IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 207

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

外から知識を取り込む力を吸収能力と呼びます——外の知識を取り込める量は、すでに中にある関連した知識の量で決まる。外を見ようという号令は、効く相手には要らず、要る相手には効かない——というのが、この号の読み筋です。

この号が見るのは当否ではなく、それを支えている数字です。原典は1990年の論文。定義は「新しく外にある情報の価値を認識し、それを取り込み、商業的な目的に応用する企業の能力」。

ところが、実証の段で数字になっていたのは別のものでした——"The dependent variable, R&D intensity, was defined as company-financed business-unit research and development expenditures, expressed as a percentage of business unit sales and transfers over the period 1975 through 1977."(従属変数である研究開発集約度は、自社が負担した事業単位の研究開発支出を、1975年から1977年の売上および移転高に対する百分率と定義した)。研究開発費を売上で割った割合、しかも従属変数=説明される側です。

吸収能力そのものは、手前に仮定として置かれます——"we assume that R&D not only generates new knowledge but also contributes to the firm's absorptive capacity"(研究開発は新しい知識を生むだけでなく、企業の吸収能力にも寄与すると仮定する)。そして、学習の誘因への研究開発活動の反応の良さを、その実証的な重要さの指標とみなす、と続きます。仮定して置き、反応から読む。

標本は米国の製造業の151事業分野・318社を代表する1,719事業単位、水準は個人ではなく事業単位です。推定は3通り、表の見出しは最小二乗法と一般化最小二乗法がN=1,302、トービット分析〔ゼロが多い変数のための推定法〕がN=1,719。24%ほどの企業が少なくとも1年は研究開発をしておらず、その分だけ分母が動きます。

分析結果の表の脚注は、同じ二人の1989年の論文からの再掲。2006年も導入元を1989年の側に置きます。この号は、その1989年の論文には当たっていません。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
同じ資料が、片方では引っかかり、片方では素通りする。引っかかる相手のほうが、先に要る。 Visual: ALIFE

この概念の数字は、どこまで開かれているのか。まず開いたのは、この3本です。

011990年の原典は吸収能力を仮定として置き、数字にしたのは研究開発費を売上で割った割合だった。実証の側は1975年から1977年の米国の製造業で、水準は事業単位。無作為な割り付けはありません。「random」の走査で出るのは「情報の流れがいくぶんランダムであるとき」の1件だけ、「対照群」は0件。

022006年の読み直しは14誌289本を分類し、儀礼的な引用が225本(78%)、拡張・精緻化は4本(1.4%)だった。選んだのは、1991年7月から2002年6月に吸収能力論文を5本以上載せた学術誌。逐語は "only 4 of those (1.4 percent of the total set) extend or refine the construct"(拡張または精緻化しているのはわずか4本、全体の1.4%)。五つの限定的な前提が実体化と研究の停滞を招いた、というのが結論。効果を測った研究ではありません。

032009年のスペインの2,265社では、外からの知識と下地の掛け合わせの項が正で強く有意だった。データは2000年と2002年の企業革新調査(従業員10人超・55の2桁部門・回答率92%)。パネルは約4,000社、3,986社のうち革新に資源を投じた2,265社が対象、水準は企業。吸収能力は、社内の研究開発費・常設の研究開発部門・研究開発人員への訓練・研究者比率の四変数の主成分〔共通部分を一つの数にまとめたもの〕、外からの知識も七つの情報源の主成分。掛け合わせの項は新製品の売上比で0.47(t=4.08、1%水準)、革新の有無で2.70(z=18.66、1%水準)。三重の項は、変化の速い部門で0.18(3.36)と0.92(5.99)、権利保護の強い部門で0.08(2.75)と0.10(1.70)、後者の0.10だけは10%水準です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
1990年の原典・2006年の読み直し・2009年のスペインの調査。まず開いたのは、この3本。 Visual: ALIFE

原典の文は動きません。動くのは、要約されていく途中です。消えやすいのは3か所。

01「能力そのものが測られた」と読むと、原典が仮定として置いたことが消える。1990年の論文は反応の良さを指標とみなすと書き、2006年は同じ手続きを「1989年でも1990年でも研究開発集約度として操作化した」と呼び、2002年の一覧表は両方を並べます。内側からの説明と、外側からの呼び名。2006年も、両側の操作化の類似が妥当性に疑問を投げかけると書き、2009年は同じことを自分について書きました——"In particular, we have no direct measure for absorptive capacity."(私たちは吸収能力の直接の測度を持っていない)。革新過程の投入にも、同じ四変数が入ります。

02「その後きちんと詰められた」と読むと、2002年が提案であること、2010年の「不明のまま」が消える。2002年は概念を潜在的(獲得と同化)と実現された(変換と活用)に分け、比を効率因子と呼びます。ただし置かれているのは命題1から7(7a・7bを含む)——提案であって、効果の検証ではありません。対照表は従来の見方を「単一の因子成分」と要約。2010年の総括は20年後に食い違いを三つ挙げ、三つ目が "the emergence of absorptive capacity ... remains unclear"(個人・組織・組織間の先行条件から吸収能力がどう立ち上がるのかは不明のままである)。

03「引用が多いから中身も検討された」と読むと、割合と、著者自身の断りが消える。内訳を原典の順に。副次的な引用が225本(78%)、うちどの次元にも触れないものが94本(32.5%)。それを超える使い方が64本(22%)、うち拡張・精緻化が4本(1.4%)。三つの次元すべてが70本(24%)、獲得の次元だけが47本(16%)、次元に触れないものが101本(35%近く)、能力とも資源とも述べないものが120本(41.5%)。ほぼ80%が儀礼的な引用。断りも同じ節に——"to make this a conservative test of reification"(範囲を広く取る寛容な定義なので、実体化の保守的な検定になる)。実質的な貢献は289本のうち19本ほど、実証ではさらに少ない。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
能力そのものが測られたと読む・その後きちんと詰められたと読む・引用が多いから検討されたと読む。消えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

6本のうち、何かを測った研究は2本だけです。1990年の分析と、2009年のスペインの調査。水準は企業か事業単位で、残る4本は文献の分類、再定義の提案、総括、書誌計量。個人が何をどう受け取ったかを直接測ったものも、無作為な割り付けも、本文まで読めた5本と2010年の抄録の範囲には1本もありません。

全文まで読めたのは6点のうち5点。読めていないものについては書きません。出どころも重なります。2006年が「拡張・精緻化した4本」に挙げたうち、1本の著者はその読み直しの筆頭著者、もう1本は2010年の総括の筆頭著者、さらに1本は2002年の再定義そのもの。2017年の書誌計量が25年分(1990年から2015年)から五つの流れを描いた336本と2,088本も選抜の規則が違い、後者は2010年の総括にしたがった数え方です。独立した6本ではありません。

数字になっていたのは、研究開発の支出の割合だった。
吸収能力そのものは、その手前に仮定として置かれていた。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは企業の会計と調査票の数字で、1行を書いたら何が起きるかを確かめた研究はありません。判定も採点もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリを開き、**直近1か月で外から入れた知識を1件だけ**書く。記事でも、聞いた話でも、動画でも。仕事の話でなくて構いません。書くのは、その名前だけ。

  2. 02TRACE

    その下に、もう1行だけ書く——それが分かったのは、自分の中にすでに何があったからか。**思い当たらなければ「思い当たらない」と書く。**下地が無かったのではなく、まだ探していない、という意味。

  3. 03MARK

    その1行に「前から知っていた側」「初めて知った側」の印を付ける。それで終わり。記録するのは、入れた1件・引っかかった相手(または思い当たらない)・印の3つだけ。

3分。採点はありません。**これは、あなたの学ぶ力を測る課題ではありません。**この号のどの資料も、外から取り込めた量を人の能力の指標として扱っていません。同僚や部下に書かせない、誰かの書いたものを判定しない、組織のやり方や研修に口を出さない、誰にも見せず提出もしない。下地が何も無いという考えばかりでつらくなるときは、信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

知っているほど学べる。言われてみれば、その通りです。確かめられたのは当否ではなく、根拠の側でした。数字は研究開発費を売上で割った割合、その表は1989年の論文からの再掲。289本のうち拡張・精緻化は4本。2002年は提案、2010年は20年後に「不明のまま」。2009年の0.47と2.70の隣には「直接の測度を持っていない」。

下地が効く、という向きは残ります。残らないのは、その下地を研究開発費の割合だけで代表させてよいという部分です。——中身をよく知らない読み手ほど、元の定義に引っかからず通り過ぎる。素通りした量が、そのまま引用の数になった——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではなく、記録が1件です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS外部知識の獲得・統合を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。