IN BUSINESS PROCESS · ISSUE 210

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「役割をはっきりさせれば、速くなる。」これほど反論の出にくい助言はありません。この号が見るのは、その一文のどこが測られてきたか、です。

流通する数字は二つ。「期待を知っている働き手は生産性が最大2倍」の出どころは、発行元の公開ページ2つと査読誌の索引の範囲になし。「割り当てを表にすれば遅れが消える」を比べる相手の集団を置いて確かめた査読論文も、索引を四つの言い方で引いた範囲になし。探し方は限られています。「無い」とは書きません。

では、何が測られてきたのか。2008年のメタ分析です。

統合されたのは169の独立した標本、のべ35,265人。効果量374、出どころは刊行された104本と未刊行の33本の博士論文——合わせて137本。169は標本、374は効果量、137は研究、35,265は人の数で、足し合いません。

表のkは研究の本数ではなく標本の数。本文は同じkを「研究の数」と説明していて、原典の中で用語が食い違います。探した範囲は六つの文献データベース、1975年から2002年、各50語超。169の標本の15%を別の担当者が付け直した一致度は.90超。

補正は標本誤差と測定の信頼性の低さに対するもので、観測値と補正値の両方が印字されます。役割のあいまいさは観測値−.20、補正後−.24(114の標本・22,258人、95%信頼区間−.21から−.16)。−.24は、二つがどれだけ一緒に動くかを−1から1で表した数字。マイナスは「あいまいさが大きいほど出来の評価が低い」向き。目安では小さいの側です。状況的な制約は観測値−.19、補正後−.24(8の標本・1,915人、−.29から−.05)。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
169の標本・のべ35,265人。役割のあいまいさは補正後−.24で標本114、状況的な制約も−.24だが標本は8。 Visual: ALIFE

補正後はどちらも−.24。けれども標本は114と8、人数は22,258と1,915で、14倍以上違います。同じ論文は、1993年の別のメタ分析が状況的な制約に−.05を報告して一致せず、理由の候補は「どの研究を入れるかの決め方」だとも書きます。同じものを測ったはずの値が、−.05と−.24に分かれます。

01あいまいさと出来の関連。個人の水準で、補正後−.24。ひとつの標本は23人から1,005人、平均209人(ばらつき157)、英語圏の国の組織が88%、回答率は報告された100本で15%から100%・平均66%、年齢は報告された72の標本で平均36.5歳。質問票に答える余裕のあった人たちです。

02物差しを替えると、関係の大きさが変わる。予測どおりに。この分野の標準は1970年の質問紙。広まりの数字は孫引き——1985年の別のメタ分析が「統合した研究の85%はこれを使っていた」と報告している、と2008年の論文が引きます。相関は、その質問紙で78の標本・14,389人の−.18(−.20から−.17)、それ以外の尺度で22の標本・4,615人の−.23(−.25から−.20)。役割の葛藤は81の標本・16,316人の−.06(−.08から−.04)対16の標本・3,419人の−.13(−.17から−.10)、群の差は確かめられています(p ≤ .05)。結果を見る前に立てた予測どおりでした。(尺度を分類できた標本だけの表で、78+22=100も81+16=97も表の114・112に届きません。)

03決め方の側を測ると、三つが同時に動く。読めたのは要旨まで。2012年の研究の材料は、投資信託609本の15万件を超える銘柄選択の判断(要旨に国の記載はありません)。"increasing the consensus threshold required by a committee… leads to more omission errors, fewer commission errors, and fewer approved projects"——求められる同意の水準を上げると、見落としの誤りが増え、通しすぎの誤りが減り、承認される案件は少なくなる。動かしたのは「決める人の数」ではありません。トレードオフであって、改善ではありません。水準は組織です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
あいまいさと出来の関連・物差しを替えると小さくなる・同意の水準を上げると三つが同時に動く。まず測られたのは、この三つ。 Visual: ALIFE

別の角度を三つ。2011年のメタ分析は42本の研究をまとめ、あいまいさと葛藤が職務の範囲外での助け合い(組織市民行動)と負に関連したと報告。関係は、助け合いの向き先・組織の種類・評価者・刊行の有無の四つで変わります。役割の過負荷は逆に、助け合いと正の直接の関係を持っていた。

2006年のメタ分析は要旨の冒頭29語(およそ300本の論文の文献レビュー)までで、数値も向きも引けません。2026年の六十年分の統合は書誌まで、2012年の論考は概念の仕事です。

01「期待を知っていれば2倍」——倍率の出どころに行き着けなかった。2010年の研究は10の大規模組織にある2,178の事業単位の長期データ。要旨は"found evidence supporting the causal impact"(働き手の認識が業績指標へ及ぼす因果的な影響を支持する証拠。逆向きの因果もあったが、より弱かった)。無作為な割り付けではなく観察のデータで、示されたのは倍率ではなく向きの強弱。水準は事業単位。しかも著者5名のうち4名が、その調査を出している会社の所属です。

02「悪い」から「良くなる」へ——ここに、まだ一段あります。測られてきたのは「あいまいだと出来が落ちる」の側。断絶を言うのは2008年の論文自身です——"the effects of stress interventions on individual performance and organizational effectiveness have hardly been investigated"。介入は、緊張感と仕事の質の知覚には有意な効果が見つかっている(2001年の別のメタ分析)。けれども個人の遂行と組織の有効性への効果は、ほとんど調べられていない。「まったく」ではなく「ほとんど」です。同じ節で著者ら自身は、あいまいさや状況的な制約を優先すべきだ、と書いています。含意であって、測った結果ではありません。

03「速くなる」——測られた「出来」は、速さではない。2008年の論文が測ったのは職務遂行。並ぶのは自己評価、上司の評価、客観的な指標、質と量の評価で、時間を測った行はありません。並べられた7種類のうち「役割」が付くのは三つだけで、「最も強く負」と並んだ一方は、役割の語が付かない状況的な制約でした。分担の表を書き替えても、道具や情報や時間の不足は動きません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
2倍の出どころに行き着けない・「悪い」と「良くなる」のあいだの一段・測られた出来は速さではない。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは七本のうち一本。読めていないものについては書きません。測られたのは標本の88%が英語圏の組織という一本、投資信託の判断、事業単位で、水準も個人・組織・事業単位とばらばら。小さい商い、非営利、行政、家業がどれだけ入っているかは、数えられる形では書かれていません。

人や組織を無作為に割り付けた実験としての報告は、その一本の中にありません。統合に現場実験が含まれることは原典が書いており、169の標本の一つひとつは開いていません。使ったのは承認された案件の数と二種類の誤りの向きだけで、収益率も株価も費用も出てきません。銘柄選びや売り買いの判断に読み替えないでください。

最も多く使われてきた質問紙で測ると、78の標本で−.18。
それ以外の尺度で測ると、22の標本で−.23でした。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。訊きません。確かめに行きません。評価もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日、「これは誰が決めるのだろう」と思った場面を1つ、何の判断だったかを1行で書く。思わなかった日は「無し」で足ります。

  2. 02MARK

    その問いが解けたのか、解けないまま流れたのかを書き添える。誰が決めたかも、良し悪しも書きません。

  3. 03NOTE

    解けた場合だけ、どう分かったかを1語添える(決まりにあった/前もそうしていた/自分で決めた)。**解けなかったと分かることが、今日の収穫です。**

3分。採点はなく、誰にも見せず、提出もしません。**上司や同僚の評価にも、職場での申し立てや人事の資料にも、銘柄や売り買いの判断にも使えません。**気持ちの沈みや眠れない状態が続く・強まるときは、この課題より先に医療・支援の専門家へ。

七つを補正後の値と分母つきで——役割のあいまいさ−.24(114の標本・22,258人)、役割の葛藤−.10(112・23,400)、役割の過負荷−.08(40・8,298)、仕事と家庭の葛藤−.12(12・3,435)、雇用の不安定−.19(11・2,912)、環境の不確実性−.11(5・1,226)、状況的な制約−.24(8・1,915)。過負荷だけは95%信頼区間が−.10から.01で0をまたぎ、明確な差があったとは言えません。

確かめられたのは三つ。169の標本・35,265人・374の効果量・137本の研究の統合。あいまいさも状況的な制約も補正後−.24だが、分母は114と8。1970年の質問紙だと−.18、それ以外だと−.23で、差は予測どおり。分担の表が埋まっても、答えているのは「誰が手を動かすか」まで。「手を止めるかどうかを誰が決めるか」の欄は空いたまま残る——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS役割・責任の明確性を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。