景知識が少ないほど直接教授の側でした。

022018年、起源の調査は、160年以上前から版があり、実証研究から生まれていないと報告した。最古は1852年から1901年の六つの刊行物で、いずれも割合が付いていません。数量化された最古は1906年、1906年から1940年に63件。端数の話もこの論文に——"the peculiarly neat numbers with increments of 10%… seem to originate from conversions of tenth fractions"(10%刻みのきれいな数字は、10分の1系列の分数の換算に由来するように見える)。著者らは、1912年以降に支持する研究がありうるとは認めつつ、探索の結果それは存在しないと確信していると書きます。

032016年、査読論文418本が数字を運び、疑いを書いたのは15本だった。1990年から2013年に、このモデルを運んでいた教育の査読論文418本(教科教育350・その他68)と事典項目11本。疑問や批判を書いたのは15本(うち事典項目1本)。広がりは自然科学8分野・医学17分科・社会科学20領域の42か国。結論は、モデルが不当な(unwarranted)水準の権威を獲得した、と。ただし、著者らの但し書き——"just as likely a reflection of the increasing digitalization and indexation of academic journals"(学術誌の電子化と索引づけの進行を反映した可能性も同じくらい高い)。「増えた」は、そのまま「広まった」ではありません。

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布
2007年の問い合わせへの回答・1852年から1901年の六つの刊行物・1990年から2013年の418本と15本。まず数えられたのは、この3本の文献。 Visual: ALIFE

読み違えやすいのは、3か所です。

01「査読を通っているのだから根拠はある」と読む。査読〔専門家が掲載前に読む仕組み。中身が確かめられたという意味ではありません〕を通った418本が、このモデルを運んでいました。医学教育の文献に限って5年後に数え直した2020年の調査は、初期検索992件を43件・40件・41件と絞りました。「2013年のレビュー」と呼ばれるのは同じ著者本人の先行論文です。医学の論文だけを見れば、過去5年の41本は、1946年から2012年の56年間の43本より多い(今回は看護・歯学・薬学・患者教育を除外)。そして——"new sources that specifically refute the Pyramid now also appear as supporting the Pyramid."(名指しで否定する新しい出どころが、いまや支持するものとしても現れている)。名指しには2007年のあの論文と、著者自身の2013年のレビューが入ります。

02「誤りが指摘されれば消える」と読む。引用の数で調べた2019年の調査。対象は学習ピラミッドではなく、別の俗説です。否定した3本の批判論文を引用した613本(1978年277・1992年140・2000年196)のうち、468本が肯定・105本が中立・40本が否定。原典の比は3本それぞれ、およそ6対1・11対1・34対1(外れ値)。強いのは転用の数——肯定197本のうち189本、103本のうち60本、168本のうち155本が、批判論文をその説を支持するものとして引いていました(足すと404本。こちらの計算です)。主因は引用元を読んでいない・理解していないことに見える、と著者らは書き、同時に、批判に納得した著者は言及を省くとも書きます。「否定は40本だけ」は、「誰も納得しなかった」ではありません。

03「人に教えると90%残る」と読む。教えると理解が進むという経験そのものは、どの資料も否定していません。否定されているのは、それが90%だという数字の裏づけです。順位表という形そのものが、支持されていません。それでも見えるものが一つ。七つの数字が5・10・20・30・50・75・90と並び、すべて5の倍数であること。端数が無いのは、精度が高い徴候ではなく、そもそも測っていない徴候である——というのが、この号の読み筋です。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
査読を通っているから根拠があると読む・批判すれば消えると読む・90%が確かめられた数字だと読む。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは7点のうち6点。読めていないものについては書きません。言語の限定が明記されているのは、6本のうち2本。2016年の研究は英語の刊行物のみを検索に含めた(約200のクエリ)と書き、2020年の調査は出典を英語の査読誌または学会に限ると書きます。2018年と2019年の本文に明示はありません。期間は1990年から2013年、2012年9月から2018年4月、批判論文の刊行後から2018年まで。日本語の資料でどれだけ流通しているかは、何も書いていません。

2012年の総説は、米国だけで組織は個人の訓練に年間およそ1,350億ドルを投じていると書きます。ただし総説自身が2010年の業界の年次報告を引いた数字で、査読を経た研究の値ではありません。その報告に本号は到達していません。

418本が数字を運び、15本が疑いを書いた。
運ばれたのは、数字のほうだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1行を残したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も、良し悪しも付けません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリに、この号を読んで学び方について変えようと思ったことを1件だけ書く。良し悪しは書きません。思いつかなければ「無し」で終わりです。

  2. 02MARK

    その下に選択肢を2つ書き、どちらかに印を付ける。(A)根拠は具体的な数字だった。(B)根拠は言われ方だった。どちらとも言えないならそう書き、(A)ならその数字を思い出せた件数を右に足す。

  3. 03KEEP

    一度だけ読み返し、読み返したという印を付ける。判定はしません。残す項目は、変えようと思ったこと・印・思い出せた件数・読み返しの印の4つだけ。

5分。採点はありません。「無し」が並んでも構いません。**これは、あなたの学ぶ力を測る課題ではありません。**誰かの学び方を判定しない。誰にも見せず、提出もしません。つらくなる場合は、この課題より先に、信頼できる相談先や専門家へ。

確かめられたのは、覚えやすいその形の中身ではありませんでした。——団体自身が、元の研究はもう手元に無いと答えたこと。2018年の研究が1852年から1901年の版と1906年から1940年の63件を数えたこと。2016年の研究が418本と15本を数え、増加は電子化の反映かもしれないと断ったこと。2020年の調査が、否定した論文が支持の出どころとして現れたと報告したこと。

誰も自分の定着率を測れません。だから90%という数字は、反証されないまま長く走れました。同じ理由で、「育った」「学べる組織になった」という判断も走り続けます。この号が最後に置くのは、学び方の正解ではありません。図の中に端数があるかどうかを見る、という一手だけです。端数が無ければ、それは誰かが測った跡ではなく、誰かが整えた跡です。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。