IN FORTUNE MAKING · ISSUE 146

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「多様性は能力に勝つ」。出どころは2004年の論文で、中身は数理モデルです。十分に大きな候補の集団からランダムに選んだチームが、成績上位だけのチームを上回る場合がある——集団が大きいほど上位の主体どうしは解き方の空間で似てくるから、と論文は説明します。

この論文は2つの節でできています。「計算実験」と題したシミュレーションの節と、定理の節。あの一文はシミュレーションの節の結論で、どちらも職場から集めたデータではありません。

この号が扱うのは、幅の広げ方ではなく、その一文がどこで確かめられ、運ばれるとき何が足されるのかです。「多様性には意味がない」という話でもありません。実証の側の数字のひとつは有意です。ただし、小さい。

行動多様性(Behavioral Diversity)は、手を出す数の名前ではなく、同じ回数の試行をいくつの領域に散らしているか、という配分の点検です。幅は無料ではありません。時間を移せば、別の領域から時間が消えます。

測られてきたものは二系統。定理と、その前提を検討した数学の論考。そして実証——企業のチームの研究の統合、1,790万本の論文の引用、ひとつの大学の卒業生の調査。同じ土俵の数字ではありません。学び方の幅や技能の転移は、この号の範囲外です。

(仮ビジュアル)暗い室内で黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性。窓の外は夕暮れの空
数字を作ったのは、モデルの中の主体と、企業のチームと、論文と、ひとつの大学の卒業生。 Visual: ALIFE

代償を正直に書いたのは1991年の論文です。組織の学習を、磨くことと探ることの2つに分け、探索から返るものは体系的に、確実性が低く、時間的に遠く、行動と適応の場所から組織的に離れていると書きました。放っておけば探索から手を引く方向へ流れる、とも。

ただしこれは、幅を広げた個人の成果を追った測定ではなく、形式モデルです。まず測られたのは、この3本。

01定理は成り立っている。前提の上で。2004年の論文は、シミュレーションで「多様性は能力に勝つ」形を示し、その論理を定理として与えました。2014年の検討が、その前提を剥がします——同じ主体を無限に複製できる。チーム規模が最初の候補の数よりはるかに大きい。一人では解けないが、全員でなら解ける。指摘は3層。公刊された形の定理への反例(補題1の誤り)、仮定の言い換えにすぎない点、計算実験との無関係で、批判の側は「本質的で修復不能な誤り」と書きます。「多様性」が定理の文脈で数学的に定義されていない、とも。この号は、どちらか片方を正しい側にしていません。

02612の効果量では、この大きさだった。2012年のメタ分析〔複数の研究を一つの推定値にまとめる方法〕が、146件の研究から612の効果量を集めました。属性(性別・年齢など)の多様性と成果の相関は、ランダム効果モデル〔研究ごとに本当の値が違いうると仮定する統合〕で r = −.02(95%信頼区間 −.04〜.01)。r は、二つがどれだけ一緒に動くかを −1〜1 で表した値。0なら関連なし。信頼区間が0をまたぐので、明確な関連があるとは言えません。課題に関係する多様性(専門や経験の違い)は r = .05(同 .01〜.08)で有意。ただし一般的な目安では「小」に届かず、2乗しても1%に届きません(およそ0.25%)。個々の研究が一様だったという意味ではありません。

03報われた形は、典型の土台に、ひとつまみだった。2013年の研究は、1950年から2000年の1,790万本の論文の引用の組み合わせが典型的か異例かを測りました。引用の大半を極めて典型的な組み合わせで固め、裾にだけ異例を含む——1990年から2000年の論文で、この形が引用上位5%に入る率は100本あたり9.11本。定義上の基準は5本で、およそ2倍です。非典型の組み合わせと、従来どおりの深さの合わせ技。全部を異例にした側は、報われていません。測られたのは論文の引用であって、人の一年の過ごし方ではありません。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶・浅い切り漬けのグラス・琥珀色の発酵茶の細長い容器が三つ並んだ静物写真
定理と前提・612の効果量・1,790万本の配合。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字は動きません。動くのは、外へ運ばれる途中のほうです。手がかりは3つ。

01モデルの結論が、実証の結論として運ばれる。「勝つ場合がある」が「勝つ」に、「モデルの中で」が「職場で」に入れ替わります。入れ替わった一文には、もう前提が付いていません。2014年の側は定理そのものにも反例を挙げますが、共通する事実はひとつ——この命題は、職場のデータで確かめられたものではない。

02主観の評定が、成果そのものとして運ばれる。2012年のメタ分析の、いちばん厄介な発見。2種類の多様性の差は、主に、成果を人が主観で評定したときに現れました。主観の評定では、属性 r = −.05(p < .001)、課題関連 r = .04(p < .01)。客観的な指標(売上や正答率)では、属性 r = −.01・課題関連 r = .02 で、どちらも有意ではありません。(p は、小さいほど偶然では説明しにくいという目安。この比較は固定効果モデル〔本当の値は研究間で共通と仮定する統合〕による分析で、前の統合値とはモデルが違います。)差は評価する側の偏りを反映しているかもしれない、と原典は解釈します。落ちると、誰かの印象が売上と同じ重さになります。

03参入が、成果として運ばれる。よく引かれるのが2005年の研究。米国のひとつの大学——経営大学院——の卒業生およそ5,000人で、職歴で経験した役割の種類が多い人ほど、自分で事業を始める確率が高い。役割の数と結びついていたのは起業への参入であって、その後の成果ではありません(所得の上位の裾に起業家が偏るという予測も支持されますが、標本は小さく選択的だと著者は留保します)。「幅が広い人は起業しやすい」と「幅が広いと成功する」は、別の文です。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真
モデルの結論・主観の評定・参入という指標。広げられるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

どれも、あなたが来月どこへ時間を移すべきかを決めてはくれません。数字を作ったのは米国と西欧の研究が大半で、対象は企業のチーム、論文、ひとつの大学の卒業生。職務の範囲の決め方も異動の仕組みも違う日本に、相関の大きさをそのまま持ち込むことはできません。

2012年の統合が測ったのは、チームの中の違いの度合いと成果の関連で、個人が試行を何種類の領域に散らしたか、ではありません。「幅を広げた人がどうなったか」を無作為に割り付けて確かめた試験は、読めた範囲にはありません。だから、幅を広げれば何かが良くなるとも、幅は無駄だとも書けません。

勝つと証明されたのは、モデルの中だった。
職場で測られた関連は、小さいままだった。

だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。幅を広げる課題ではありません。いまの幅を、数えるだけです。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリに、直近の**試行を10件**、1行ずつ書き出す。断られる可能性のあった働きかけや、初めて試したやり方。

  2. 02TAG

    1件につき、領域のタグを1つだけ付ける。仕事・お金・体・人・学び・遊び、程度の粗さで。2つ以上は付けない。

  3. 03COUNT

    末尾に2つの数字を足して閉じる。タグの種類の数と、最も多いタグが10件のうち何件か。増やす計画は立てない。

10分。採点も判定もありません。**この記録から「運が良くなる方法」は出てきません。**この3手は、ALIFEが提案する実践の入口です。お金の判断は、必要ならファイナンシャル・プランナーや金融機関の相談窓口など専門家と。苦しくなったら中止を。落ち込みが続く・強まる場合は、医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは四つ。「多様な集団が能力の高い集団を上回りうる」は、2004年の論文のシミュレーションの結論であり、定理だったこと。その定理が三つの前提の上に立ち、公刊された形には反例があると2014年に指摘されたこと。属性の多様性の相関が r = −.02 で明確な関連とは言えず、課題に関係する多様性が r = .05 で有意だが小さかったこと。客観的な指標では、属性 −.01・課題関連 .02 でどちらも有意でなかったこと。役割の多さと結びついたのは、起業への参入であって成果ではなかったこと。

幅を広げるべきかどうかは、どこにも書かれていません。書かれているのは、モデルの側と職場で測られた側で、同じ言葉の大きさが違ったことまで。——今日残せるのは計画ではありません。10行のタグと、種類の数と、最も多いタグの件数。記録が1件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS行動多様性を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。