IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 216
● 12 SEC「供給が止まると、株価が4割下がる。」その4割がいつからいつまでの4割か、と、誰がその標本に入っていたのか、のほうです。株価の数字を扱いますが、買う・売るの合図は一つも渡しません。
原典は2005年の学術誌の論文。要旨によれば、標本は1989年から2000年になされた827件の中断の公表、窓は公表日の1年前から2年後まで。この期間を通じた平均の異常収益率〔業種と市場全体の影響で調整した実際の収益率〕が、ほぼ−40%です。
「ほぼ」は原典のヘッジで、外しません。−40%は3年間を通じた平均であって、公表の日の下落率ではありません。
同じ要旨には、もう一つ数字があります。公表の翌年の株式の危険度は、前年と比べて13.50%高い。これも下落率ではありませんが、その危険度が何を測った量なのかは要旨に書かれていません。
そして標本にあるのは827件の中断ではなく、827件の中断の「公表」です。数えられたのは、株価が毎日つく場所にいる企業だけ。
同じ二人の2003年の論文は、519件の公表について、短い窓の株主価値が10.28%異常に減少したと報告します。対象期間は同じ1989年から2000年で、標本に重なりがある公算が高い。独立した二つの証拠としては数えられません。同じ要旨は差が出なかった側も書きます——1995年の前後で市場の反応に差は無い、資本構成(負債と自己資本の比)はほとんど影響しない。規模が大きいほど反応は弱く、成長の見込みが高いほど強い、とも。

流通している数字は、ほかにも二つ。一つは「単一の供給元に頼ると、中断の危険が4倍になる」。出どころとされるのは2004年の実務誌の記事で、査読誌ではありません。読めたのは、いま公開されている範囲(約5,300字)だけ。走査すると「4倍」にあたる言い方は0件。ただし大半は読めていないので、「無い」とは書きません。
もう一つは「供給元の品質管理を体系化した企業は、調達費用が平均12%下がる」という、2015年の研究だとされる数字。著者名も掲載誌も特定できず、追跡の起点がありません。「無い」とも「ある」とも書きません。
012005年の論文が測ったのは、公表された中断のあとの3年間だった。同じ要旨には、企業が中断の悪影響から早く回復するわけではないことを証拠が示している、という一文もあります。ここでいう回復は株価の戻りで、03の「調達の回復の速さ」とは別の量です。
022015年の論文が測ったのは、株価ではなく中断の頻度だった。水平(取引先の広がり)・垂直(段の深さ)・空間(地理的な広がり)の三つのいずれもが頻度を高め、互いに作用して相乗的に増幅すると報告されました。標本の社数と国は要旨に無いので、書きません。回帰の模型による観察で、実験ではありません。
032022年の論文が測ったのは、中断からの回復の速さだった。250万件を超える輸入の積荷目録(企業の数ではありません)から、米国の株式公開企業の回復率を推定。分散の度合いが標準偏差1つ分〔散らばりの幅ひとつぶん〕低いことは16%速い回復、長期の関係が同じだけ高いことは20%速い回復と結びついていました。

その前に、もう二本。2006年の論文は、ドイツで事業をしている企業の経営幹部760人への調査で、供給の脆さそのものを測りました。顧客や供給元への依存、単一の供給元への集中、地球規模の供給源への依存が、供給の危険にさらされる度合いと関わっていた、と。効果の大きさの数値は要旨に無いので、書きません。著者二人は2015年の論文と同じで、順が入れ替わった連作です。
2007年の論文は、著者自身が「この概念的な覚書では」と述べ、成果物は6つの命題。検定された仮説ではありません。ただし同じ要旨は、多重の方法・多重の情報源による実証的な研究設計を用いたとも書きます。深刻さに関わるとされたのは、密度・複雑さ・結節点の重要度の三つと、回復・警告の二つ、合わせて五つ。供給元の絞り込みなどの実務への疑問も、命題であって指示ではありません。
01「供給が止まると、株価が4割下がる」——その4割は、3年ぶんだった。公表日の1年前から2年後までの平均が、ほぼ−40%。公表の日に4割下がった、という数字ではありません。しかも下振れの多くは、公表の前の年から観察されています。下がりはじめは、公表より前にあります。
02「827件もあるのだから、代表的に測られている」——入っていたのは公表のほう。公表しなかった企業も、公表せずに済ませられた中断も、公表する前に消えた会社も入っていません。何が測られたかは、誰が標本に入ったかで決まっています。519件と10.28%の側も、標本は「公表」です。
03「供給元を分散させておけば、中断に強くなる」——頻度と回復は別に測られている。頻度のほうでは、取引先を広げる方向が頻度を上げる側に出ています。回復のほうでは、分散が遅い回復と、長期の関係が速い回復と。同じ「分散」という手が、測る量を変えると逆を向きます。一社に絞れとも、複数から買えとも書きません。

全文まで読めたのは、7点のうち0点です。読めていないものについては書きません。査読のある6本はどれも要旨まで、7件目の実務誌の記事は公開されている範囲だけ。人や組織を無作為に割り付けた実験は、読めた6つの要旨の範囲に1本もありません。中断が先か、値動きが先かは、この材料では決まりません。
証拠は、記録が外から見える組織に偏っています。827件の公表も、米国の株式公開企業も、経営幹部760人も、外から数えられる側にいた組織でした。827件と519件については、原典が国を書いていません。日本の調達を対象にした査読研究にも、到達していません。この号の数字を、買う・売るの合図に読み替えないでください。
下振れの多くは、公表の前の年と、公表の日と、公表の翌年に観察されました。
そして標本にあったのは、中断ではなく、中断の公表です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。外から来るものを書き出したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。調べません。確かめにいきません。代わりを用意しません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
紙かメモアプリに、**今日の日付**を書く。それだけの行です。
- 02LIST
その下に、自分の作業に必要なもののうち、**外から来るものを三つ**書き出す。材料でも、データでも、許可でも、返事でも。取引先や人の名前は書かず、来るものの名前だけを。
- 03MARK
それぞれの右に、「代わりがある」か「代わりがあるか分からない」の印を付ける。**分からないに印が付いても、調べる合図ではありません。**書き終えたら、いちど見返して終わりです。
年代順に並べると、2003年の519件と10.28%、2005年の827件と3年の累積、2006年の経営幹部760人、2007年の6つの命題、2015年の三つの複雑さと頻度、2022年の目録と回復の速さ。20年で移ったのは、測る先のほうでした。株価から、頻度へ、そして回復の速さへ。
確かめられたのは三つ。標本が827件の「中断の公表」で、窓が3年ぶんだったこと。519件と10.28%は対象期間が重なり、独立した証拠として数えられないこと。頻度と回復では、同じ手の評価が逆を向くこと。いちばんよく引かれる4割が、いちばん長い時間を測っていた——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではありません。外から来るものが三つと、その印と、見返した記憶。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS調達・外部連携プロセスの品質を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

