IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 162
● 12 SEC「同じ将来像を、全員が共有できている」。チームの単位でなら、よく測られています。2010年のメタ分析は、65件の独立研究から231の相関を集め、3,738チーム・のべおよそ18,240人を統合しました。チームの認知と成果の相関は .38(0なら関連なし、1に近いほど強い関連。測定の誤差を補正した推定値で、観測された相関そのものではありません)。行動面の過程とは .43、意欲づけの状態とは .37。目安ではどれも「中くらい」です。
ところが、同じ統合の内側で数字が動きます。主観的な指標で測った成果とは .44、客観的な指標とは .31。何を「共有できている」と呼ぶかでも動きました。同じことを考えている、という類似性で測ると .29 から .32。互いに違うことを知って補い合っている、で測ると .44 から .62。この号が扱うのは、そろえ方の手順ではなく、測り方と呼び方で大きさが動いた一点です。組織を変える方法は渡しません。読むのは、組織を選び、見立てる側の位置からです。
ビジョン共有性(Vision Sharing)は、将来像の出来映えの採点ではなく、同じ将来像がその組織の中でどれだけ食い違わずに持たれているかの点検です。「共有」と呼ばれてきたものは二系統——答えのそろい方で測る類似性と、互いに違うことを知って噛み合う度合いを測る補い合い。同じ言葉でも、計算のしかたが違います。

では、どこまで測られているのか。まず測られたのは、この3本です。
01同じ関係が、測り方で .29 から .62 まで動いた。.38 の行に入ったのは60件・N=3,512。そして、類似性の .29 から .32 と、補い合いの .44 から .62 は、ひとつの表に並んだ値ではありません。別々の分析にまたがって報告された範囲で、単一の値には合成できません。言えるのは、帯がそろいより噛み合いの側で高かったところまで。統合値は、個々の研究が一様だったという意味でもありません。
022人組56組の模擬課題で、一致度と過程が結びついた。2000年の研究は、大学生の2人組56組に、パソコン上で飛行の模擬課題をこなしてもらいました。測ったのは、チームと課題についての心的な見取り図の一致度です。一致度が高い組ほど過程と成果が良く、その結びつきは過程を完全に経由していました。ただし2人組、大学生、実験室です。原典は、参加者を集めた国を書いていません。
03ひとつの業界の183組では、伝え方を介して成長と結びついた。1998年の研究は、米国の建築用木工品業界で起業家CEOと従業員を組にした183組で、1992年から1994年の成長を追いました。1992年時点の平均は従業員およそ25人・売上およそ230万米ドル。31%のCEOは「ビジョンを持っていない」と答え、0点で入っています。将来像の内容と属性は、伝え方を介して、またそれとは別に直接、成長と結びついていました。ひとつの国の、ひとつの業界の、2年間です。

動くのは数字ではなく、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
0118組の内訳が、途中で落ちる。「社運を賭けた大胆な目標を掲げよ」——出どころは1994年の一般書です。ただし比較対象が無いわけではありません。ビジョナリー企業18社と、対応させた比較企業18社のマッチドペア(似た企業を1対1で組にする)で、内訳も示されます——証拠がより多いのが18組中14組、区別がつかないのが3組、比較企業の側が多いのが1組。14 + 3 + 1 で18組。ただし判定は遡及的で、コーディングは著者たち自身。成功した企業を先に選ぶ構造で、査読も有意性の検定もありません。14/18 は分類の記録で、検定の結果ではありません。
02射程の話が、片側だけで決着させられる。この処方は、頑健な研究の名前を借りて運ばれます。具体的で難しい目標のほうが、曖昧な目標や「できるだけ頑張れ」より高い成果につながる——2002年に出た35年ぶんの総括です。著者たち自身は射程を広く主張し、1分から25年までの課題、100を超える種類、個人から組織全体まで、と明記しています(ただし「組織全体」を支える引用は、3本目と同じ著者らの2001年の論文。独立した証拠ではありません)。一方、個別の実験の多くは数分から数週間で終わる課題でした。どちらかが嘘なのではなく、同じ範囲を指すかが決着していません。
03同じ分野が出した副作用が、外へ出るときに落ちる。2009年の論考は、目標設定が処方されすぎていると論じ、副作用を5つ挙げました——目標の外の領域が視野から外れる、非倫理的な行動が増える、リスクの取り方がゆがむ、組織の文化が損なわれる、内発的な動機が下がる。2004年の実験は、未達に終わった人は「できるだけ頑張れ」の条件より非倫理的な行動をとりやすく、その関係は目標のすぐ手前でとくに強かった、と報告しました。論考の著者2人は、この実験の著者と同じ人物。独立した二つの証拠ではありません。残るのは、「具体的にすれば副作用なく成果だけが上がる」に、同じ分野の内側から留保がついていることです。

全文まで読めたのは7点のうち4点。2点は要旨まで、1点は本文に届いていません。読めていないものについては書きません。答えたのは、集められたチームと、ひとつの業界の企業です。日本の組織を対象にした同じ設計の追跡は、読めた範囲にありません。統合値も平均も、計算された集団の話であって、あなたの職場の見通しではありません。
ここに並んだ数字のほとんどは、観察と統合です。無作為に将来像を割り付けた比較ではないので、共有できていたから成果が良かったのか、その逆かを、これらのデータは分けられません。うまくいかなかった組織ほど記録が残らない構造もあります。だからこの号は「共有すれば成果が上がる」とは書きません。
「同じことを考えている」で測ると、.29 から .32。
「互いに違うことを知っている」で測ると、.44 から .62。
どちらも、測定の誤差を補正した推定値。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。3年後の姿を1行書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
紙かメモアプリに、**3年後、自分のいる組織がどうなっていたいか**を、自分の言葉で1行だけ書く。正しい答えを当てる課題ではない。誰にも見せない。
- 02COUNT
その1行に、(1)いつまでという時点、(2)誰に対してという相手、(3)何がという中身が入っているかを見る。入れば1、なければ0で数え、**合計を0から3で記録する。**
- 03KEEP
1行と合計の数字に、今日の日付を添えて閉じる。良い将来像かどうかも、組織の良し悪しも書かない。**0でも構いません。**0だと分かっている状態と、分からない状態は違います。
確かめられたのは四つ。65件の独立研究・231の相関・3,738チームの統合で、同じ関係の大きさが、成果の測り方でも共有の測り方でも動いたこと。2人組56組の実験で、見取り図の一致度が過程と成果に結びついたこと。183組の縦断で、将来像と成長が結びついたこと。そして「社運を賭けた大胆な目標」の出どころが1994年の一般書で、18組の内訳は遡及的な自己分類だったこと。掲げるべきかどうかは、どこにも書かれていません。——今日残せるのは判定ではなく、1行と、欄の数と、日付です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSビジョン共有性を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

