IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 168

(仮ビジュアル)暗い石の台の上に、洋梨とさくらんぼとオーツ麦を盛った器、半分に切った洋梨、水の入ったグラス、麻の布が並んでいる朝食の静物● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

掲げている目的と、実際に評価されている行動。この2つが食い違う組織は珍しくありません。ただ、組織の測定は、制度を作った側の尺度に、その中にいる人が答える形になりがちで、どちらが先かが分かりません。

数少ない例外が2013年の研究です。インド・ムンバイ近郊の綿織物工場で、経営の慣行を無作為に割り付けました(どちらの群に入るかを、くじ引きのように決めること)。参加は17社28工場。割り付けの単位は企業で、6社が対照、11社が処置。実績データの取れる25工場が候補で、実験に使われたのは20工場(処置14・対照6)。

1か月の診断は両群に入り、処置群にはさらに4か月の実装支援。支援が入った工場の生産性は、初年度に17%上がりました。ただし同じ実験の9年後、その慣行のおよそ半分は放棄されていました。この号が扱うのは、何が測られ、その数字が何年もったかのほうです。

システム的整合性(System Alignment)は、組織を美しく揃えることの名前ではなく、掲げている目的と、実際に評価されている行動が、同じ方向を向いているかという点検の名前です。対象はその一点だけ。

名前を与えたのは1975年の論考——「Aを望みながら、Bに報いる愚」。人は何が報われるかの情報を探し、報われる活動をやろうとする(少なくとも、やっているように見せようとする)のであって、報われない活動はほとんど除外される。ただし、介入の効果を測った研究ではありません。材料は、ある製造企業の質問紙(職位別)と、ある保険会社の報酬制度の記述です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で街の明かりのほうを見ている女性。暗いガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
掲げた目的と、実際に褒められた行動。点検する対象は、この2つの向きだけ。 Visual: ALIFE

では、その向きは、どこまで数字になっているのか。まず測られたのは、この3本です。

0120工場を割り付けた実験で、生産性は初年度に17%上がった。2013年の研究。介入は、工場側の費用負担なしの経営コンサルティング。この号で唯一のくじ引きの設計で、この行に限り「上がった」と書けます。生産性は初年度に17%上昇(本文・抄録の丸め。全要素生産性——投入で説明しきれない産出の効率——の推定値は16.6%)。品質の欠陥は43%減、在庫は21.7%減、産出は9.4%増、1工場あたりの年間利益はおよそ325,000米ドル増と推計。

029年後、そのおよそ半分は捨てられていた。2020年の追跡。別の実験ではなく、01と同じ実験の9年後です。独立した2つの証拠ではありません。慣行のおよそ半分が放棄され、それでも処置群と対照群には慣行にも成績にも大きく有意な差が残り、原典は「効果的な経営介入の持続的な影響を示唆する」と結びます。対照群も落としたため、慣行の処置効果は20パーセントポイントでほぼ一定。放棄の理由は、経営を担う人の離職と、役員の時間の不足でした。

034か国の732社では、慣行の得点が生産性と結びついていた。2007年の研究は、米国・フランス・ドイツ・英国の中規模の製造業732社を電話インタビューで採点。実験ではなく横断(ある時点で多くの企業を同時に測って比べる形)で、だから「上がった」とは書けません。得点は生産性・収益性・生存と結びついていた、というところまで。悪い経営が残る条件は、製品市場での競争が弱いことと、家族所有の企業が長子相続で継いでいることです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
20工場の割り付け・9年後に残っていた半分・4か国732社。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。

017つの図に添えられている調査が、たどれない。原典は1980年の論文で、7つのSと呼ばれる枠組みを提示したもの。問題は、そこに添えられる「7つの整合度が高い組織は、変革の成功率が有意に高い」という形の調査のほうです。原典に効果検証の記述はありません。著者たち自身が、教育とワークショップと実際の問題解決の中で試して有用だと分かった枠組みだと書いています。測ったほうの一次情報には、たどった範囲でたどり着けませんでした。存在しないとは断定しませんが、根拠としては使えません。

02食い違いを、誰かの不誠実として読んでしまう。人は報われる活動を選びます。それは適応であって、性格ではありません。1975年の論考は、食い違いの続く理由を4つ挙げます——指標への魅了、見えやすい行動の重視、偽善、効率より道徳や公平を優先すること。前の2つは報いる側も望まない行動に報い、後の2つは実際に望んだ行動に報いていて、公言を信じた側から食い違って見えるだけだと書き分けます。2006年の研究は、イングランドの公的医療の、目標と「恐怖(terror)」による統治が、部分の指標で全体を代表させることと、測定と操作を軽く見ることの2つを前提にしていると論じ、達成の報告と並べて、測定の困難と操作を記録しました(確認できたのは抄録まで)。

03同じ一つの実験が、二つの証拠に見えてしまう。2013年の17%と2020年の「およそ半分」は、同じインドの実験の、初年度の報告と9年後の追跡です。離れて引かれると独立した2つに見えますが、工場も割り付けも同じ。6本のうち3本(2013・2020・2007)に同じ研究者が入っており、独立した3つの検証ではありません。生産性・不良・在庫は、測りやすい部類の成果でした。測りにくい仕事に、同じ数字が移るわけではありません。日本の職場を対象にした同じ設計の研究は、たどった範囲にはありません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
たどれない調査・不誠実として読む癖・一つの実験が二つに見えること。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていない部分については書きません。実験に使われた工場の従業員数は平均134人(60〜250人)、企業全体でも平均273人という規模で、日本の雇用慣行と評価の仕組みは別のものです。平均も相関も、計算された集団の話でしかありません。

整合は放っておけば目減りする。それでも9年後の差は大きく有意に残っていた——というのが、この号の読み筋です。ただし「だから定期的に点検すべきだ」には読み替えられません。点検の頻度と成果の関係を測った研究は、たどった中にはありません。「制度をそろえれば成果が出る」も、6本からは出てきません。職場を変える手順も、いまの職場をどうするかの判断も渡しません。

捨てられたのは、半分だった。
それでも、差は残っていた。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。基準を1行書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。判定はしません。3行、残すだけです。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    紙かメモアプリに、**自分が評価される基準を1つ**書く。1行でいい(返信の速さ、担当した件数、遅れを出さないこと)。

  2. 02PAIR

    その基準が、組織の掲げる目的と食い違う点を1つ書く(速く返すほど、確認に時間をかける仕事が後回しになる、など)。人の名前は書かない。

  3. 03READ

    一度だけ読み返し、その食い違いが直近1週間の行動のどこに出ていたかを1行足す。日付を添えて閉じる。判定も結論も書かない。

10分。採点はありません。いまの職場を評価する課題でも、残るか辞めるかを判定する課題でもありません。職場へ提案する必要はなく、誰にも見せず、提出もしません。**つらさが続く・強まる場合は、産業医や社内外の相談窓口、必要に応じて医療の専門家へ相談してください。**

確かめられたのは4つ。無作為に割り付けた2013年の実験で、支援が入った工場の生産性が初年度に17%上がったこと。同じ実験の9年後、慣行のおよそ半分が放棄されながら、差は大きく有意に残ったこと。4か国732社の横断で、得点が生産性・収益性・生存と結びついていたこと。1980年の枠組みが提示であって、効果検証を含まないこと。

制度をそろえれば成果が出る、とはどこにも書かれていません。書かれているのは、あの20工場で、あの5か月の支援のあとに、あの指標がこう動いたことと、9年後にはその半分が残っていなかったことまで。——今日残せるのは判定ではありません。基準が1行、食い違いが1行、行動のどこに出ていたかが1行。記録が3行、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSシステム的整合性を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。