IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 171
● 12 SEC異論を歓迎する、と書いてある組織は珍しくありません。ただ、掲げた言葉の側から、それが本当かを測る方法はありません。並べるのは、測られた数字のほうです。
芯は2006年の研究。ドイツ・ミュンヘンで、3人ひと組が4人の候補から1人を選びます。正解の手がかりは3人に分けて配られ、手元だけを見ると別の候補が良く見える〔隠れプロフィール〕。正答率は、組の作りで7%から62%まで動きました。
ただしこの号は、職場に異論を増やす手順を渡しません。「異論を歓迎すれば成果が出る」も「反対役を置け」も、たどった6本からは出てきません。2001年の結果は、むしろ逆でした。
対話・異論の文化(Dissent Culture)は、話し合いの場の数の名前ではありません。賛成ではない発言が出たあとに、その中身と、その人がどう扱われるかの名前です。
異論の話には、たいてい集団思考〔結束の強い集団が、まずい決定を全員一致で通してしまう枠組み。1972年に米国で提示〕が出ます。1998年のレビューは最初の四半世紀を総括してこう結びます——依然として大きな発見的価値がある(表題は「25年たっても健在」)、実証の蓄積は小さいが成長している、刺激された理論的アイデアの多くは未検証。
断片で読めた本文では、実験室での検証は、凝集性〔集団の結束の強さ〕と症状の関係に弱い支持か支持なし。仲が良いから危ない、という筋に実験室の支持は集まらなかった——というのが、この号の読み筋です。

では、その出たあとは、どこまでが数字になっているのか。まず測られたのは、この3本です。
01集まって話した4人より、別々に考えた4人のほうが倍近く出した。1987年の研究の第4実験。ドイツ・テュービンゲンの学生60人を4人ひと組にし、各条件は3組だけ。課題はドイツの失業対策を15分。集まって話した実集団の平均は55.67件。名義集団〔集まらずに一人で考えた4人分を、重複を除いて合算〕は106.00件で、ほぼ倍です。要点は差より、その出どころ。発言の順番待ち〔ブロッキング〕を持ち込むと、102.67件が45.67件(待ちのみ)・37.67件(待ち+発言の聴取)へ落ち、待ちの有無の計画対比が条件間のばらつきの96%を説明しました。第1実験とは条件も値も別で、混ぜられません。
02135組の正答率は7%から62%まで動いたが、100%はその外にある。2006年の研究。同じ間違った候補を全員が支持した28組の正答率は7%、正解ではない候補を誰かが支持した46組は26%、正解の候補を支持する一人がいた42組は62%。手がかりを分けず全員が全情報を持っていた統制条件19組は100%(28+46+42+19=135)。この100%は、異論の効果ではありません。情報が分散していないときの値です。条件の分かれ目は討論前の個人選好で決まり、原典自身が割り付けを「できるかぎり無作為に、ただし制約つき」と書いています。この差も、組の構成と正答率の対応までの意味です。
03本気の異論は解決案の数を増やしたが、反対役は全員賛成と変わらなかった。2001年の実験。米国で4人組32群128名が実施し、各群1名の台本役を除いて102名、欠損を除いた94名が分析対象。外部のサクラはおらず、本気の少数意見がある条件でも、その1人は台本どおりに打鍵しています。解決案の個数は、本気の少数意見2.76件・反対役(悪魔の代弁人)1.86件・全員が同意する統制1.84件(3条件の分析対象は94名のうち57名)。質の評定単独は有意差なし〔偶然の揺れと区別できる差が出ないこと〕ですが、主指標の合成値「質の高い解決案の数」では本気の少数意見だけが優っています。同じ研究者は2004年に米仏でも、指示なし・批判するな・討論を比べています。アイデア数は米国が1組あたり18.8/20.0/24.0で、どちらの国でも討論が最多、指示なしが最少。ただし国別の検定はなく、主効果は周辺的な水準(p<0.10)、有意差は討論対指示なしだけです。

動くのは数字ではなく、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。
01100%を、異論の効果として読んでしまう。7%・26%・62%のあとに100%を置くと、異論を強めれば100%へ届くように見えます。そうではありません。100%は、手がかりを分けず全員が全情報を持っていた統制条件19組の値で、異論という変数が入っていません。では7%から62%への動きは何か。原典の媒介分析は、主に討論の密度の高まりによって、一部は議論の偏りの少なさによって媒介されたと報告しています。異論そのものが正しさを運んだのではない——というのが、この号の読み筋です。
02反対役を置け、という処方に読み替えてしまう。2001年の結果は、その処方の逆でした。反対役の1.86件は、全員が同意する統制の1.84件と有意に違いません。差がついたのは本気の少数意見の2.76件で、合成指標でも統制に優ったのは本気の側だけ。しかもその条件でも1人は台本どおりで、操作されたのは、本当にそう思っているかではなく、参加者にどう示されたかの側です。読者は制度を作る側ではなく、組織を見立てる側です。
03段階の違う数が、一つの数として動いてしまう。この号の数字は、どれも何の数かが違います。参加は447人、組は149、除外は14組、分析に入ったのは135組。135組は405人分で、447とは掛け算では合いません。2001年の128名(実施)・102名(台本役を除く)・94名(分析対象)も段階が違い、引き算では合いません。版の違いもあります。2004年の研究には広く引かれるもう一組のアイデア数がありますが、作業論文版の丸めで、出版版には載っていません。どちらの版でも、指示のない条件が最下位である点は変わりません。2001年と2004年は同じ研究者の2本で、独立した2つの検証ではありません。

全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていないものは書きません。答えたのは、ドイツ・テュービンゲンの学生60人、ミュンヘンの135組、米国の94名(全員が女子学部生)、米仏の実験室です。課題はどれも数十分で終わり、次の会議も来年の評価も異動も入っていません。第4実験は各条件3組、2001年は4人組32群と小さい。日本の職場を対象にした同じ設計の研究は、この6本にありません。
2012年の研究は、1つの現場調査と2つの実験で、既存のやり方を変えようとする挑戦的な発言をした従業員が、支持的な発言をした人より上司から低く評価され、提案も採用されにくかったと報告しています。現場調査は割り付けではないので、書けるのは、そう評価されていたというところまで(抄録の範囲まで)。この6本のどれも、異論を歓迎すれば成果が出るを測っていません。
反対役は、全員賛成の集団と変わらなかった。
動かしたのは、本気の少数意見だけだった。
だから次の2行も、研究が命じた順番ではありません。送りません。言いません。判定もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近の会議や打ち合わせで、**自分が出さなかった反対意見を1つ**選ぶ。思ったままの反対の形で1行書く。人の名前は書かない。
- 02TURN
同じ中身を、**質問の形へ1行で書き換える。**評価を抜いて、確かめたい事実か前提だけを残す(その案は無理だ → この案が成り立つのは、どの条件が満たされたときですか)。
- 03KEEP
**今日の日付を添えて閉じる。合計2行。送らない。言わない。良し悪しの判定も書かない。**
確かめられたのは三つ。135組の正答率が7%から62%まで動き、100%は異論の効果ではなく統制条件19組の値だったこと。集まって話した4人の55.67件に対し、別々の4人分の合算は106.00件だったこと。反対役の1.86件が統制の1.84件と有意に違わなかったこと。異論を歓迎すれば成果が出る、とも、反対役を置け、とも書かれていません。——残せるのは判定ではありません。反対の形が1行、質問の形が1行。記録が2行です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS対話・異論の文化を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

