IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 212

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「測定できないものは管理できない。」「指標が目標になると、良い指標ではなくなる。」——仕事の流れを測る話は、たいていこの二つから。この号が見るのは、測り方ではなく、その標語の出どころです。

一つめ。帰属先とされる著述家の名を冠した研究所の公開ページは、逐語(和訳)で——この言い回しは彼に帰属させられている。ただ一つ問題がある。彼は実際には一度もそう言っていない。その記事は発行元ではもう読めず、読んだのは保存版です。

もう一方の研究所の公開ページは、本人の一文を引きます。逐語(和訳)は——測れないものは管理できない、と考えるのは誤りである。高くつく神話だ。流通している標語は、この一文からの直接の引用で、元の一文を読むと逆のことを言っている——と、同じページが自分で説明します。

どちらの公開ページも査読誌ではなく、書いたのは寄稿者です。後者が引いた一文の出どころは書名だけで、走査した範囲に年も版もページも印字がありません。だからこの号も、年を書きません。

二つめの標語のもとは1975年の会議論文。この号は、その原典に到達できていません。読んだのは2001年の解説論文が引く形で、どちらも査読誌ではなく、その謝辞には原典の著者本人がいます。逐語(和訳)は——観測された統計的な規則性は、制御の目的で圧力にさらしたとたん崩れる傾向がある、という当法則を無視して。角括弧で抜けていた挿入句で、論文の主旨ではない〈冗談めかした〉余談だった、と同じ解説は書きます。指標も目標も、この原文には出てきません。

いま流通している言い回しは、1997年の、英国の大学の評価制度を扱った人類学の論文から、とよく言われます。当たった三つの経路で、「尺度が目標になる」「良い尺度ではなくなる」にあたる語句はどれも0件。「その論文には無い」ではなく、当たった範囲では見つからなかった、です。辿った先は、二回とも別の名前でした。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
一方の研究所は「彼は実際には一度もそう言っていない」と書き、もう一方が引く一文は、その標語を「高くつく神話」と呼ぶ。 Visual: ALIFE

出どころのはっきりしている一次は、七十年前。1956年の240〜247ページの論文で、版面まで読めたのは、これだけです。

011956年の論文は、単一・複数・複合のどれにも望ましくない帰結がある、と結んだ。240ページで、量的な尺度は道具であり疑いなく有用だ、と前置きしたうえで、治療のほうが病より悪いこともある、と続きます。分類は240〜241ページ、結論は247ページ——単一であれ複数であれ複合であれ、組織全体の業績に望ましくない帰結を持つと見られる。まとめれば避けられる、という順序では読めません。

022006年の論文は、三つの古典的な操作反応の型が同定できる、と示唆する。対象は、1998年に英国で始まった、目標による公共サービスの管理。材料は文書資料と高官への聞き取り。要旨が書くのは、三つの型が同定できると著者が示唆する、まで。本文に未到達なので、三つの名前は書きません。要旨は、中央の管理者たちが業績データの確認に資源を投じなかった、とも書きます。

032009年の研究は、仮説とされてきた逆機能の証拠は見つからなかった、と報告した。対象は英国の公的医療の、患者を4時間以上待たせないという目標。逐語(和訳)は——イングランドの155すべての病院トラストのデータで、2003年から2006年に劇的な改善が見られ、この目標について仮説とされてきた逆機能のいずれにも証拠は見つからなかった。155は病院トラストの数で、患者の数ではありません。2006年の論文とは同じ制度をめぐる別の位置で、独立した二つの証拠ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
1956年の三分類と全称の結論・2006年の三つの型(名前は書けない)・2009年の155トラスト。まず読んだのは、この3本。 Visual: ALIFE

もう一つ。「測られていると、人はよく働く。」——もとは1920年代の工場の照明の実験で、明るくしても暗くしても産出が上がった、と要約されてきました。2011年の論文がその元データを再分析します。刊行版の要旨は二文でひと組——既存の記述はまったくの作り話であることが判明した。より微妙な形での、あり得る効果の現れは、確かに見いだされる。

本文まで読めたのは2009年の作業論文版で、文言も少し違います。要旨に無い観察も——照明を変えた月曜に産出は上がるが、変えなかった月曜にも同じ型が出る。照明の日にではなく、月曜だから上がっていた。

01「本人は言っていない」を、「その人は測定を軽んじていた」と読み替えない。否定されているのは標語のほうです。同じページは本人の記述も引きます——仕事には説明責任と期限と結果の測定が含意される、人との関係は測ることも定義することもできない。さらに1956年の論文は、「複数の指標」の代表例として、名を貸したその著述家が1954年に挙げた八つの領域の一覧を引きます。名を貸した人は、七十年前の論文では「多面的に測れ」の側にいました。

02「指標を入れれば、必ず数字の作り方が変わる」——155すべてを見ても、証拠は出なかった。「証拠は見つからなかった」は、「起きない」ではありません。著者ら自身が、どういうときに現れどういうときに現れないかを論じて要旨を締めます。2012年の総説は、会計・オペレーション・戦略の76本を精査し、帰結を人の振る舞い・組織の能力・業績に分類して、食い違いと空白がある、と書きました。統合された一つの効果の値は出していません。

03「作り話だった」で止めると、「効果は無かった」に反転する。刊行版の要旨は二文でひと組。版のラベルも外せません。作業論文版は、働き手が自然の光の変動より実験的な操作に鋭く反応するという弱い証拠を一つ残しました。「無かった」でも「あった」でもなく、「弱い」です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
言っていない=軽んじたではない・見つからなかった=起きないではない・作り話だった=無かったではない。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは11件のうち5件。残る6件は要旨までで、1975年の原典には要旨にも届いていません。読めていないものについては書きません。測られたのは英国の公共サービスと公的医療、米国の1920年代の工場、刊行された実証研究。水準は組織です。無作為に割り付けた実験は、読めた5件のどれにもありません。

これは、指標を入れよ・やめよ、という助言ではありません。書けるのは、標語の出どころがどこまで辿れて、どこで止まったか、です。

単一でも、複数でも、重みづけて一つにまとめても。
七十年前の論文が書いたのは、そのどれにも望ましくない帰結があると見られる、でした。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。数字を一行書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ここからは、ALIFEが提案する実践の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日どこかで目にした数字を一つ選び、それが何の数字かを1行で書く。件数でも家計でも歩数でも。**誰かの仕事ぶりや評価は選びません。**

  2. 02ASK

    その下に、これが上がると何が下がりうるか、を1行書き添える。思いつかなければ「思いつかなかった」で終わりです。

  3. 03FILE

    その2行に日付を添えて、手元に残す。それで終わりです。誰かに見せる前提では書きません。

3分。採点も、当たり外れもありません。**誰かの仕事ぶり・評価・査定は書かず、誰にも尋ねません。**勤め先の指標を判定する課題でもありません。数字で見られていることが気になって眠れないときは、この課題より先に、信頼できる相談先や専門家へ。

確かめられたのは、一方の研究所が「彼は実際には一度もそう言っていない」と印字していること。同じ標語が、それを「高くつく神話」と呼ぶ一文からの切り出しだったこと。標語の便利なところは、出どころを訊かれないところにある——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、数字が一つと、下がりうるものの一行。記録が1件、残るだけです。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。