IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 164
● 12 SEC「一体感のある職場がいい」。求人票にも、面接での答えにも入る言い方です。それを数字にした研究が30年ぶん積み上がっています。測られているのは組織への同一視〔その組織を、自分が何者かを語るときの一部として引き受けている度合い〕。方法はほとんどが質問票です。
最初期に測られた集団は、会社ではありません。1992年の研究が対象にしたのは、米国の、男子校で宗教系の単科大学の卒業生297人。同一視が強い人ほど寄付の優先順位が高く、身近な人にその学校を勧めたいと答えていました(行事参加は指標によって割れます)。
同じ物差しは、別のものとも一緒に動きました。2010年の研究が測ったのは組織のための非倫理的行動〔社会の道徳規範に反するが組織の利益になる行動。命じられてではなく、自ら進んで行う〕。ただし同一視そのものとの有意な関連は、2つの研究のどちらでも出ていません。現れたのは、受けた恩には返すという互恵の信念が強い層だけでした。一体感の高め方は、この号では書きません。
組織アイデンティティは、この集まりは何者か、という問いにつけられた名前です。ただし数字になっているのは、たいてい隣の組織への同一視——組織の側の性質ではなく、そこに属している人の側の度合いのほうです。一体感の強さも行動の側も、答えているのは本人です。

では、その数字は何と一緒に動いたのか。まず測られたのは、この3本です。
01男子校の卒業生297人で、寄付と結びついていた。1992年の研究。対象は米国の、男子校で宗教系の単科大学の卒業生297人。同一視と結びついた要因は、組織側が際立ち・威信・内部競争の少なさの3つ(組織どうしの競争は結びつかず)、個人側が満足・在籍の長さ・感傷性の3つ。帰結は寄付先としての優先順位と、勧める・勧誘する意思。行事参加は6つの指標のうち2つ(同窓会テープの聴取・特別講義への出席)だけでした。
02医師1,504人では、協力的な行動と結びついていた。2002年の研究。米国の三つの医療システムに属する医師1,504人が回答(26%)。1年後の再調査は2システムの833人へ送られ、285人が返送(34%。残る1つは買収で不参加)。同一視と結びついたのは、組織の同一性が魅力的だと感じられることと、外からどう見られていると思うか——実際の評判ではなく本人の認識です。その同一視が協力的な行動と結びついていました。
03同じ物差しの先に、隠すことへの寛容があった。2010年の研究が支持したのは交互作用〔結びつきの強さや向きが、別の条件によって変わること〕。互恵の信念が弱い層では有意でなく、係数はわずかに逆向きです。著者ら自身が「同一視だけでは、この行動の推進力として足りない」と書いています。2014年の二つの研究では、鼓舞する型のリーダーシップが同一視を経由して〔媒介〕同じ意欲と結びつき、本人の倫理的な行動への傾きが強いと、その結びつきは弱まりました〔調整〕。

数字そのものは動きません。動くのは、引用されていく途中のほうです。落ちやすいのは3か所。
01「卒業生297人」から、誰に訊いたかが落ちる。297という数は残り、男子校であること・宗教系であることは落ちます。医師1,504人からは1年後の285人という段階が消え、就業する成人330人は「働く人330人」になります。誰に訊いた数字かが落ちるほど組織一般の話に見えますが、測られたのはそのつど、その人たちです。
02交互作用が、まっすぐな線に化ける。2010年の報告は「同一視が強いほど非倫理的行動に肯定的」という一本の線ではありません。その線(主効果)は2つの研究のどちらでも有意でなく、あるのは条件つきの結びつきです。測られたのは、1本目では行う意思、2本目では行ったという自己申告——どちらも本人の回答。「一体感が人を不誠実にする」という因果も、「強めればよい」という話も、ここからは出せません。
03強い・弱いの、1本の線に畳んでしまう。2004年の研究は就業する成人330人(発送517→返送338→有効330)で、同一視・反同一視・両価的・中立的の四つが互いに区別できることを示しました。反同一視とは、自分を「その組織ではないもの」として定義すること。一体感が弱く見える人が、無関心とは限りません。この研究には1992年と同じ研究者が入っており、独立した二つの検証ではなく理論の連作です。

答えたのは、米国の、男子校で宗教系の単科大学の卒業生297人、米国の三つの医療システムの医師1,504人、就業する成人330人。集計のほうは96件の標本です。6点のうち5点は、抄録の範囲までしか読めていません。読めていないものについては書きません。日本の職場を対象にした研究も、たどった範囲には入っていません。どれも、ある時点の回答どうしの結びつきです。
2005年のメタ分析〔複数の研究の結果を統計的に集計する方法〕は、同一視が態度的な組織コミットメントとは経験的に区別できるとしつつ、結論は用いる尺度に左右されると書きました。そのうえで——強い一体感が悪い、という話ではありません。危機のときに人が残ることと、事実を伏せることへ寛容になることが同じ一つの数字の両側に並んでいる——というのが、この号の読み筋です。片方だけを増やす手順は、たどった研究の中にありません。
一体感は、協力する意思と結びついていた。
影のほうは、恩を返す人にだけ現れた。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。外の人に向けて自分の組織を説明したとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。ここからは、ALIFEが提案する実践の入口です。判定はしません。残すだけです。省略が効かない相手に一度だけ書いてみると、何を言葉にできて、どこで詰まるのかが記録に残ります。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
自分の組織が何をしている集まりかを、業界の外にいる人に向けて150字程度にまとめる。専門用語は使わない。所属していなければ、いまの仕事や活動、過去に所属した組織で書く。
- 02CHECK
三つ入っているかを見る。誰のために。何をして。何をしないか。三つ目が書けなかったら、書けなかったという事実だけを1行メモする。無理に埋めない。
- 03READ
誰もいないところで一度だけ声に出して読み、30秒に収まるかを確かめる。今日の日付を添えて閉じる。読み返しも採点もしない。
確かめられたのは四つ。1992年の卒業生297人で、同一視が強い人ほど寄付の優先順位と勧める意思が高かったこと(行事参加は指標により分かれた)。2002年の医師1,504人で、組織の同一性の魅力と外からの見られ方の認識が同一視と結びつき、その同一視が協力的な行動と結びついたこと。
2010年と2014年で、非倫理的行動との関連が交互作用と媒介の形でだけ現れ、同一視そのものの関連は2つの研究とも有意でなかったこと。2004年の成人330人で四つの向きが区別でき、2005年の96標本では結論が尺度に左右されたこと。一体感が強いほど良いのかを、研究は決めていません。今日残せるのは判定ではなく、外の人に向けた150字と、詰まった箇所の1行と、今日の日付。輪郭がひとつ、記録に残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS組織アイデンティティを、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
