IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 215
● 12 SEC縦に「重要」、横に「緊急」。四つの箱に、いまの用事を放り込む。この図には、ある大統領の名前が冠されています。由来とされる1954年8月19日の演説の記録を全文開くと、引かれているのは名前の挙がらない「ある元学長」の言葉で、四つの箱は出てきません。
もう一つ。「四半期ごとに目標と主要な結果を書き出す枠組みで、達成率が平均20%上がる。」出どころとされる2018年の一般書は査読を通っていません。全文を走査すると、「20パーセント」は8か所あり、8か所とも別の話。記号形の「20%」も「20増えた」も0件。
この号が扱うのは、優先順位を付けるという行いが実際には何で決まるか、の一点だけ。何を優先すべきかは扱いません。
記録にあるのは、この一節です。ある元学長の言葉を引きたい——そう前置きして、「私には二種類の問題がある。緊急なものと重要なものだ。緊急なものは重要ではなく、重要なものは決して緊急ではない。」
引用されているのは「ある元学長」で、名前は挙がりません。同じ文のもう一人の学長は、そのとき現職の、会場にいた聞き手。発言者ではありません。
記録を丸ごと走査すると、「マトリクス」「象限」「箱」「四つ」、二かける二の記法は、どれも0件。「緊急」3か所と「重要」5か所は、全部いまの一節と直後の一文に収まります。四つの箱は、後から作られたものです。

20%へ移ります。読んだのは公開保存庫の写しで、奥付は2018年の版と一致(出版社提供のライセンス版ではないので、公表前に正規の版で読み直すことを申し送りに)。
内訳は、昇給の幅が1、週1日を自由な開発に充てる慣行が3、テレビ視聴時間の割合が1、賞与のたとえが1(「120パーセント」の一部)、自己啓発の時間を5%から15%か20%へが1、巻末の索引が1。枠組みで達成率が20%上がる、と書いた箇所はありません。「対照群」も「査読を経た」も0件。
効果の数字は二つ、どちらも他人の分析からの引用です。——70の研究のメタ分析では、目標による管理への高い関与が56パーセントの生産性の伸びをもたらした。関与が低い場合は6パーセントだった。1950年代からある別の枠組みの数字。巻末の注の誌名は書誌の索引に出てきません(正しくは1991年4月の Journal of Applied Psychology 76巻2号322-336ページ。月は合い、誌名だけが違う)。二つ目は、目標を友人へ送った人が43パーセント多く達成したというカリフォルニアの研究。研究名も著者名も本文にありません。
01同じ総額でも、いくつに区切ったかで配り方が変わった。2011年の Strategic Management Journal 32巻13号。記録データで、企業内部の配分が事業単位の数に対し均等へ偏ると示し、続く二つは経験のある管理職への配分実験。要旨は代理人の利害対立の可能性を取り除く方法だと書きます。それでも配分は、部門構造と、集権的か分権的かに応じて体系的に変わった。効果の大きさも標本数も要旨に無し。
02配分と業績のあいだに、一貫した関係はほとんど見いだせていない。2017年の Journal of Management 43巻8号の総説の結論です。原因の一つは、何をもって成功とみなすかが研究ごとに違うこと。「配分は無意味だ」ではありません。文献のレビューで、メタ分析ではありません。
03足場があるのは、四半期の枠組みではなく、もっと手前の層。2011年の Journal of Applied Psychology 96巻6号のメタ分析。具体的で難しい目標は漠然とした目標より集団の成績をかなり高く、d=0.80(±0.35、k=23)、集団の目標全体で d=0.56(±0.19、k=49)。dは差をばらつきで割った値。一般的な目安では0.2が小・0.5が中・0.8が大。kは効果量の数で、研究の本数ではありません(本数は要旨に無く、±が95%信頼区間かも不明)。自分の成績を最大化する個人目標は d=-1.75(±0.60、k=6)、集団への貢献を最大化する向きは d=1.20(±1.03、k=4)、どちらもkがひと桁。相互依存性・複雑さ・参加は効果を調整せず。

流通する説明と一次資料の食い違いは、いつも同じ三か所。外へ出るときに条件が落ちた跡です。
01「緊急と重要の四つの箱は、大統領が示した整理法だ」一次資料で引かれているのは名前の挙がらない元学長の言葉で、四つの箱は出てきません。もう一人の学長は発言者ではなく聞き手です。
02「四半期ごとの枠組みは、達成率が20%上がると測られている」本の全文を走査した範囲に、その記述はありません。対照群つきの査読研究にも届きませんでした。最も近いのは、1社を11件の聞き取りで書いた2025年の事例研究。「存在しない」とは書きません。
03「優先順位を付ければ、限られた手は重要なところへ配分される」実験では、配分は区切りの数と組織の切り方に応じて体系的に変わりました。代理人の利害対立は設計で取り除いてあります。

本文まで読めたのは八つのうち二つ——1954年の演説の記録と2018年の一般書。五つは要旨まで、残る一つ(1991年のメタ分析)は書誌までで、読めていないものについては書きません。2013年と2019年は要旨に実証の値がなく(片方はレビュー)、数値も向きも書きません。読めた七つで「対照群」は0件、「無作為」は本の全文に1件、巻末の注の別研究の題名の中。書誌だけの一つには射程が及ばず、「八つのどれも実験ではない」とは書きません。
国の記載は、要旨まで読めた五つのどこにもありません。だから「米国の」とも「欧州の」とも書きません。分かるのは、複数の事業を持つ企業と、経験のある管理職、架空の企業への配分実験まで。そこで働く人ひとりの手際ではありません。2011年のメタ分析は、現場での最近の実地の研究が著しく不足していると自ら書きます。2017年の総説の著者二人は2013年の実証研究の著者でもあり、独立した二つの証拠ではありません。どの数字も、資金の出し入れの合図には読み替えられません。
その結果はひとつの謎で、配分と、事業単位の特性と、企業の業績のあいだに、一貫した実質的な関係はほとんど見いだせていない。
何をもって成功とみなすかが研究ごとに違うから、と総説は書きます。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは配られた額と区切りの数の関係で、件数を数えたら何が起きるかを確かめた研究はありません。分類も優先順位付けもしません。数えるだけです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
紙かメモアプリに今日の日付を書き、下に**空の欄を二つ**作る。分類も優先順位も書きません。
- 02COUNT
一つ目の欄に、いま抱えているものの件数——作業、返事待ち、いつかやると思っているもの——を数字だけで。中身も名前も書きません。
- 03MARK
二つ目の欄に、そのうち**直近1週間で1度も触っていないものの件数**を数字だけで。緊急かどうかの判定はしません。
年代順に並べると、1954年の演説、2011年の集団の目標設定のメタ分析と同じ年の区切り依存の報告、2013年と2019年の配分研究、2017年の総説。2018年の一般書が広めたのは、このどれでもなく、四半期という区切りと、数字を書く欄でした。
確かめられたのは三つ。演説に四つの箱にあたる語は0件、出てくるのは二語だけ。本の「20パーセント」8か所はすべて別の話で、効果の数字は二つとも孫引き。配分は区切りの数と切り方で体系的に変わる。届かなかったのは、四半期の枠組みの効果を対照群つきで測った査読研究です。七十年で消えたのは条件のほうで、残ったのは四つの箱と、埋めるべき欄でした——というのが、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSリソース配分・優先順位実行力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
