IN ORGANIZATIONAL FOUNDATION · ISSUE 161

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頭をあずけ、白い掛け布団にくるまって静かに目を閉じている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「存在理由がはっきりしている組織は、うまくいく」。この言い方は、ちゃんと測られています。ベルギーの研究チームが2011年に発表したメタ分析〔複数の研究の値を集めて統合する手法〕が、20年ぶんの研究から14件・206の相関を集めました。

統合は、研究の大きさで重みをつけた相関の平均。ミッション文と財務的な組織成果の全体の値は 0.22(0.2257)。正の向きで、一般的な目安では「小さい」とされる範囲です。関係が無いわけではないが、講演で使える大きさでもありません。

この号が扱うのは内訳です。硬い財務指標で測った研究では 0.1350、柔らかい財務指標では 0.3382。測る指標の系統が違う研究群で、値は2倍以上開きます。書き方も、組織の変え方も渡しません。この数字は、あなたの職場で明日何が起きるかを教えてはくれません。

ミッション明確性(Mission Clarity)は、うまい一文を書く技術の名前ではなく、明文化されていることと、日常の判断で実際に参照されていることは別だ、という点検です。前者は紙の上で完了し、後者は先週の判断にしか現れません。測られてきたのも二系統——成果指標との相関を集めた研究と、その相関が誰にどう訊いて作られたかを点検した方法論の研究。同じ組織の中で比べた数字ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
答えたのは、カナダの大企業と、20年ぶんの研究に集められた組織。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

では、関連の側はどこまで数えられているのか。まず数えられたのは、この3本です。

0114件を集計しても、全体は 0.22 だった。中心は、そのメタ分析です(研究単位の14の効果量・全体はN=1,945)。統合は研究の大きさで重みをつけた相関の平均(weighted mean r)で、全体は 0.22(0.2257)。硬い財務指標(9件・N=1,077)で 0.1350、柔らかい財務指標(5件・N=868)で 0.3382。原語は soft financial measures。「主観的な業績評価」は紹介語で、定義文には未到達です。幅は .08 から .41。統合値であって個々の研究が一様だった意味ではなく、集計されたのは相関です。

02結びついたのは、特徴の一部だけだった。1998年の研究はカナダの大企業136社で、ミッション文とその特徴の一部が、より高い成果と選択的に結びついていたと報告しました(抄録の範囲まで)。すべての特徴が一様に結びついたわけではありません。この研究が先の14件に含まれるかを確認していないので、独立した別々の証拠として数えないでください。

0353本を並べた結論は、「理論は乏しい」だった。2018年の系統的レビューは、ミッション文に関する53本の論文を並べ直しました。結論は素っ気ない——実務では広く使われているが、理論的にはあまり研究されていない(抄録の範囲まで)。53本は対象になった論文の本数で、効果が確かめられた回数ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で街の明かりのほうを見ている女性。暗いガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
14件206相関の 0.22・カナダの136社・53本のレビュー。まず数えられたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、そこから引かれていく途中です。手がかりは3つ。

01成功した組織を先に選んだ設計が、落ちる。広く流通している主張は、1994年に出た一般書に由来します。よく引かれるのは、選ばれた18社の累積株式リターンが1926年から1990年までで一般市場の15倍、比較企業は2倍という数字。その期間・その市場の記録であって、先の見通しではありません。「比べた相手がいない」は当たりません(18組のマッチドペア)。残るのは、特徴の判定が著者たち自身で独立した評価者は明示なし、成功した企業を先に選ぶ設計そのもの、査読も検定も無いこと。1997年の論考も、成果を結果変数にする研究の困難を三つ——優位は競争で不安定、因果が複雑、回顧データに限界——挙げ、認めながら同じやり方が続くと書きました。

02有名な数字の、由来が一つずれる。測っているのが、たいてい同じ人たちだ、という事情もあります。2003年の方法バイアス〔測り方に由来する系統的な誤差〕の総説からよく引かれるのは、典型的な測定尺度の分散のおよそ26.3%が測り方由来の誤差で説明されうる、という値と、577件のうち51%(296件)が自己申告の尺度を主要または唯一のデータ源にしていた、という数え上げ。どちらも、この総説自身の集計ではありません。26.3%は1987年の、577件中51%は1990年の先行研究の集計で、「総説が数えた577件」と書くと由来が一つずれます。原因側と結果側を同じ回答者から取ると、測り方に由来する分散が上乗せされうる。相関は出ますが、向きは決まりません。

03内訳と向きが落ちて、一文になる。三つめは、要約で何が消えるかです。0.1350 と 0.3382 は、外へ出るとき1つの数字になり、「関連がある」という一文に変わります。落ちるのは、その大きさが何で成果を測ったかで2倍以上動いた、という部分。もうひとつ落ちるのが向きです。「掲げた言葉が判断を動かした」と「うまくいっている組織では掲げた言葉も良く見える」は、どちらもこの相関と両立します。答えているのが同じ組織の人であるほど、2つは重なって見えます。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
後づけ収集の設計・由来が一つずれる・内訳と向きが落ちる。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

平均も統合値も、それが計算された組織の集まりの話で、あなたの職場の見通しではありません。答えたのは、カナダの大企業と、20年ぶんの研究に集められた組織です。いっぽう日本の数は、2021年6月時点で企業337.5万者、うち中小企業336.5万者で99.7%、従業者20人以下(一部の業種は5人以下)の小規模事業者285.3万者で84.5%。多数派は小さな組織のほうで、数字を作った組織ではありません。制度も訊き方も違うので、並べて比べたり、足し合わせたりはできません。

質問票に答えられるのは、いま存続している組織だけです。続かなかった組織は、調査票を受け取っていません。「掲げていた組織は成果が良かった」からは、「成果が良い組織ほど掲げた言葉も良く見え、調査にも答えた」という逆向きを取り除けていません——というのが、この号の読み筋です。この号は組織の変え方を渡しません。掲げ方の型も、社内で提案する手順も、職場をどうするかの判断も置きません。置くのは、どの数字が誰に何を訊いて作られたかを見分ける材料だけです。

測っていたのは、同じ関係だった。
2倍以上に動いたのは、測り方のほうだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。集計されたのは、ミッション文と成果指標のあいだの相関です。判断を1件書き留めたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    紙かメモアプリに、自分の組織がなぜ存在するのかを1文で書く。40字程度まで。**うまい文にしようとしない。**組織に所属していない場合は、いま続けている仕事や活動を1つ選べば成立します。

  2. 02PICK

    直近1週間で下した判断を1件だけ思い出す。引き受けた、断った、後回しにした——小さいもので構わない。6文字以内で書き添える。理由は書かない。

  3. 03MARK

    その判断が、いま書いた1文に照らして説明できるなら○、できないなら×を付ける。×でも構わない。理由は書かない。今日の日付を足して閉じる。

10分。**採点も、組織の評価もしません。**「存在理由が無い」とも「自分は合っていない」とも結論づけられません——測られたのは組織の平均と成果指標の関連で、あなたの1件の判断ではないからです。上司に見せる課題でも、制度を提案する課題でも、退職や転職を決める課題でもありません。苦しくなったら中止を。**職場のことでつらさが続く・強まる場合は、産業医・社内外の相談窓口・医療などの専門家へ。**

確かめられたのは、14件・206の相関の全体が 0.22(0.2257)で、正の向きで「小さい」とされる範囲だったこと、硬い財務指標で 0.1350、柔らかい財務指標で 0.3382 に分かれたこと、136社では特徴の一部だけが結びつき、53本のレビューの結論が「理論的にはあまり研究されていない」だったこと、15倍(比較企業は2倍)は査読を経た論文ではなく1994年の一般書の記録で、26.3%と577件中51%は総説自身ではなく1987年と1990年の集計だったこと。掲げれば成果が付いてくるとは、どこにも書かれていません。——今日残せるのは評価ではなく、存在理由が1文、判断が1件、○か×がひとつ。記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSミッション明確性を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
系統的レビュー
あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。

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ISSUE 160待てた長さではなく、最初の20秒だった。ISSUE 162そろえた組より、噛み合った組だった。
ALIFE · ISSUE 161

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。