IN FORTUNE MAKING · ISSUE 150
● 12 SEC英国で1960年に出た課題。参加者に 2・4・6 を見せ、ある規則に従っていると告げる。提出した3つ組が規則に合うかだけを教わり、確信が持てたら宣言する。正解は「増加する3つの数」。29人のうち、最初の宣言で到達したのは6人。13人は1回外し(うち10人が次で到達、3人は以後宣言せず)、9人は2回以上外し、1人は最後まで宣言しなかった。多くは自分の規則に合う例ばかりを提出していた。合う例をいくら集めても、規則は絞り込めません。
扱うのは2つだけ——現状維持バイアスと確証バイアス。総覧はしません。どちらも機会を見送る側で働き、見送った本人には理由が正当に見えるからです。「バイアスを直せば運が良くなる」という文は、この号のどこにも出てきません。
ここで言うバイアス管理は、歪みを消す技術ではなく、見送ろうとしているものについて、材料の集め方が片側に寄っていないかという点検です。現状維持バイアスは、いまの状態が選択肢の一つではなく初期値として現れることで働き、確証バイアスは、すでにある見立てを支持する材料が集まりやすいことで働きます。
測られてきたのは、同じ中身の選択肢を中立の形と「これが現在の状態です」と添えた形で比べた実験、申込書の初期状態を入れ替えた実験と国ごとの制度の比較、そして情報の選び方の統合——別々の系統です。同じ人の中で比べた数字ではありません。

数字が出ているのは、選択実験、オンライン実験と国別の制度比較、英国の課題、欧米の研究の統合です。まず測られたのは、この3本。
01同じ中身でも、現状と書かれた側が選ばれた。米国で1988年、大学院生中心の486人に、中身の同じ選択問題を、対等に並べる形と、ひとつに「これが現在の状態です」と添える形で見せた。現状と書かれたほうが選ばれやすい。要約式は SQ = 0.177 + 0.830 × NEUT(割合どうしの対応で、個人の予測式ではありません)。対にした54件の比較のうち、10%水準(慣例の5%より緩い基準)で差が出たのは31件。選択肢が増えるほど強く、候補2人なら現職59対41が、4人では現職38.5%に対し挑戦者1人あたり20.5%。紙の上の仮想の問題です。
02初期値を入れ替えると、42%が82%になった。米国で2003年、臓器提供の意思表示の初期状態を入れ替えた3条件を、オンライン実験の161人が答えた。同意率は、提供しないが初期値で42%、提供するが初期値で82%、中立で79%。有意に低かったのはオプトインだけ。国別の制度比較では、提供が初期値の国とそうでない国の分布がおよそ60パーセントポイント離れて重ならず、提供率を国と年で追った回帰では16.3%多い。161人は登録ではなく答えてもらった選択、国別は制度の違う国を並べた観察です。
03合う例を集める傾向は、統合値で0.36だった。冒頭の課題。29人のうち到達したのは6人。外れる例を1つ出すほうが速いのに、多くはしなかった。米国で2009年、67報告・91研究・約8,000人を統合したメタ分析は、自説を支持する情報を選ぶ傾向の効果量を、固定効果モデルで0.36(95%信頼区間 0.34〜0.39)、ランダム効果モデルで0.38(同 0.32〜0.44)と報告した。効果量は、群のずれをばらつきを単位に表した値で、0なら差なし。一般的な目安では、0.36は「小」と「中」のあいだです。

数字そのものは動きません。動くのは、そこから結論が引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01実験室で減った幅を、現場の改善として読んでいる。バイアスは訓練で減らせる。半分は測られています。米国で2015年、1回の訓練介入を測った2つの縦断実験。ゲームでは対象の判断課題の偏りが直後31.94%以上、およそ2か月後も23.57%以上減り、解説動画でも直後18.60%以上、遅延時19.20%以上減った。測られたのは、実験室で出された判断課題の成績です。「実験室の課題で偏りが減った」は、「現場の判断が良くなった」ではありません。
02転移を調べた研究の数を、飛ばして読んでいる。オランダで2021年の系統的文献研究は、52件から選別し、14日以上の保持か別文脈への転移を適切に測った査読論文は12件、訓練の外での実際の意思決定への転移を調べたものは1件と報告します。その1件が2019年の準実験。フランスの経営大学院の大学院生318人中316人が訓練を受け、分析対象は290人。訓練の平均およそ18日後と訓練より前に、同じケースを解いた群を比べた。劣った選択の割合は58.8%と72.2%、相対的におよそ19%少ない(72.2%に対する割合での言い直し。2020年の正誤表で訂正された後の値)。結論は、現実の条件で判断を実質的に改善する証拠は不十分。無駄だという話ではなく、示された範囲が実験室の成績と1件の追跡に限られるという話です。この1件は、実験室の訓練研究と著者が重なります。
03統合値0.36を、「自説に合う情報しか見ない」に読んでいる。統合値0.36は、「人は自分の立場を支持する情報しか見ない」という意味ではありません。メタ分析が出すのは集めた研究をまとめた値で、91の研究がすべて同じ向き・同じ大きさだったという報告ではありません。強い癖として描けば「どうせ人は偏る」という別の結論が出ますが、そこもこの値からは出てきません。名前を2つ覚えると、他人の見送りを説明する語彙が増える。自分の見送りについては、相変わらず理由が正当に見えます。

答えたのは、米国の大学院生486人、英国の学部生29人、フランスの大学院生290人、欧米のオンライン調査の参加者。大学のまわりに強く偏っています。どれも、あなたが今週見送るかどうかの見通しではありません。日本の職場の慣行は、これらの実験に入っていません。
「この2つを覚えれば判断が良くなる」という約束も、ここからは出てきません。バイアスを減らせば運が上向くかを測った研究は、扱っていません。見送りの良し悪しも判定しません。正しい見送りも多い。書けるのは、見送りの理由が片側の材料だけで固まりやすい、というところまでです。
規則に届いたのは、29人のうち6人。
合う例をいくら集めても、絞り込めない。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。反する事実を1行書いたときに何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ALIFEが提案する実践の入口です。判断を変える課題ではありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近1週間で**見送ったもの**を1つだけ選ぶ。誘い、募集、声かけ、相談——どれでもよい。短い名詞句で1行。
- 02WRITE
2行めに、見送った理由を1行。頭に浮かんだ言葉のまま、評価も反省も足しません。
- 03ADD
3行めに、**その理由に反する事実を1つだけ**書き足す。感想ではなく確かめられる事柄を——使った時間の実数、締切の日付、似たことをやった記録の有無。見つからなければ「見つからなかった」と書く。
バイアスの話は、たいてい「選んで失敗した」側の話です。見送った側には結果が返ってこない。何も起きなかったのだから、後悔する材料さえ手に入らない——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは4つ。現状と示された側が選ばれ、54件のうち31件で差が出たこと。初期値の置き方で同意率が42%・82%・79%と並んだこと。29人のうち到達したのは6人、統合値は0.36だったこと。訓練で実験室の課題の偏りは減ったが、転移を測った査読論文は12件、訓練の外を調べたものは1件だったこと。判断が良くなる手順は、どこにも書かれていません。今日残せるのは、見送ったものが1行、理由が1行、反する事実が1行だけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSバイアス管理を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

