IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 166
● 12 SEC「情報は、流れているほうがいい」。だから透明性を上げましょう、となります。それを正面から測った実験が、2009年、中国南部の携帯電話工場(従業員およそ14,000人)にあります。平均16ラインの昼夜2交代=32のライン交代のうち、無作為に選ばれた2ラインをカーテンで囲い、残る28を対照としました。不良のない1時間あたりの生産数は、囲った側で216.013個から240.027個へ。対照側は219.071個から218.158個で横ばいです。見えなくしたほうが、多く作っていました。
この号が扱うのは、透明性の上げ方ではなく、情報がどこで詰まるかをどこまで測れているかです。量の指標では、全員に届いて誰も読んでいない状態と、必要な1人にだけ届いていない状態が区別できません。この号が渡せるのは、職場を変える手順ではなく、いる場所の情報の通り方を見立てる言葉です。
情報流通の健全性(Healthy Information Flow)は、共有の量につけられた名前ではなく、決めるための材料が必要な場所まで通っているか、という点検です。数字になっているのは三系統——現場の実験、実験室の課題、統合と横断です。同じ号に並んでいても、同じ物差しではありません。実験室の課題には正解が設計され、工場の記録に正解はなく、あるのは1時間あたりの個数だけです。

まず測られたのは、この3本です。
01囲った側は、1時間あたり24個ぶん多かった。期間は設置前が55稼働日(2009年5月1日〜6月27日)、設置後が142稼働日(6月28日〜11月30日)。測ったのは不良のない1時間あたりの生産数。最初の1週間のあと最大10から15%増え、差は残る5か月間保たれました。推定は差の差〔前後の変化を、処置のない側の同じ期間の変化と引き算するやり方〕で、処置×期間の項はどのモデルでも有意、前後2期に畳んでも5%水準で有意。無作為割付の実地実験ですが、測られたのは1つの工場の1回だけです。
02見られている場所では、速いやり方を使っていなかった。前段の参加観察が、その場面を記録します。現場に入った学生が教わったのは、手順書より「速く、楽で、安全な」やり方と、客や管理者が見えたらそれをやめること。理由は良いやり方を他人に説明する手間を負わないため、違うことをやって怒られないためでした。著者は観察下で成績が下がるこの現象を逆ホーソン効果と呼び、カーテンは工夫を生んだのではなく隠す手間の代わりになったと書きます。ここは質的な観察です。
03情報を配り分けると、83%が24%と12%になった。1985年の実験は、同じ問題を実験室に作りました。米国の大学の学生228人が架空の候補3人の説明を読み、4人組で選びます。全員が全資料を読んだ条件では18組の83%が最良の候補を選び、配り分けた条件では21組の24%、別の配り方では17組の12%。個人ではなく、集団の決定の割合です。測ったのは討論の中身ではなく前後の自由再生。討論は像を正すより維持する方向に働いた、と要旨は書きます。65研究・101の効果・3,189集団の2012年のメタ分析〔複数の研究を統計的に集計する方法〕では、共通の情報は固有の情報より2標準偏差〔ばらつきの大きさ〕ぶん多く言及され、分割された集団が最良解に至る見込みは8倍低い。

落ちやすいのは3か所。
011つの工場の1回が、透明性一般の話になる。カーテンの実験は、中国南部の1工場で2009年に5か月、処置は2ライン(4つのライン交代)。ここから「監視をやめれば生産性が上がる」は出てきません。原典の枠は透明性のパラドクス——見えるようにすることが、隠す行為を誘発しうる、という形です。逆向きの統合値もあります。72の独立した研究・4,795集団・のべ17,279人の2009年のメタ分析では、情報共有はチームの成果・凝集性・決定への満足・知識の統合と正の関係を持ち、成果はどの調整条件でも正でした。共有を妨げる要因は、情報の分散・相互依存・メンバーの異質性です。
02同じ著者の連作が、独立した2つの証拠になる。2018年の研究は、仕切りのない席へ移った大企業2社(所在国の明示は原典に無い)で、対面とメールとチャットの量を前後で測りました。Study 1は52人(対象者のおよそ40%)を前後15稼働日ずつ、Study 2は100人(1,830の組み合わせ)を前後8週間ずつ。対面はStudy 1で72%減(1人1日およそ5.8時間から1.7時間へ)、メール送信56%増、チャット件数67%増。Study 2で対面は67から71%減、メールは22から50%増。開けたのに、直接は話さなくなった。どちらも準実験〔無作為に割り付けていない比較〕で、全員が同時に移り、対照群がありません。「生産性が落ちた」は測定結果ではありません。経営陣が社内指標にもとづき非公開で伝えた報告までです。カーテンの実験とこの2件は同じ研究者の連作で、独立した検証ではありません。
03条件つきの結果が、無条件の法則になる。三つめは限定です。多部門企業を測った2002年の分析では、集権化(決定が中央に集まること)は部門間の知識共有と有意に負、社会的交流(非公式な横のやり取り)は有意に正。落ちるのはこの先です——正の関係が出たのは外の市場でシェアを争う部門どうしで、社内の資源を争う部門どうしでは有意ではありません。83%・24%・12%も、正解が設計された課題での割合です。あなたの職場の問題に採点表はありません。配り分けた条件では、討論の前からその候補を推す人が25%と21%でした。

全文まで読めたのは6点のうち3点。残る3点は抄録の範囲までで、そこに無い細部は書きません。答えたのは、中国南部の1工場の作業者、米国の大学生の4人組(決定を出したのは56組)、大企業2社の従業員、多部門企業1社の部門どうし、そして2つのメタ分析です。いる場所が30人以下なら、数百人以上の組織で採られた数字だと差し引いてください。読めた範囲に、日本の職場を対象にした研究はありません。
設計の強さもそろっていません。無作為割付はカーテンの実験だけ、オフィスの2件は準実験、部門間の分析は横断です。強い設計のほうが、いちばん一般化しにくい1工場の話でもある。
カーテンで囲った側が、速くなった。
65研究の統合でも、語られたのは全員の情報だった。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。「自分しか知らないこと」を数えたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にありません。数えるだけです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
紙かメモアプリに、直近1週間で自分しか知らないと思われる、仕事の上の事実を3件まで書き出す。**人の評価やうわさは書かない。**
- 02COUNT
各件のうしろに、それを知っていると助かる人の数を0以上の整数で添える。分からなければ0。多い少ないの判定はしない。
- 03CLOSE
今日の日付を足して閉じる。**共有するかは、今日は決めない。**誰にも見せず、読み返しも採点もしない。
確かめられたのは四つ。囲った側の生産数だけが増えたこと。速いやり方は、見られている場所では使われなかったこと。83%が24%と12%になったこと。統合では共通情報のほうが多く語られる一方、情報共有は成果とも正の関係を持つこと。透明性をどこまで上げるべきかは、どこにも書かれていません。書かれているのは、見せる量と、見られる側の行動の質が同じ方向に動くとは限らなかったことまで。——今日残せるのは判定ではありません。3件と、その隣の整数と、今日の日付が残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS情報流通の健全性を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。
