IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 163
● 12 SEC「価値観の合う会社を選んだほうがいい」。これは、ちゃんと測られています。2005年に米国で出たメタ分析は、172件の研究から836の効果量を集めました。人と組織の適合と、辞めたい気持ち(離職意思)の相関は −.35〔二つが一緒に動く度合いを −1 から 1 で表した値〕。同じ表の下の層では、本人に直接たずねた研究で −.52、自分と組織の価値を両方答えて突き合わせた研究で −.32、組織の側を本人以外から測った研究で −.19。両端では、同じ「合っている」が2倍から3倍近く動きます。
組織を変える手順も、辞めるか残るかの判断も渡しません。扱うのは、掲げられた行動原則の周りで何がどう測られてきたか、です。良い文化が良い業績を生む——この順序にも、時間をずらして向きを確かめた研究があり、業績を先に置いた向きが強く出ました(有意な差は一部の時点だけ)。
コアバリュー浸透(Core Values)は、原則の枚数の名前ではなく、それが今日の午後の判断で使われたかどうか、という点検です。ALIFEの整理では三重の円——外側が掲げられている価値、内側が理由として持ち出される価値、いちばん内側が分かれ目で重みを変えた価値。外側の円は書けば大きくなり、内側の円は分かれ目の数しか発生しません。研究が測ってきたのは、外側の円か「合っている感じ」です。

答えたのは、米国の大企業の従業員と、米国の大手会計事務所の新人会計士、それらを含む研究群の統合です。
01向きを測ると、業績のほうが先に出ていた。2003年の研究が確かめたのは、順序そのもの。標本は米国の大企業のコンソーシアム、1987年から1995年。使えた企業数は年により最大35社・最小12社、1社1年の平均回答者は450人。回答率のデータは無いと原典が明記。方法は時間差(ラグ)の分析〔年をずらして相関を比べる〕。業績と安定した関係が出たのは7尺度のうち3つ、残る4つは一貫せず。全体的な職務満足は、ラグの別を問わない加重平均で、満足→翌期の総資産利益率(ROA)が .17、逆向きが .46。差が有意〔関連が無ければ出にくい値〕なのは2年ラグ(Q = 24.78, p < .05)と3年ラグ(Q = 23.41, p < .01)だけ。給与は .39 と .49 で、差は有意でありません。結論は、優先順位が業績から満足へ向かうように見える、まで。態度から業績への有意な相関を否定はしない、とも。無作為な割り付けではありません。
02同じ適合が、測り方だけで2倍から3倍近くになった。冒頭のメタ分析を層ごとに開きます。172件・836という規模は4種類の適合を合わせた全体で、引くのは「個人と組織」の行。統合値は、離職意思 −.35、職務満足 .44、組織コミットメント .51。実際に辞めたかどうかは −.14 まで下がります。いずれも測定のばらつきを補正した推定値(ρ)で、観測値は別(離職意思では −.29)。最大の1本(n=13,388)を除くと −.47・.50・.65 へ上がる、とも原典は併記。測り方は3段階。直接たずねる行で −.52・.56・.77、両方を答えて突き合わせる〈間接・主観〉で −.32・.46・.44、組織の側を本人以外から測る〈間接・客観〉で −.19・.29・.27。両端では2倍から3倍近くに見え、隣り合う段の差はずっと小さい。2003年の21件のメタ分析も同じ向きで、効果量を大きくする条件は4つ——主観の尺度、相関を使った算出、価値の一致を次元にすること、確立された尺度。個々の研究が一様だったという意味ではありません。
03別々に測った適合は残った。ただし、同じ1本のデータだった。1991年の研究は、米国の大手会計事務所8社の新人会計士171人を追い、本人が大事だと思う価値の順と、事務所の実態の順を突き合わせました。一致していた人ほど早く馴染み、満足も高い——ただし満足は1項目の尺度で、支持は「部分的」。同じ年のもう1本は、その適合が1年後の職務満足と規範的なコミットメント(道具的な側は非有意)、2年後の実際の離職を予測したと報告(回答は8社中7社の127人、離職は171人全員)。この2本は、独立した2つの証拠ではありません。後者の方法の節が出所として前者の1988年の研究を挙げ、1本の追跡が2本の論文になっています。

数字そのものは動きません。動くのは、外へ運ばれていく途中です。手がかりは3つ。
01「合っている感じ」の数字を、適合そのものの数字として運ぶ。外へ運ばれるとき、いちばん強い数字が選ばれます。−.52・.56・.77 は、本人に直接たずねた行の値。隣の行は −.19・.29・.27、統合値は −.35・.44・.51。どれが「本当の数字」かは、この表からは出てきません。
02辞めたい気持ちと、実際に辞めたことを、同じ言葉で運ぶ。アウトカムの取り違えです。適合と離職意思の統合値は −.35、実際に辞めたかどうかは −.14。同じ表の別の行です。「価値観が合っていると離職が減る」は前者から作られ、指しているのは後者。2006年の統合も、行動面との関係を「弱いものから中程度」と報告しています。両方の行を並べたままにします。
03出どころをたどれない数字を、根拠として運ぶ。数字の来歴です。「合っている人は離職率がこれだけ低い」という数字が、よく運ばれています。ALIFEが探した範囲に、この形の主張を報告した査読論文はありませんでした。だからこの号では、その数字そのものを書きません。否定の材料にも使わず、存在しないと断定もしません。統合された値のほうは、掲げられている大きさよりずっと控えめです。

ここまでの数字はどれも、あなたの職場でこれから何が起きるかを教えてはくれません。答えたのは米国の大企業の従業員と、会計事務所の新人会計士が中心。研究の国や組織規模の内訳は、原典に集計がありません。あなたの職場が30人なら、平均の外にいる可能性があります。日本の雇用慣行に当てはまる保証はなく、日本の調査と並べて足すこともできません。全文まで読めたのは6点のうち5点で、残る1点は抄録の範囲までです。
この号の6本は、独立した6回の検証ではありません。会計事務所の2本は同じ縦断データ。3本のメタ分析(2005年・2003年・2006年の行動面の統合)は同じ分野の研究群を集めたもので、対象文献は重なりえます。価値を並べ替えて突き合わせる道具を作ったのも、会計事務所のデータを報告した側。渡せるのは、どこまで、どう測られているかまでです。
本人に聞くと、大きくなった。
別々に測ると、小さくなった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。原則のタグを貼ったとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。記録と分類だけ。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開く。**直近3日で自分が下した判断を3件だけ**書き出す。大きな決断でなくていい。**他人の判断は書かない。**
- 02TAG
組織が掲げている行動原則を手元に置く。3件それぞれに、**いちばん近い原則を1つだけ**貼る。**どれにも当たらなければ「なし」と書く。**
- 03COUNT
「なし」の数を数え、その数と日付を最後に足して閉じる。**良い悪いは書かない。**足りない・ずれている、といった判定もしない。
確かめられたのは三つ。時間差の分析で、業績から翌期の職務満足へ向かう向きのほうが強く出たこと(有意な差は一部のラグだけ)。172件・836の効果量の統合で、大きさが測り方の3段階で2倍から3倍近く動いたこと。会計事務所8社・新人会計士171人の1本の縦断データが、2本の論文になっていること。価値を浸透させる方法は、どこにも書かれていません。今日残せるのは、判断が3件、原則か「なし」が3つ、「なし」の数が1つ。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSコアバリュー浸透を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
