IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 219

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「ヒヤリハットを集めれば、危険に気づく感度が上がる。」よく聞く言い方です。2008年に Management Science 54巻8号へ出た研究は、逆を報告しました。明白な失敗からは学べても、偶然が失敗を回避した出来事——ニアミス——からは学びにくい、と。

参加者(学生と、ある宇宙機関の職員および請負業者)は、ニアミスを生んだ判断をした人と、成功をもたらした判断をした人に、同じような評価を与える。両方の評価は、失敗を経験した人への評価とは有意に異なる〔偶然では説明しにくいほど離れている〕。点がついたのは判断ではなく、判断をした人です。

現場の事故の記録ではなく(機関の名前は伏せています)、水準は個人。組織が敏感になるかを測ったものではありません。読めたのは抄録まで。

抄録は二つの「危なさ」を分けます。認知された(感じられた)リスクと、計算された統計的なリスク。第2の一組の研究では、ニアミスの情報がある人のほうが危険な選択肢を選びました。

最後の一文が重い。分析が示唆しているのは、管理する人々と組織がリスクの認知のほうを下げているのであって、失敗という出来事の統計的な確率を必ずしも更新(下げて)はいない、ということである。「必ずしも」を落とせません。

三つの筋書き(成功・ニアミス・失敗)を読ませて評価させる形で、「無作為に割り付けた」という記述は抄録にありません(走査でも0件)。「集めると感度が下がる」とは書きません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
危なかった側の人は、うまくいった側の人と同じくらいの点をもらった。標本は学生と、ある宇宙機関の職員および請負業者。 Visual: ALIFE

「異常に気づく組織」という考え方は、学術の側で決着していません。その事実は、外へ持ち出されるときにたいてい落ちます。

011994年のある号に、編集の表題と4本がページ順に並んでいる。Journal of Contingencies and Crisis Management 2巻4号。205-206は編集の表題(著者の登録なし)、207-211と221-227は高信頼性組織論の側、212-220は正常事故理論の側、228-240は政治の側から。221-227の題名は文字どおり「再応答」。その2本は同じ研究者で、独立した証拠2つではありません。4本は要旨が無く、書誌の範囲までです。

02よく引かれる1999年の論文は、査読誌の号ではなく叢書の1巻だった。編者が編む Research in Organizational Behavior の1巻。論文自身が——心を配っている状態は、少なくとも五つの過程によって作られるように見える。有効な実践の記述と事故調査から、私たちが帰納したものである〔=記録から一般則を組み立てること〕。効果の測定ではありません。五つ(失敗へのこだわり/単純化への抵抗/運用への感度/回復力への関与/構造の過少特定)は39と40ページにまたがる。

032009年の二本は外へ出ようとしたが、片方は同じ要旨で穴を書いた。Organization Studies 30巻2-3号は、狭い定義・概念のあいまいさ・信頼性と安全の混同・過度に悲観的か楽観的な結論という四つの限界を挙げ、工学からの安全の見方を加えればより生産的な三者の会話になりうる、と私たちは考えると結ぶ提案の形。Human Relations 62巻9号は時間の次元で論争を解決すると書き、直後に逆接を置きます。どちらも要旨まで。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
1994年の同じ号の並び、1999年の帰納、2009年の二本。決着していないことのほうが、書誌の上に残っている。 Visual: ALIFE

1999年の論文の書誌そのものが、資料によって割れています。割れている値のひとつは、この号が開いた刷り物に印字されていました。

全文まで読めたのは刊行版ではなく、のちの論集への再録版。章扉の出典行は、Research in Organizational Behavior 第1巻(1999年)、81-123ページ(発行地と発行元は伏せます)。この「第1巻」は、印字の記録としては正しい。どの巻が正しいかは断定しません。

違うのは隣でした。目次の「44番…31」「45番…67」と末尾の柱「66」で数えると、再録版での占有は31ページから66ページまで。論集自体の巻は第III巻、この論文は第44章。同じ紙に二種類の「巻」と頁番号が並びます。

01「弱い兆しに敏感な組織は、重大な事故が何分の1になる」。全文まで読めた1点(1999年の再録版)の13万9千字あまりを走査すると、百分率の記号も「パーセント」も事故率に当たる語も0件。「統計」は1か所、中身は統計的な工程管理の手法。要旨の3本にも同種の統計は無し(0件)。書誌だけの5点はこの数えに入れていません——うち4本は要旨が存在しません。「どこにも無い」とは書きません。

02「五つの原則は、確立した枠組みだ」。原典が名乗るのは、記述と事故調査から帰納した理論。入れた組織と入れていない組織を比べた形ではない。流通している五つと1999年の五つが同じかは、この号は確かめていません——その本を開いていないからです。

03「もう決着した」も「真っ二つ」も、要旨の内側と合わない。決着を提案した2009年の論文が、同じ要旨にしかし私たちは、この論争の解決が、双方が抱える反証不能性の問題に対処するものではないことを指摘すると続けます〔反証可能性=何が出たら誤りと分かるかを言えていること〕。1999年の論文も両側の批判を同じ頁に並べ——事故は系のあり方から生じると見る側と、低い事故率で続く組織が現にあると見る側——答えの出ていない問いをそのまま置きます。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
倍率の出どころ・帰納であって測定ではないこと・決着の宣言の内側の逆接。読み違いは、この三か所で起きる。 Visual: ALIFE

出典は9点。全文まで1点・要旨まで3本・書誌だけ5点で、1と3と5を足すと9。読めていないものは書きません。その1点も再録版で、刊行版の81-123ページは未読です。

実証は1本、水準は個人。理論の側が扱うのは原子力・航空・宇宙など高い危険の組織で、あなたの持ち場に当てはめられる材料ではありません。逆向きの説明も残ります——事故なく続いた組織だけが「よくできている」として観察される。1999年の論文自身、この分野には一般化に足る一貫性が無いと書きます。安全の判断は、職場の規則と専門家の指示が先です。

何も起きなかったことは、失敗ではなく、成功の側に評価されました。
下がったのは感じ方のほうで、失敗の確率が必ずしも下がったわけではありません。

次の3手も、研究が命じた手順ではありません。書き留めると何が起きるかを測った研究はありません。判定もしません。原因も対策も書きません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日、一瞬「あれ?」と思ったけれど結局何も起きなかったことを1つ思い出す。小さくてよい。組織に属していなければ暮らしの同じ瞬間で。

  2. 02WRITE

    今日の日付を書き、その下に出来事だけを2行以内で書く。原因も対策も人の名前も、危険の判断も書きません。何が目に入っていたかだけ。

  3. 03CLOSE

    いちど読み返して閉じる。何も起きなかったのだから、それで終わりでよい。10分。判定でも報告でもありません。

10分。採点も、仕事ぶりの評価もしません。職場の誰にも見せず、提出もしません。**人事の評価にも、事故の調査にも、安全の判断にも使えません。安全に関わる判断は、職場の規則と、その分野の専門家の指示が優先します。**設備や機器の不具合、けが、健康被害のおそれは定められた連絡先へ。つらくなったら中止してください。

年代順に。1993年、安全の限界を論じた著書。1994年、一つの号に編集の表題と4本が205-206、207-211、212-220、221-227、228-240ページの順に並ぶ。1999年、叢書の1巻に、帰納された五つの過程。2008年、ニアミスを生んだ判断をした人が成功と同じ評価を受ける。2009年、二本が対立の外へ出ようとする。三十年あまりたっても、誰が何を言い返したかはページ番号まで残る。

十六年で決まったのは、どちらが正しいかではなく、決着していないという事実です。確かめられたのは四つ。ニアミスと成功に同じ評価がつき失敗とだけ有意に異なったこと。認知が下がっても失敗の確率は必ずしも更新されないこと。1994年の並びとその4本に要旨が無いこと。1999年の五つが帰納で全文に事故率の統計が無いこと。いちばん正確に記録されたのは事故ではなく論争のほうだ——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではなく、記録が1件だけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。