IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 141
● 12 SEC「お金の教育は学校でやるべきだ」。日本の18〜79歳3万人へのインターネット調査(2022年)で、そう「思う」と答えた人は71.8%(思わない8.8%、わからない19.4%)。もうひとつ。学校・大学・勤務先で金融教育を受ける機会があり、受けたと答えた人は7.1%。2016年6.6%・2019年7.2%でほぼ横ばい。望むのは10人に7人、受けたのは100人に7人。
では、その7.1%に入ると何が変わるのか。扱うのは勉強のすすめではなく、何がどう測られてきたかです。この号は投資助言ではありません。効き目の答えは、いま割れています。片方は、介入で説明がつくのは財務行動のばらつきの0.1%だと言い、もう片方は、無作為に割り当てた実験だけなら他分野の教育介入と同程度だと言う。集めた研究の種類と年代が違うからです。
金融リテラシーは、金融商品を選ぶ能力の名前ではなく、手元の紙の行を読めるかどうかの枠です。年率、実質、控除、繰越、据置。読めない語のある行は、無かったのと同じになる。数字は二系統。測り方——決まった問いに何人が答えられたかを数えた調査。効き目——受けた群と受けていない群を比べた研究の統合。同じ人の中で比べた数字でも、同じ設計のものでもありません。

数字が出ているのは、日本と米国の大規模な調査と、金融教育の試験の統合。まず測られたのは、この3本。
01日本の3万人では、正答率が55.7%だった。2022年の全国調査。18〜79歳の個人3万人を2020年の国勢調査どおりの構成比で割り付けたインターネット調査で、53問中25問が正誤問題。正答率は全体55.7%、18〜29歳41.2%・60代64.1%・70代65.6%。金融教育の有無で分けると受けていない人55.0%・受けた人63.9%、学生38.1%と52.9%、若年社会人41.3%と50.0%、一般社会人53.9%と63.9%、高齢者64.2%と77.1%。ただし同じ時点で二群の平均を並べた横断調査〔一時点の断面を測る調査〕で、受けたかどうかは自己申告です。
02米国では、3つの問いで測られてきた。測り方の原型は米国。2014年の総説が、標準的な測定として複利・インフレ・株式のリスク分散の3問を整理。米国の2004年の調査(50歳以上)の正答率は67.1%・75.2%・52.3%、3問すべて正答は34.3%。日本の53問の4割ほどは海外の同種調査と比較できます。比較可能な6問の平均は日本47%(2022年)・米国50%(2018年の全国調査)。複利(5年後)43%対72%、インフレ55%対55%、住宅ローン68%対73%、分散効果50%対43%、債券価格24%対26%、72の法則41%対30%。学校等で受けた人7%対20%、自信がある人12%対71%。
03効き目の統合は、二つあって答えが違う。2014年の統合は168本の論文・201の先行研究。説明がつくのは測られた財務行動のばらつきの0.1%だけ。減衰も——「大きな介入でさえ、20か月以上たつと行動への効果は無視できる大きさ」。もう一方は無作為に割り当てた実験だけ76件・16万人超。金融知識へ0.204標準偏差〔二群の平均差をばらつきで測った値。目安では0.2前後は小さい側〕(95%信頼区間0.152〜0.255)、財務行動へ0.1003標準偏差(同0.071〜0.129)。授業時間は677の効果で平均11.71時間・中央値7時間。相手は2014年の0.018標準偏差(区間−0.004〜0.022は0をまたぐ)で、共通効果モデルなら約3.6倍(0.065標準偏差)、ランダム効果モデルなら約5.5倍。

動くのは、数字から結論が引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01横断の差を、教育の効果に読み替えている。一つめは63.9%と55.0%——同じ調査の同じ時点の値です。受けたと答えたのは全体の7.1%で、その7.1%が学歴や職業や年齢で残りと同じだという保証はない。だから「教育が正答率を8.9ポイント上げた」とは読めません。原典は図を「金融教育の効果①(正答率)」と題しますが、本文は「金融教育を受けた人の方が正答率が高い」まで。逆に、正答率が高い人ほど金融トラブル経験者は少ない一方、受けたのに正答率が低い層では多く、自己評価が客観的評価(ともに全体平均=100の指数)を上回る幅も大きい。
02二つの統合の、片方だけを引いている。0.1%も0.1003標準偏差も実在します。落ちるのは何を集めた統合か。2014年は相関研究も含む168本・201研究の広い網、76件は無作為化実験だけで2014年以降の新しい試験を多く含む。その76件は、2014年の看板だった減衰と低所得の個人での弱さを名指しで検討し、どちらも確認できなかったと書きます。2014年の側にも両向きがあり、相関研究では関連が強く出るが心理的な特性や操作変数〔測りたいものだけを取り出す別の変数〕で統制すると劇的に小さくなるとし、ちょうどその時の金融教育には狭いが実在する役割があるとも書く。2017年の126件の統合は、効果が著しく不均一で、低所得の対象者や低・低中所得の経済圏では小さく、成否は強度と、判断が迫っている時点に届くかに依存するとします。二択にすると、この条件が落ちます。
03日米の数字を、そのまま優劣にしている。国際比較。日本47%・米国50%は比較可能な6問の平均で、日本の25問の55.7%とは分母も年も違う(日本2022年・米国2018年)。向きも問いで変わります。複利は43%対72%と差が大きい一方、分散効果は50%対43%、72の法則は41%対30%で日本の側が上。「日本人は金融リテラシーが低い」は、どの問いを見るかで支えを失います。資料自身が断ります——「金融商品や金融サービス、税制、教育制度等の面で事情が異なるため、幅を持ってみる必要がある」。「金融知識に自信がある」は日本12%・米国71%、正答率は47%と50%で近い。

確かめられたのは、日本の資料は全文まで、三つの統合は抄録や作業論文版まで。米国の全国調査の原報告書には届いていません。読めていない部分については書きません。日本の18〜79歳3万人も、米国の50歳以上も、各国の試験の統合も、あなたの家計の見通しではありません。日本と米国の調査は対象も年も訊き方も制度の前提も違い、合算も優劣の比較もできません。日本の調査は自己申告です。
食い違いも残ります。低所得の「個人」と低・低中所得の「経済圏」は別の層で、前者については2014年と2017年が弱いと報告し、76件は差を確認できなかったと報告する。統合値は統合値で、個々の研究が一様だったという意味ではありません。「勉強すれば家計が良くなる」とも「勉強しても無駄だ」とも書きません。
学校で行うべきだと答えたのは、71.8%。
受けたと答えたのは、7.1%だった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1語を書き写したとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ALIFEが提案する入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近1週間で目にした請求書や給与明細から、**意味があいまいだった金融の語を1語だけ**書き写す。無ければ「なし」で終わり。
- 02TRACE
その下に2行。その語がどの書類に出てきたか。答えが載っていそうな公的な出どころの名前を1つ。**開くかどうかは自由です。**
- 03MARK
複利・物価・分散の3つに、自分の言葉で1文ずつ説明が書けるかどうかの**印だけ付ける**。採点も、正解の確認もしません。
確かめられたのは三つ。日本の3万人調査の、25問の正答率55.7%と、受けた7.1%と、学校で行うべき71.8%。受けた63.9%と受けていない55.0%の差が、同じ時点の横断の比較だったこと。日米で比較可能な6問(47%と50%)が、日本の25問とは分母も年も違うこと。効き目の統合が、168本・201研究なら行動のばらつきの0.1%、無作為化実験だけの76件なら0.204と0.1003標準偏差で、割れたままだったこと。在庫する価値があるのは答えではなく、答えがどこにあるかのほうだ——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS金融リテラシーを、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

