IN FORTUNE MAKING · ISSUE 149

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「チャンスを見逃さない人になりたい」。この願いには弱点があります。見逃したものは、見逃した本人の記録に残りません。残るのは、気づいたもののほうだけ。だから自分の感度は、いつも都合よく高く見積もられます。

では、気づかなかった量はどこで数えられているのか。米国で1999年に出た実験は、白か黒どちらか一方のチームのパスの回数だけを数えさせ、その最中に予期せぬものを約5秒だけ横切らせました——ゴリラの着ぐるみを着た人物か、傘をさした女性か。分析対象となった192人の46%が、それを見ていません。この号は「気づく力を鍛えれば運が良くなる」とは書きません。

チャンス察知は勘の良さの別名ではなく、目に映っていたものが意識に上がったかどうかの点検です。この状態には名前があります——非注意性盲目(inattentional blindness)。注意が他所へ向いているあいだ、視野に入っているものが意識に上がらないことです。数えろと言われた人ほどよく数え、よく数える人ほど他を見ません。動画を見せられるまで、本人も見落としを知りません。

数字の出どころにも断りを。1999年の実験・2010年の追試・2011年の屋外実験・2015年の個人差研究の4本は、同じ研究者たちが関わった連作です。2013年の放射線科医の研究だけは別のグループですが、仕組みは同じです。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
答えたのは、米国の大学の観察者と、米国の放射線科医24人。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

答えたのは、米国の大学の観察者と、米国の放射線科医24人、ドイツの実験室の116人と198人。まず測られたのは、この3本です。

01192人の46%が、見ていなかった。1999年の実験です。白か黒どちらか一方のチームのパスを数える最中に、ゴリラの着ぐるみを着た人物か傘をさした女性が約5秒だけ横切る。分析対象192人のうち46%が気づかず、54%が気づいた。この46%は16条件の合算です。中央で胸を叩くゴリラは同じ論文の追加の実験で、9秒映るその映像を見た12人のうち気づいたのは50%。測ったのは、尋ねられて報告したかどうかです。

0224人中20人が、報告しなかった。熟練すれば別か。2013年の研究は、放射線科医24人に肺の結節を探させ、最後の症例の画像に、結節よりはるかに大きなゴリラの絵を埋め込みました。報告しなかったのは24人のうち20人、83%。視線計測では、見落とした20人のうち12人がその場所を直接見ていました。「見ていた」と「気づいた」は別の出来事です。ただし24人の小さな標本の1課題で、診断の腕前を測ったものではありません。

03夜は35%、昼は56%だった。外でも測られています。2011年の屋外実験では、人を追いながら課題をこなす経路のわきで乱闘が演じられました。気づいたのは夜35%(20人中7人)、昼56%(16人中9人)。では、気づきやすい人はいるのか。2015年の研究は116人と198人に作業記憶・注意の広さ・抑制・物忘れの自己申告を測りましたが、ほとんど予測しませんでした(例外は中央の静的課題での作業記憶)。研究2の172人では、2つの見落とし課題のあいだの対応が rφ=.13(二択どうしの対応の強さで、0なら対応なし。95%信頼区間は−.02から.27で0をまたぎます)。結論は個人差より状況と課題の要因、というもので、「個人差が無い」の証明ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
192人の46%・24人中20人(多くが直視)・夜35%と昼56%。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01「知っていれば気づける」に読み替える。2010年の追試は、元の動画を知っている人と知らない人に新しい動画を見せました。知っている人は、全員が新しいゴリラを見つけました。同じ動画には、幕の色が変わる・選手が1人だけ黙って退場するという別の出来事も仕込まれています。どちらかに気づいたのは、知っている人で17%(23人中4人)、知らない人で29%(41人中12人)。著者はこの差が統計的に有意ではないと明記しています(差が無いとしても、これくらいの違いは普通に起こりうるという意味)。一度当てられることは、次の何かに気づけることを意味しません。

02「セレンディピティは訓練できる」に読み替える。「偶然を発見に変える力は訓練できる」。2018年の論文は、ある社会学者の書庫の513箱から38箱を閲覧、22箱を精読して118例の事例データベースを作りました。ただし、起きたあとに集めた例です。しばしば出どころとされる2004年の著作は、語の用法の歴史をたどる研究で実験ではありません(同論文の記述。この号は本そのものに到達していません)。2024年の系統レビューは、経営学の主要誌の論文24本を起点に、この領域は大部分が現象の記述にとどまり、分野をまたいだ理論化を欠くとまとめました。訓練できると言うには、訓練していない人と比べた記録が要ります。ただし、偶然からの発見が存在しないという話ではありません。

03「気づける人になる」を目標に変える。この号は、気づく力を鍛える方法も、運を良くする手順も渡しません。測られたのは見落としの量で、負荷を下げれば実生活の機会が増えるかを確かめた研究は扱っていません。気づきやすさも、その人の性質としてはほとんど取り出せませんでした。難しい条件では45%、易しい条件では64%。夜道では35%、昼は56%。忙しさや暗さのほうが数字を動かしていたのであって、努力の足りなさの表ではありません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
「知っていれば気づける」・「訓練できる」・「気づける人になる」。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

標本には偏りがあります。答えたのは西欧・北米の大学の周辺に寄った人たちで、日本の職場や生活の場面へそのまま移せる保証はありません。人数も24人・20人・16人・12人という規模で、平均も割合も、あなたが今日どれだけ見落とすかの見通しではありません。

中心の4本が連作であることは先に書いたとおりで、「たくさんの独立した研究が同じ結論に達した」という形ではありません。測られた場面も、動画とCT画像と夜道だけです。セレンディピティの側は事後に集められた事例で、件数が増えても、比較の相手——見送った側——は現れません。

ゴリラを知っていた人は、全員が見つけた。
幕か退場に気づいたのは、23人中4人。

だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。見送った合図を書き留めたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号では扱っていません。ここからはALIFEが提案する実践の入口。分子のほうを、24時間だけ数えます。

TRY IT TODAY

  1. 01SET

    メモを1つ用意して、今日から24時間の枠を決める。拾うのは、**何かの入口かもしれないが今は無理だ、と思って通り過ぎたもの**だけ。行動は変えません。

  2. 02WRITE

    1件につき、3つだけ書く。①いつ ②何の合図だったか(相談・募集の案内・見かけた告知など) ③見送った理由。評価も反省も書きません。

  3. 03COUNT

    24時間たったら、件数を数えて日付とともに閉じる。**0件だったら「0」と書けば完了です。**多い少ないの判定はしません。

10分。採点はありません。**記録した件数を、感度の高さと読み替えないでください。数えられていない分は、最後まで数えられません。**そして、**運転中・自転車や歩行中・機械の操作中には記録を取らないでください。**注意を分ければ見落としは増えます。他人の相談の中身や、個人が特定できる内容は書かないでください。苦しくなったら中止し、つらさが続く場合は医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは4つ。192人の46%が予期せぬ出来事に気づかなかったこと。放射線科医24人のうち20人が報告せず、うち12人はその位置を見ていたこと。夜35%・昼56%というように、割合を動かしていたのが人ではなく場面だったこと。「訓練できる」を支えているのが、事後に集められた記録だったこと。気づく力の鍛え方は、どこにも書かれていません。今日残せるのは、合図が何件と、その理由と、日付だけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSチャンス察知を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。