IN LEARNING & GROWTH · ISSUE 201

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

言葉にできない技を、言葉にする。この言い方には、たいてい四つの変換の型を示した枠組みと、「実証済み」の一語が添えられます。その一語のもとをたどりました。

四つの型を示した査読誌の論文は、1994年に Organization Science 5巻1号(14〜37頁)へ出たものです。要旨はこう書きます——「本論文は、組織的な知識創造を扱うためのパラダイムを提案する…理論的枠組みが展開される。」読んだ全文を、質問紙・回帰・相関・統計的に有意・標準偏差・回答者・標本という語で走査した範囲では、どれも1件も出ません。唯一ある表は概念の対照表です。

理論の提示です。問題になるのは、提示を検証として引くときのほう。12年後の2006年、Journal of Management Studies 43巻7号(1415〜1436頁)の批判的検討はこう結びました——「パン焼き機の研究が、まともに取り上げるに値する唯一の証拠を与えており、社会化と表出化の両方の証拠と解釈できる。しかしその証拠は…別の説明にも開かれている。」

暗黙知の形式知化(tacit to explicit)は、言葉にしにくい知識を他人が読める形にする話です。1994年の論文が示したのは、その二つを行き来する四つの型——暗黙のまま人へ渡る、言葉になる、言葉どうしがつながる、言葉が体に入る。設計資料が代表文献に挙げるのは1995年の共著の書籍ですが、書籍は査読を受けません。この号は当たっていません。

2009年、提唱した側からの応答が Organization Science 20巻3号(635〜652頁)へ出ます。要旨は、この15年あまりの研究が二つの前提——暗黙知と形式知は連続体の上で区別できる、知識変換が両者の相互作用を説明する——のうえにあったと整理し、六つの根本的な問いへ答えを試みます。15年たっても、前提のほうがまだ論点です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
書けたものは、書く前から書けたのかもしれない。空欄は、どちらの理由でも同じ顔をしている。 Visual: ALIFE

この枠組みの証拠は、どこまで開かれているのか。まず開いたのは、この3本です。

011994年の原典は、要旨自身が「提案する」と書いた理論の提示。Organization Science 5巻1号(14〜37頁)。四つの相互作用の型が特定され、二つの運用モデルへ適用される、というのが中身。当たったのはこの1本の全文で、「この枠組みに実証が無い」という話ではありません。

022006年の読み直しは、唯一まともな証拠を家庭用パン焼き機の事例に見た。要旨は「四つの型のうち三つはもっともらしく見えるが、いずれも、もっと単純には説明できない証拠によって支持されてはいない」。値切りの形は「証拠が無い」ではなく、やってみて覚えること・新しい作業を設計すること、でも同じくらい説明できる、です。社会化の節ではさらに「はっきりしない」とも。

032009年の応答は提唱した側から出ており、中身は測定ではなく提案。Organization Science 20巻3号(635〜652頁)。第一著者は1994年の論文の本人で、批判への応答であって独立した検証ではありません。六つ目の節は「産出物を問う第6の問いに進む。これは、1994年の論文では十分に展開されていなかった」と書き出され、答えは「二つあると提案する」まで。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
1994年の理論の提示・2006年の読み直し・2009年の提唱者の側の応答。まず開いたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは、要約されていく途中のほうです。消えやすいのは3か所。

01「実在の企業で実証された」と読むと、事例が一つの説明だけを支えるわけではない、が消える。問題は、企業ではなくそこで起きたことの説明のほうです。唯一まともな証拠として残る側と、それも別の説明ができる側は、原典の同じ段落にあります。片方だけを引くと、原典の半分が消えます。

02「書き出した量で測れる」と読むと、いちばん暗黙な層は測らないと決められていることが消える。2001年の Journal of Management Studies 38巻6号(811〜829頁)の論文は、暗黙知は操作化に抵抗し続けている、と書きます。暗黙性は4段階(A 深く染み込んだ/B 不完全に言語化/C 言語化できるはず/D 明示的)に分けられ、「最も暗黙な暗黙のスキルの操作化は、現実的な試みになりそうにない」として、測る対象はBとCに。2000年の Industrial and Corporate Change 9巻2号の論文は、明文化できることが明文化を必要とするわけではない、と釘を刺します。空欄からは、書けなかったのか、理由が無かったのかを読めません。

03「出し惜しみのせいだ」と読むと、8社の中の122件で報告された順位が消える。1996年の Strategic Management Journal 冬季特別号(17巻S2・27〜43頁)の調査。単位は移転1件ずつ。8社の38の実践にまたがる122件の移転で、質問紙271件を回収(回答率61%。送り手側110件・受け手側101件・第三者60件、1実践あたり平均7.3件)。値は相関係数ではなく正準加重値〔標準化回帰係数と同じ読み方。絶対値が大きいほど寄与が大きい〕。予測側は9変数——吸収能力の不足(受け手)0.54(図1では.53。食い違いは論文の内側)、因果の曖昧さ0.34、骨の折れる関係0.33、保持力の不足(受け手)−0.25、意欲の不足(受け手)0.18、やせた組織の文脈0.10、知識が未証明0.09、送り手が信頼されていない0.09、送り手の意欲の不足0.05が最小。符号は一つだけ逆で、原典は「予想に反して、受け手の保持力の不足の係数は負である(−0.25)。」著者の説明は、報告が使用開始から4〜8か月後に集められたため。この分析から統計的有意性の指標は出ません。要旨も、動機づけを主に責める通念とは逆だと結びます。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
実在の企業で実証されたと読む・書き出した量で測れると読む・出し惜しみのせいだと読む。消えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

6本のうち、何かを測った研究は1本だけ——1996年の調査です。残る5本は理論・概念的検討・応答・手法提案・概念の読み直しで、水準もそろいません。その1本も、分析に入ったのは271件のうち87件。142件に増やした再分析では正準相関〔二つの変数の束のそろい方〕が0.87から0.84へ下がり、上位3つより下は入れ替わりうると著者が書きます。標本も60社超→12社→8社と絞られ、企業は困難の証拠が見られた移転を優先するよう指示されました。

全文まで読めたのは6点のうち5点。2000年の論文だけは掲載版ではなく1999年5月付の刊行前の草稿です。読めていないものについては書きません。1994年と2009年は同じ著者、2006年と2009年は同じ論争の応酬で、独立した2本ではありません。六つ目の問いの根拠も2005年の別の検討の結論として2009年の本文が紹介しているもので、その論文には当たっていません。無作為な割り付けは6本のどこにもなく、「対照群」も0件です。

まともな証拠は、パン焼き機の1件だった。
その1件も、別の説明に開かれている。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1行書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。判定もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリに、**自分だけがやり方を知っている作業**を1つ書く。仕事の手順でなくてかまいません。書くのは名前だけで、評価も比較も書きません。

  2. 02GUESS

    その下に、他人が読んで再現できる文章にするなら何行必要かを、**書く前に**見積もって数字で書く。5行でも40行でも。当てにいく必要はありません。

  3. 03WRITE

    最後に、実際に1行だけ書き、「書く前から書けた」「書いてみて初めて出た」の印を付ける。記録は、作業の名前・見積もりの行数・書いた1行・印の4つだけ。

3分。採点はありません。**あなたの暗黙知の量を測る課題ではありません。**同僚や部下に書かせず、誰にも見せず、提出もしません。つらくなったらそこで中止し、信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

四つの型には、静かな説得力があります。回っているように見えるからです。確かめられたのは、その回り方ではなく、根拠の側でした。1994年の原典は理論の提示で、走査した範囲では統計の語が1件も出ないこと。2006年の読み直しは唯一まともな証拠をパン焼き機に見たうえで、同じ段落で「別の説明にも開かれている」と書いたこと。

2009年の応答は六つ目の問いを「十分に展開されていなかった」と書き出し、答えは提案どまり。2001年の論文は最も暗黙な層を測らないと決め、1996年の調査が測ったのは8社の122件の移転でした。残らないのは、その枠組みが一つの説明だけを支えている、という部分です。どちらに転んでも無傷で残る言い方は、たいてい何も説明していない——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではなく、記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS暗黙知の形式知化を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。