IN FORTUNE MAKING · ISSUE 147
● 12 SEC「最初の37%は見送れ」。仕事でも、住まいでも、相手選びでも引かれる規則です。順に来る候補の最初のおよそ37%を断り、それ以降で今までの誰よりも良い候補が来たら即決する。最良の一人を選べる確率は、およそ37%——数学としては、正しい。
1989年に出た整理によれば、この規則が成り立つには原典の並べる6つの条件が要ります。崩れやすいのは4つ——候補が偶然の順序で一人ずつ来る。相対的な順位でしか比べられない。断った候補は二度と戻らない。最良の一人だけが成功で、二番目の価値はゼロ。総数を知っていることも定式化に入ります。つまりこの37%は、戻れない世界の、母数が分かっている世界の数字です。
タイミング制御は、時機を当てる技術の名前ではなく、当てられないという前提の上で、入る条件と出る条件を先に書いておけるかという点検です。測られたのは三系統——いつ決めるかを先に決めておく規則(停止規則)の性質を前提から導いた数学、同じ探索課題を人に何度も解かせた実験、参入した企業の記録の数え直しです。

では、どこまで測られているのか。まず測られたのは、この3本です。
016つの条件を置いたときに、およそ0.368になる。成功確率は、候補が増えるほど1/e、およそ0.368(およそ36.8%)に収束します。「37%」はこの値の丸め。ただし見ておきたいのは前提のほうです。現実では母数が分からないことも、断った相手に連絡がつくことも多く、二番目の価値はゼロではありません。「二番目でも十分だ」と認めるなら、それはもう、この規則が解いている問題ではありません。
02繰り返せる場では、10ゲームほどで上がっていた。2020年の実験は、いつ止めるかの判断が条件つきで上手だと答えます。6,537人が同じ探索課題を繰り返し、合計48,336ゲーム。勝率は最初の10ゲームほどで約25パーセントポイント上がり、理論上の最大から5から10パーセントポイントの範囲まで近づきました。(パーセントポイントは、割合そのものの差です。)ただし言えるのは、何十回も引き直せる場について。転職も開業も、引き直せません。
03先に着いたブランドの47%は、消えていた。1993年の分析は、米国市場の50の商品分野・約500ブランドをたどりました。最初に参入したブランドの47%が失敗して消え、生き残った先発だけなら平均市場シェアは19%、失敗した分も含めた先発全体では10%。平均およそ13年後に参入した早期の市場リーダーは28%。19%と10%は、分母が違います。先発の優位が過大に見えていた理由も、限られた既存データベースへの依存・生き残らなかった企業の除外・当事者1人の自己申告への依存の3つと書かれています。この号がたどれたのは断片の照合まで。20世紀の米国市場の記録です。

数字は動きません。動くのは、そこから引かれていく途中です。手がかりは3つ。
01いくら賭けるかの答えを、いつ入るかの答えとして読む。時機の議論に持ち込まれがちな1956年の論文が導いたのは、1回ごとに資本の何割を賭けるかという配分の規則です。最大化されるのは資本の期待値(起こりうる結果を、確からしさで重みづけして足した値)ではなく、資本の対数の期待値——長期の成長率です。そして、いつ入るか、いつ抜けるかは、この論文では扱われていません(原文の全文検索で確認)。1971年の論文は、幾何平均(掛け算の平均)を最大化する戦略は、どれだけ長い有限の期間をとっても一般には最適ではなく、漸近的にも最適に近づくとは限らないと示しました。この号は、どちらが正しいかを決めません。
02繰り返せる場の上達を、一回きりの判断へ持ち込む。観察されたのは、繰り返した場合の勝率の上がり方でした。効いたのは引き直せるから。一回きりの参入や撤退は、この条件を満たしません。記録の側も同じ。先発の平均市場シェア19%は、生き残った先発だけを分母にした値。消えた47%を分母に戻すと、先発全体では10%になります。抜けているのは、引き直せなかった回と、消えた側です。
03締め切りは、置けば効くと読む。2002年の実験は、60人の学生を20人ずつ3条件に分けます。成績は、外から等間隔に締め切りを置かれた群が最も良く、自分で置いた群が中間、最後に一つだけの群が最も悪い。ところが2026年の追試は、再現しませんでした。自分で締め切りを置く条件の参加者のうち、最終締切より厳密に早い——拘束力のある——締め切りをタスク1と2の両方に設定した人は93.33%、タスク3は89.33%。それでも条件のあいだの成績差は、ほとんど見られなかった。著者らは、締め切りが先延ばしを抑える有効な仕組みだという通念には懐疑的であるべきだと結びます。それでも2002年を無かったことにはできません。だから「置けば効く」とも「意味がない」とも書きません。

全文まで読めたのは7点のうち5点。残りは公式抄録までが1点、断片の照合までが1点です。答えたのは学生とオンラインの参加者が中心で、数学の側に標本はありません(前提から導かれた定理です)。市場の分析は20世紀の米国市場が対象。日本の市場を対象にした同じ設計の分析は、読めた範囲に見当たりません。制度も測り方も違うので、日本の数字と並べたり足したりはできません。
「時機さえ合えば、結果は何倍にも変わる」という言い方があります。参入の時期と結果の倍率を結びつけた一次情報には、たどり着けませんでした。存在しないとは書けません。そして、この号は投資や事業の判断を渡しません。平均も割合も、あなたの案件や口座の見通しではありません。過去の記録は、その期間・その市場の記録です。
答えていたのは、いくら賭けるか。
答えていなかったのは、いつ入るか。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。線を1行書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。当てにいきません。判定もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開き、いま続いている物事を1つだけ選ぶ。仕事の案件でも、習慣でも、返事待ちの応募でもいい。**お金の運用・契約・借り入れに関わるものは選ばない。**
- 02WRITE
2行めに、撤退の線を1文だけ書く。期限型なら、いつまでに何が起きなければやめるかを日付で。条件型なら、何が起きたらやめるかを、外から見える出来事で。**両方は書かない。**
- 03DATE
3行めに今日の日付を書き、そのまま閉じる。今日は書くところまで。守るのも伝えるのも、今日の課題ではありません。
確かめられたのは四つ。37%の規則が成り立つのは、6つの条件(偶然の順序・相対順位のみ・再訪不可・最良のみ成功・総数既知)を置いた世界だけだということ。10ゲームほどでの上達が言えるのは、引き直せる場に限られること。1956年の論文が答えていたのは配分の規則で、参入や撤退の時機ではなかったこと。市場の記録は、生き残った先発だけを見るか、消えた先発も数えるかで見え方が変わること。そして60人の締め切りの実験と2026年の追試は、そろいませんでした。いつ始めるべきかも、いつ抜けるべきかも、どこにも書かれていません。今日残せるのは、物事が1行、線が1行、日付が1行。線が1本、記録に残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSタイミング制御を、もっと深く学ぶ。→