IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 203
● 12 SEC育成の資料でよく見かける一文があります。実践コミュニティへの参加が、個人の学びと組織への帰属を同時に高める。添えられる代表文献は、たいてい1998年の著作——大学出版局から出た書籍です。
2005年の比較レビューは、この語を広めた四つの著作を読み比べています。1991年に二つ、1998年に一つ、2002年に一つ。四つのうち三つは書籍で、学術誌の論文は1991年のもう一方だけでした。
抄録によれば、語の曖昧さこそ再利用可能性の源泉で、四つの捉え方はいちじるしく異なる。同じ名前は、同じものを指す証拠になりません。
同じ関心を持つ人たちが関わりあうなかで知識と熟達を深めていく集まり——この説明は2002年の著作の定義で、2023年の系統的レビュー〔決めた手順で文献を集めて数え直した研究〕が引くのと同じ文です。問題は、その外側。
四つが中心に置いたものは別々です。1991年の一方は新参者が徒弟修業のように知へ社会化される過程、もう一方は管理に抗う隙間の集団の即興。1998年は共同の企てのなかの非公式な関係で、焦点は個人のアイデンティティ。2002年は経営の側への移動——概念の根本的な定義しなおしです。
違いは表にもなります。表の行は七つで、抄録の軸は六つ。表にしかない七行目は著作の性格——短い研究書、経営者向けの論文、本一冊分の理論の展開、実務の手引き。同じ語の下に、研究書と論文と手引きが並びます。

では、その語のもとで集められた集団は、どこまで数えられているのか。まず調べたのは、この3本。
012005年の比較レビューは、四つのどの版に対してかを位置づけるべきだと結論している。効果を測った研究ではなく、読み比べです。結論の逐語は"It is therefore essential to position any use of the concept clearly in relation to one of these versions."(いかなる使用も、これらの版のどれか一つに明確に位置づけることが不可欠である)。著者は、その曖昧さこそが多くの実践コミュニティが失敗する理由の鍵かもしれない、とも(観察ではなく推測)。
022009年の系統的レビューは、医療分野で量的分析の適格基準を満たす論文は1件も無かったと報告している。検索で1,421件、この語に関係するもの303件、一次研究として同定されたのが182件。精読は経営分野18件と医療分野13件の計31件。対象は1991年から2005年の刊行物。刊行まで4年あいたことと質の評価をしていないことは、著者たち自身が挙げた限界。効果の側の逐語は"we did not find any paper in the health sector that met the eligibility criteria for the quantitative analysis"(適格基準を満たす論文は1件も見つからなかった)で、有効性ははっきりしないままだと結びます。医療分野の13件のうち12件は同じ定義を引きながら、構造と機能は大きく異なっていました。
032023年の系統的レビューは、50件のうち統計手法を備えたのは11件、有意は9件、無作為は1件だと報告している。2,009件を選別にかけ、94件を全文精読し、50件を組み入れた。1950年から2022年まで、英語の査読誌の一次研究だけ。参加者は合計12,400人・平均282人(6件は未報告)。アウトカムは質的21件・混合20件・量のみ9件で50件——量的な要素は29件、統計手法を備えたのが11件、有意な効果は9件(業務5件・初期診療2件・臨床成果2件)。同じ段落に「1件を除くすべてが正の有意」と読める一文もあり、そちらは10件。設計も、本文は質的30件・無作為でない実験20件・無作為化1件で足すと51と1件ずれ、表では質的29件です。

数字そのものは動きません。動くのは、要約されていく途中のほうです。消えやすいのは3か所。
01「参加すれば学びと帰属が高まる」と読むと、測られなかったものの一覧が消える。効果の側を数えた3本は、別々の空白を報告します。2009年は医療分野で適格基準を満たす論文が1件も無し。2011年の系統的レビューは"in none of the primary research studies was the method of communication examined in terms of the CoP achieving its objectives"(意思疎通の方法が目的の達成という観点から検討された一次研究は1件も無かった)——介入が複雑で多面的なため直接帰することが難しい、とも書きます。2023年は50件のうち無作為に割り付けた設計が1件だけ。「効果が無かった」ではなく、確かめる設計の研究が見つからなかった、という報告です。
02「2023年に効果が示された」と読むと、その数字がどの分母の上に乗っているかが消える。結びは肯定の側で、逐語は"have been shown to be effective"(有効であることが示されてきた)。著者の1人は、この種の集まりを運営する事業の共同創業者だと冒頭で開示。9件は、50件の中の9件です。唯一の無作為化比較試験〔くじ引きで振り分ける設計〕では、122の病院のうち後押しされた側の54%が全国の取り組みに登録、他方は10%(p値〔偶然だけでこの差が出る見込みの目安〕は0.001未満)。ただし同じ論文は、取り組みの最終目標だった30日以内の再入院の20%削減を測っていないと断ります。確かめられたのは、登録率までです。
03「割れているのは質の差だ」と読むと、集めた集合の作り方が消える。2009年は「はっきりしない」、2023年は「示されてきた」。集めた集合が違います。2009年は経営と医療、2023年は医療だけ。2011年は6,605件の抄録から90件を候補にし、33件を精読(一次研究31件と系統的レビュー2件)。作り方も、自分で書いています。2009年は"only include studies on groups that are labelled as CoPs"(そう名づけられた集団の研究だけを組み入れ、四つの特徴があっても名乗らない集団は除外)。2023年も、題名・抄録・本文にこの語の言及がある研究だけで、状況的学習や学習ネットワークは含みません。数えられたのは、その名前で呼ばれた側。2011年が精読した2件の一方は、2009年のレビューそのもの。三つの医療レビューは独立した3点ではありません。

答えたのは組織の単位で、一人ひとりの学びの中身ではありません。国も偏ります。2023年はカナダ12・米国10・英国8・オーストラリア6・スペイン4件で、ほかは2件以下。2011年は英国13・カナダ7・米国5・オーストラリア4・デンマーク1件と多国1件(計31件)。2009年は経営分野の77.8%が米国、医療分野の92.3%が英国か米国。日常の趣味の集まりを測ったものはありません(2009年は経営分野で勤務時間外の集まりを拾い、医療分野では見つからなかったと書いています)。
無作為な割り付けは、2023年の50件のうち1件と、2011年が精読した31件のうち1件(2011年の量的な一次研究は7件=介入試験6件と事例研究1件。その1件は自己申告の実践の変化に有意差なし、道具の知識と利用は上回る)。この号は、因果の言い方をしていません。全文まで読めたのは6点のうち4点。残る2点は抄録までで、2006年の論文が挙げる「限界」の中身も、2008年の四つの様式の中身も出てきません。その2本は同じ著者の連作、2005年は別の著者の単著です。
四つの版が、同じ語で呼ばれていた。
数えられたのは、その名前で呼ばれた側だった。
集まりの作り方も、施策を変える手順もありません。どの研究も、それを測っていないからです。判定も、良い悪いも書きません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリに、**参加している、またはかつて参加した自発的な集まりを1つ**書く。無ければ「無い」で終わりです。
- 02WRITE
その下に、何のために集まっているのかを、**自分の言葉で1行だけ**書く。掲げられた目的は書き写しません。
- 03MARK
読み返して、「書けた」「書けなかった」に印を付ける。書けなかったことは欠点ではありません。
確かめられたのは四つ。2005年が、四つのうち三つは書籍で、どの版に対してかを位置づけるべきだと結んだこと。2009年が、医療分野で適格基準を満たす論文を1件も見つけられなかったこと。2011年が、意思疎通の方法と目的の達成を結んだ一次研究は1件も無かったこと。2023年が、有意な効果は9件・無作為は1件と報告しつつ「示されてきた」と結んだこと。名前が広いままだと、うまくいかなかった集まりを後から外へ置ける——というのが、この号の読み筋。今日残せるのは、集まりの名前と、目的の1行と、印。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS実践コミュニティ(CoP)を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
