IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 202

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

知らないことがあったとき、詳しそうな人に聞きます。その相手が、いつも一緒にいる人か、めったに会わない人か。この違いを調べた研究でいちばん引かれるのは1999年の1本。年商50億米ドル超の米国の電機・コンピュータ企業の41事業部が1993年から1995年に手がけた新製品開発147件のうち、120件が回答(回答率85%)。

ただし、推定に使われたのは120件ではありません。知識の複雑さは、実際に受け取った案件でなければ答えられないからです。"The main sample therefore includes the 54 projects that reported a transfer of knowledge from one or more divisions."(主標本は、1つ以上の事業部から知識を受け取ったと報告した54件である)。残りは24件が進行中、4件が中止。

その54件で、同じ変数の符号が入れ替わります。推定式は原典のまま——完了の率 = exp[1.329 × 弱さ + 弱さ ×(−0.343 × 明文化されていない知識 − 0.193 × 依存性の高い知識)]。弱さは単独では完了を速める側に、運ぶ知識が明文化されず他から離せないほど遅らせる側に働きます。66件では結びついていません(0.109、標準誤差0.165、有意の印なし)。

知識流通の活性度(knowledge flow)は、組織のなかで知識がどれだけ行き来しているかを見る話です。「流通」は水道管を思わせます——上流に詳しい人がいて、管を太くすれば下流に届く。6本が測っていたのは、その絵ではありません。運ぶものの形で管の働きが変わる——というのが、この号の読み筋です。

扱うのは、同じ変数の結びつきが、運ぶものの種類で符号ごと入れ替わる一点だけ。道具やサービスの良し悪しも、転職や巡り合わせも扱いません。測られた単位は6本とも違います——プロジェクト、特許のペア、営業チーム、個人どうしの関係、レビュー。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
遠くの明かりは、探すときには見つけやすい。運ぶ段になると、距離のほうが残る。 Visual: ALIFE

では、その入れ替わりはどこまで測られているのか。

01米国の電機・コンピュータ企業41事業部の1999年の研究では、受け取った54件で符号が入れ替わった。41事業部の内訳は4つがアジアとオーストラリア、7つが欧州、残りが米国内。強さは各事業部の研究開発責任者が7段階で回答(回答率100%)。推定は期間を6つに区切った区分指数型ハザードモデル〔終わっていない案件も落とさず扱う方法〕。測られた結果は、完了までの時間ひとつだけ。費用・製品の品質・革新の度合いといった他の結果変数には当てはまらないかもしれない、と著者は書いています。

021990年5月・6月の米国特許から72,801組の発明者ペアを推定した2006年の研究では、優位は真ん中で最大だった。出発点の特許数は原典内で二通り(初出17,264件、手法の節17,268件)。1990年7月から1996年6月の後続引用60,999件に、各焦点特許につき引用しなかった4件ずつを足して130,055組、うち双方の発明者が米国内に住む72,801組で推定(レアイベント補正ロジスティック回帰〔ごく少ない出来事の偏りを補正するやり方〕)。近い発明者は遠い発明者より、単純なとき30倍、頂点で39倍、最も複雑で7倍。つながっていない相手とでは23倍・48倍・11倍。地理でも10マイルと3,000マイルの差が9%・87%・61%。"the peak differences fall within the range of actual k in our data—in fact, within one standard deviation above the mean."(最大の差は、データの実際の範囲の内側、平均より1標準偏差だけ上)。

03米国の経営コンサルティング会社の182営業チームでは、電子文書と結びついたのは時間の節約だけ。100を超える拠点に10,000人以上が所属する米国の経営コンサルティング会社。入札812件から無作為に259件、回答率74%で191件(不回答68件)、欠測9件を除く182チーム。3つの結果は、いずれもチームリーダー1人の7段階1項目の自己申告です。電子文書の質は時間の節約と結びつき(回帰係数〔条件をそろえたときの動きの推定値。0なら結びつきなし〕0.36、p < .01)、手直しの多さは逆向き(−0.40、p < .01)。品質(0.08)とも能力の示し(0.16)とも明確な差とは言えず、結びついたのは助言者の経験(0.18・0.20、ともにp < .05)。その経験と時間の節約は差が言えません(−0.01)。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
54件のプロジェクト・72,801組の発明者ペア・182の営業チーム。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは、要約されていく途中のほうです。

01「弱いつながりが知識移転の主要な経路だ」と読むと、どの段階の話かが落ちる。1999年の抄録は、二つの段階を分けます——"Having weak interunit ties speeds up projects when knowledge is not complex but slows them down when the knowledge to be transferred is highly complex."(弱いつながりは、知識が複雑でないときには速め、移す知識がきわめて複雑なときには遅らせる)。「主要な経路」は、探す段階と運ぶ段階を一つにまとめてしまいます。入れ替わりが推定されたのは受け取った54件で、66件では結びついていません。2004年は、強さと暗黙的な知識の交互作用は検出されず1999年の知見とは逆だと明記します。同じ項目を使ったうえでの食い違いです。

02「近い人から学ぶほど得だ」と読むと、真ん中で山になっていることが落ちる。示されたのは「近いほど得」ではなく「真ん中で最大」。単純なとき30倍、頂点で39倍、最も複雑で7倍。両端では優位が小さくなります。抄録は、単純な知識は自力の探索で埋め合わせがきくので等しく広がり、複雑な知識は生まれた輪の内側でさえ広がりに抗う、と説明します(推定値は単純なときでも30倍、ゼロにはなりません)。符号と山の位置が動くなら、平均は何も言っていません。ただしこれは引用の確率で、学んだ量の測定ではありません。

03「つながりの強さだけを見る」と、信頼とまわりの支えが落ちる。2004年は、米国の製薬会社・英国の銀行・カナダの石油ガス会社の各1事業部。127人(42・41・44人)が全問回答(48%)、1人4関係で508観測、回帰投入は欠測を除く400観測(118人)。61%が男性、70%が30代か40代。強さの係数は、統制変数だけの式で0.21(標準誤差0.08、p < .01)、二つの信頼を入れると−0.18(0.07、p < .05)へ入れ替わります。能力への信頼は暗黙的な知識のときにとりわけ重要(0.06、0.03、p < .05)。2003年も、米国中西部の受託研究開発企業(113人・操業15年)で回答率92%(104人)、102人の1,626件(平均15.94件)から欠測296件を除く1,330件を推定。強さとは別に、支えと届く範囲も結びつきます(男性84%・白人92%)。従属変数は、出し手が7段階で答えた移転のしやすさ。移った量ではありません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
主要な経路だと読む・近いほど得だと読む・強さだけを見る。落ちるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

測られた場所は、大きな組織と、その組織が出した特許です。米国の大企業とその事業部、米国内の発明者どうしの特許のペア、そして米国・英国・カナダの3社。日本の組織は、この6本の中にはありません。残る4本には、回答者の性別や年齢の記載がありません。

この6本に、無作為割り付けはありません。いずれも横断的な調査〔一時点でまとめて測る調べ方〕か記録の分析で、向きは切り分けられません。逆向きの可能性——強くて探せなかった、弱くて探さなかった——も、著者自身が書いています。1999年と2007年は同じ著者を含む2本。全文まで読めたのは6点のうち5点。読めていないものについては書きません。残る1点、2012年の体系的なレビューの抄録は、一致点と対立点の両方があると結びます。1本の結論には、まだなっていません。

近道になったのと、遠回りになったのは、
同じ細さだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。聞いた1件を書き留めたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。判定しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    **直近1か月で誰かに聞いて解決した事柄を1件だけ**、紙かメモアプリに書く。職場でなくてもかまいません。**相手の名前は書きません。**

  2. 02SORT

    その行の右端に、**(A)調べれば分かること / (B)その人しか知らないこと**の印を付ける。どちらとも言えなければ、そう書く。

  3. 03KEEP

    書いた1行を、そのまま手元に置く。それで終わりです。連絡も、評価も要りません。

3分。採点はありません。**人脈や学びの量を測る課題ではありません。**相手を判定しない。組織の仕組みを変えようとしない。誰にも見せず、提出もしません。つらさが続く・強まるときは、信頼できる相談先や専門家へ。

確かめられたのは、上流と下流の絵に入っていないものでした。同じ変数の符号が、運ぶ知識の種類で入れ替わったこと。近い側の優位が真ん中で最大、両端で小さかったこと。強さの係数が、二つの信頼を入れると正から負へ入れ替わったこと。「数さえ増やせば流れる」という形で測った数字は、この6本の中にありません。同じ細さが、運ぶものによって近道にも遠回りにもなっていた。残せるのは判定ではありません。事柄がひとつ、印がひとつ。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS知識流通の活性度を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。