IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 170
● 12 SECエンゲージメントの高いチームは生産性も収益性も2割ほど高い——22%、21%という数字が、研修の資料でも社内の提案書でも、たいてい同じ出どころの話として紹介されます。査読された版は、*2002年に Journal of Applied Psychology へ出た事業単位のメタ分析。7,939の事業単位・36社・のべ198,514人を集計した統合です。この号がたどった範囲では、その形の数字はその論文に見当たりません。
その論文が報告しているのは相関〔−1から+1のあいだの数。0なら関係なし〕のほうです。エンゲージメント〔職場の状態を尋ねる12項目の平均〕と事業単位の成果は、顧客の評価 .33、生産性 .25、収益性 .17、離職 −.30、安全 −.32、総合指標 .38——真値相関〔測定の誤差などを補正した推定値〕で、同じ表の観測された相関は .16・.15・.10・−.13・−.21。論文自身が、この分析では因果関係を論じていないと明記しています。扱うのは、承認の増やし方ではありません。
承認・貢献の可視性(Recognition and Visibility)は、褒め方の技術の名前ではなく、誰の仕事が誰の目に入っているかという点検の名前です。人事評価や昇進の制度設計は、この号の持ち場ではありません。見るのは、承認が誰から誰へ流れ、記録に残ったかの一点だけ。数えるのは中身の質ではなく、件数と向きです。渡すのは、組織を動かす側ではなく観察する側の見方です。

では、承認はどこまで数字になっているのか。答えたのは、事業単位の統合と、実験室と、職場で行われた研究です。
017,939の事業単位で報告されたのは、相関だった。2002年のメタ分析が集計したのは7,939事業単位・36社・のべ198,514人。同じ調査票の「全体的な満足」は別の1項目として並行報告され、離職との真値相関は −.36 と、エンゲージメントの −.30 より大きい。尺度の項目は著作権で保護されているため、この号でも載せません。これは事業単位を横に並べた相関で、論文自身が因果関係を論じていないと明記しています。なお著者には、使われた尺度の権利を持つ調査会社の研究者が含まれます——道具を持つ側が、その道具で測った関連を報告しています。
02128の実験では、褒めるのと払うのは向きが逆だった。1999年の128実験の統合。言語的な正のフィードバックは自由選択場面での取り組みを上げる向き(d=0.33)、興味も同じ向き(0.31)。有形の報酬は下げる向き(−0.34)、予期された場合は−0.36〔d=ばらつきを単位にした群の差。0.2前後が小〕。子ども対象の7研究は d=0.11・95%信頼区間 −0.11〜0.34 で、明確な差とは言えません(大学生は0.43)。2014年の183研究・のべ212,468人の統合は、内発的な動機と成果を κ=.26〔補正済みの推定値〕、報酬が直接連動しない場面 .45(8標本・3,133人)、直接連動する場面 .30(27標本・3,975人)と報告——紐が太いほど、内発的な動機が成果を説明する余地は小さい向きです。著者は1999年と重なりませんが、同じ理論の系譜です。
0372の研究では、金銭23%・承認17%・フィードバック10%。2003年の72研究・のべ13,301人の統合が報告したのは業績の平均改善率——金銭で23%、社会的な承認で17%、フィードバックで10%。3つ同時では45%で、単純な足し算より大きい値です。統合値である以上、個々の研究が一様だった意味ではありません。測られたのは介入の前後の業績の変化の平均で、承認が原因だと切り出した値ではありません。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
0122%と .25 は、同じ単位の話ではない。落ちるのは、出どころと単位です。査読された2002年の版が報告したのは事業単位を横に並べた相関で、「22%」「21%」という形の数字は、この号がたどった範囲ではその論文に見当たりません。「上位群と下位群で◯%の差」という形式は、同じ調査会社が査読誌とは別に出してきた報告書の系列に近いものですが、どの版が載せているかまではたどりきれていません。論文の中にも、相関を上位群・下位群の割合差に読み替える表示(BESD)や、百分率ポイントの差、金額の差はあります。ただしそれは、相関から作った表示です。
02「感謝を伝えれば人は動く」に化ける。二つめは、現場実験の一般化。2010年の研究は、米国の大学で寄付を募る担当者41人を無作為に2条件へ分け、条件ごとに別々の勤務シフトで実施しました(感謝を伝える群20人・統制21人)。感謝を伝えられた群の翌週の架電件数は、統制群と比べておよそ51%多い(検定は時間と条件の組み合わせ)。媒介分析〔効果が何を通って生じたかの分析〕で支持されたのは、他者にとって価値ある存在だという感覚。自己効力感も高まっており、「関係が無かった」のではなく、媒介しなかったところまでです。測られたのは41人の翌週の電話の本数で、成果でも関係の質でもありません。41人は小さい標本です。この1本は156号でも扱っており、独立した2件ではありません。
03制度にすると、制度のほうが測られる。三つめは、制度にした後の測られ方。2016年の研究が追ったのは、米国の産業用クリーニング会社の5つの工場のうち1つで導入された皆勤賞のプログラム。準実験〔無作為に割り付けず、現場の記録を追う設計〕です。遅刻しがちだった人には直接には良い効果がありましたが定着せず、表彰の条件に合わせて休みを使い分ける動きが起き、もともと時間を守っていた人は資格を失っている期間の遅刻が増え、工場全体の日次の生産性はおよそ1.4%押し下げられました。表彰の条件が、承認の対象を定義し直したのです。1社の1工場の記録で、すべての表彰が逆効果になる話ではありません。

全文まで読めたのは6点のうち6点です。答えたのは、36社の事業単位、実験室の子どもと大学生、介入を受けた13,301人、米国の募金担当者41人、米国の産業用クリーニング会社の工場です。読めた範囲に、日本の職場を対象にした研究も、10人から30人の組織で承認の往復の件数を数えた研究もありません。平均も統合値も、計算された集団の話です。相関 .25 と、効果量 0.33 と、改善率23%は互いに別の単位で、足すことも大小を比べることもできません。
承認の経路が人数とともに上へ集まるという筋道は、どの研究も測っていません。というのが、この号の読み筋です。
22%は、査読された版に見当たらない。
報告されていたのは、事業単位の相関だった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。出した承認と受けた承認を数えたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。数えて、残すだけです。
TRY IT TODAY
- 01SENT
直近7日ぶんの送信済みメッセージ・チャット・カレンダーから、自分が出した承認の件数を数える。誰かの具体的な行動を名指しして伝えたものだけを数える。
- 02RECEIVED
同じ7日について、自分が受けた承認の件数を数える。基準は01と同じ。**相手の名前は残さない。**
- 03DATE
2つの整数と今日の日付を1行で書いて閉じる。0と0でも、そのまま残す。その場で解釈せず、増やす目標も立てない。
確かめられたのは3つ。7,939事業単位・36社・198,514人の2002年の統合が、関連を .17から .38 の幅の相関で報告し、因果関係は論じていないと明記したこと。128の実験で、言語的な正のフィードバックが上げる向き(0.33)・有形の報酬が下げる向き(−0.34、予期された場合は−0.36)、72研究・13,301人で改善率が金銭23%・承認17%・フィードバック10%、183研究で内発的な動機と成果が .26 だったこと。そして「22%」「21%」が、この号がたどった範囲では査読された版に見当たらないこと。——今日残せるのは判定ではありません。出した件数がひとつ、受けた件数がひとつ、日付がひとつ。記録が1行、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS承認・貢献の可視性を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
