IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 218

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「不正による被害は、1件あたり平均12万5,000ドル。」よく引かれる数字です。この号が見るのは金額の大小ではなく、その数に付いた名前と、何年の版か、誰に訊いた調査か。株主資本コストの数字も出てきますが、買う・売るの合図は渡しません。

出どころは、公認不正検査士の職能団体の報告書。査読誌ではなく、会員に開かれたアンケート調査です。

2020年版の要約ページには、二つの数が並びます。1件あたりの中央値12万5,000ドル、その横に平均150万9,000ドル。同じ報告書の、同じ集団の数です。12万5,000ドルは平均ではなく中央値で、平均は約12倍のところにあります。

中央値〔金額の順に並べたときの真ん中の1件〕と平均〔総額を件数で割った値〕は、別の要約だからです。桁違いに大きな案件が少数入ると、平均だけが引かれます。取り違えられているのは、どちらを引いたかです。

その平均も、素の算術平均ではありません。統計付録の脚注に——平均の額は、5%でウィンザー化した損失のデータで算出した(上下2.5%の事案に、97.5と2.5パーセンタイルと同じ値を割り当てた)。丸めたあとの値です。

報告書自身の方針も——特に断りのない限り、損失額はすべて平均ではなく中央値で算出している。より控えめで、我々が考えるに、より正確な姿が得られる。同じ節は、統計付録に四分位と平均の額も載ると続けます。

(仮ビジュアル)黒枠の大きな鏡の前に立ち、黒いローブ姿で鏡の中の自分と向き合っている女性。石の台には赤いガラスのカップと黒い本
中央値12万5,000ドルと、5%でウィンザー化した平均150万9,000ドル。同じ集団の、二つの要約が並んでいる。 Visual: ALIFE

食い違うのは、年版もです。12万5,000ドルは新しい版の数として引かれますが、2020年版の数。2022年版は2,110件・133の国で、中央値11万7,000ドル、平均178万3,000ドル(同じウィンザー化の脚注つき)。

流通している一文は、統計量と年版を二重に取り違えています。

01要約ページに、中央値12万5,000ドルと平均150万9,000ドルが並ぶ。標本は125の国の2,504件、2018年1月から2019年9月に調査された事案。2,504件は各集計の分母ではありません。空欄と「分からない」を除くため分析ごとに総数が変動し、10件未満のカテゴリは算出なし。統計付録の「全事案」の行は2,448件。

022022年版は中央値11万7,000ドル・平均178万3,000ドル。標本も年版で違う。2022年版は5万3,118人に開かれた2021年7月から9月の調査で、7,890件のうち2,110件。2020年版は5万1,608人・2019年7月から9月で、7,516件のうち2,504件。77問という数字は2020年版にだけ印字され、統計付録の行は2,046件。

03査読誌の側が測っていたのは被害額ではなく、どんな企業に不備が出るか。779社を調べた2007年の論文の標本は、2002年8月から2005年8月に重大な内部統制の不備を開示した779社。到達は要旨まで。不備はより小さく、より若く、財務的により弱く、より複雑で、急速に成長しているか組織再編を経ている企業で、より起こりやすい。「統制が弱いと業績が悪くなる」は測っていません。要旨に国名の印字はなく、「米国企業」とは書きません。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
2020年版の二つの数・2022年版の二つの数・779社の分析。まず測られたのは、この三つ。 Visual: ALIFE

査読の内側にも、同じことが起きます。779社の論文には2005年3月付の作業論文版があり、標本は261社。別題(のちに2本に分割)、期間は2002年8月から2004年11月、決定要因も違う——「より収益性が低く」が「財務的により弱く」に替わり、「より若く」が加わりました。261社版の要旨には、利益の質の結果も並びます。

資本コストとの関係では、向きが割れます。資本コストを調べた同じ2007年の別の論文は、いくつかの指標では推定値が高いとしつつ、その高さは、企業の基礎的な特性とアナリストの予想の偏りを統制すると消える。平均的には、直接に高い資本コストと結びついてはいないと書きます。2009年の別の学術誌の論文は逆で、他のリスク要因を統制しても固有リスク・システマティック・リスク・株主資本コストのいずれも有意に高く、統制の有効性の変化のあとには50から150ベーシスポイント〔0.01パーセントポイント。0.5から1.5パーセントポイント〕の変化が続く、と。2年をおいて別の雑誌に出た、反論でもない2本。向きを分けたのは、何を統制変数に入れたか。

測られていないものも。「月次の決算の精度と、経営の判断の速さに正の相関がある」という言い方——二つの学術データベースを検索語を変えて当たった範囲では、支える査読論文に行き着きませんでした。存在しないとは書きません。当たったのがその2か所だ、という意味です。到達した7つの要旨にも、決算を締める速さにあたる語は0件。2010年・2011年・2013年の3本が測ったのは制度の費用と利益の質と株価、小さな上場企業で外部の会計士の検査がある開示とない開示の差、当事者2,901人から見た費用と便益。

01「平均12万5,000ドル」——落ちているのは、統計量の名前。同じ集団の、二つの要約です。しかも平均は、上下2.5%ずつの外れ値を丸めたあとの値で、それでも約12倍。報告書自身は、特に断りのない限り中央値を用いると書いている側でした。

02「2022年の調査で分かっている」——落ちているのは、年版。件数も国の数も、中央値も平均も違います。2020年版は2,504件・125か国、2022年版は2,110件・133か国で、総額はどちらも36億ドル超。版が付いてこないのは、査読の内でも外でも同じです。

03「組織一般で失われている額」——落ちているのは、誰に訊いたか。言えるのは、見つかって、調査され、その調査をした人が回答に選んだ1件の分布です(2022年版は2020年1月以降に調査した最大の1件、2020年版は特定の1件)。事案の水準の自己申告データで、組織の無作為抽出ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
統計量の名前・年版・誰に訊いたか。落ちるのは、この三つの注記。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは9点のうち2点——報告書の2020年版と2022年版です。査読のある7本はどれも要旨までで、要旨にないことは書きません。779社の論文と、資本コストの2007年・2009年の論文は同一制度・同時期の開示にもとづき母集団が重なりうる——独立した三つの証拠ではありません。7つの要旨に、無作為な割り付けにあたる語は0件(2010年の「自然の準実験」、2011年の「自然実験」も同じ)。

この号のどの数字も投資判断の材料ではなく、買う・売るの合図に読み替えないでください。勤め先の経理のやり方にも、何も指示しません。金額を見たら、統計量の名前を先に探す。中央値か、平均か。次に年版、最後に誰に訊いたか。——というのが、この号の読み筋です。

「1件あたり12万5,000ドル」は、平均ではなく、金額の順に並べたときの真ん中の1件でした。
そして、引かれている年版の数でもありませんでした。

今日できるのは、自分がどれだけ数字を写しているかを数えてみる、という一手です。数えると、いちばん正確さが要る場所がはっきりします。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    紙かメモアプリに、今日の日付を書く。組織に属していない場合は、家計や買い物の控えなど、自分が扱う数字で。

  2. 02TALLY

    数字を写すたびに、縦線を1本引く。写すとは、ある場所の数字を別の場所へ移す動作——書き写す・打ち込む・貼り付ける・読み上げて伝えるのすべて。回数だけ残します。

  3. 03TOTAL

    1日の終わりに縦線を数え、合計を1つの数として書く。同じ数字を2回以上写したものがあれば、その回数も添える。

10分。採点はなく、誰にも見せず、提出もしません。**誰かの仕事ぶりを判定する課題ではなく、資金の出し入れや株式の売り買いの判断にも使えません。**数字が気になって眠れないときは、この課題より先に、信頼できる相談先や専門家へ。

20年で積み上がったのは、答えではありません。どの数字が何を数えているのかという注記のほうです。注記は、外へ持ち出されるときに、たいてい落ちます——というのが、この号の読み筋です。

確かめられたのは三つ。中央値と、5%でウィンザー化した平均が同じページに並び、その行の分母は2,448件・2,046件だったこと。どちらの年版も、組織の無作為抽出ではなかったこと。779社の論文が測ったのは「どんな企業に不備が出るか」で、261社版とは期間も決定要因も違ったこと。今日残せるのは、縦線の本数と、合計と、同じ数字を2回以上写した回数。記録が1件、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

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本コンテンツは学習目的であり、投資助言や個別の金融商品の推奨ではありません。