IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 140
● 12 SEC「資産の4%を毎年取り崩せば、一生もつ」。出どころは1994年10月の論文です。米国の1926年から1992年の系列に、株式50%・中期米国債50%(著者が「任意に選んだ」と書く配分)・最低30年という条件で、初年度4%を引き出し以後は物価に合わせて増額するやり方を当てはめ、遡って数えた。どの出発点でも、33年より前には尽きなかった。4.25%なら28年で尽きうるとも書かれています。0.25ポイントが、5年を削っています。
扱うのは、取り崩す率ではありません。期間を測るもの(収入と支出)と、時点を測るもの(資産と負債)を1枚に置くと何が見えるかと、有名になった数字がどの国の・どの期間の・どの前提で計算されたか、です。この号は投資助言ではありません。
バランスシート思考力(Balance Sheet Thinking)は、流れと残高を1枚に置く点検の枠です。毎月の差額が正でも純資産が負ということも、その逆もあります。
1枚にすると、上の差額から下の純資産へ矢印が1本見えます。動かせるのはその矢印のほう——というのが、この号の読み筋です。数字は二系統。過去の系列を遡って数えた計算と、日本の公的な統計(報告書・生命表・財政検証)です。どちらにも、無作為に割り当てて比べた試験はありません。

数字が出ているのは米国の系列と17の先進国の109年分。まず数えられたのは、この3本。
01原典が数えたのは、米国の1926年から1992年だった。遡って数えた計算であって、将来の予測でも、人を割り付けて比べた試験でもありません。「どの出発点でも尽きなかった」は、その期間・その市場・その配分の記録。「最低30年で合格」も論文自身が置いた基準で、31年目以降は外側です。別の箇所の「株式を50%より下げず75%へ」は助言の側で、33年の前提ではありません。
0217か国に広げると、4%が残ったのは4か国だった。2010年12月の研究が、同じ数え方を17の先進国へ広げます。1900年から2008年の109年分、数えた退職年は1900年から1979年。実質(物価の影響を除いた値)4%で30年切らさずに済んだのは17か国のうち4か国だけ。日本は0.47%(1940年に退職した場合)で最も低く、米国でも4.02%(1969年に退職した場合)。結論は、国際的に見れば実質4%は単に安全ではなかった、と。配分は各国・各退職年で後知恵で最も有利な固定を選ぶ「完全な先読み(perfect foresight)」——米国4.02%は株式57%・債券6%・短期国債37%。先読みと手数料ゼロは数字を高くする2つの利点だと論文自身が書きます。それでも4か国。半分ずつの固定配分では17か国すべてで失敗しました。
03低金利を仮定した計算では、失敗率は6%から57%になった。2013年6月の研究は、株式と債券を半分ずつ持つ配分で30年の失敗率(30年のあいだに資金が尽きる見込みの割合)を計算し直します。過去の実績ではおよそ6%。2013年1月時点の5年物の物価連動国債の実質利回り(マイナス1.4%)が続くと仮定すると57%、5年後に戻る想定で18%、10年後で32%。この想定でさえ債券の値下がりと手数料を含めない分、良い側に寄っていると著者らは書きます。観察ではなく、仮定を置いた計算の出力です。

動くのは、結論が引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01遡って数えた値を、これからの約束にしている。原典はたしかに「最低30年を条件とするなら初年度4%は安全なはずだ」(should be safe)と書いています。ただしその「安全」は「歴史が指針であるかぎり」の話で、米国の1926年から1992年の系列への評価です。取り崩す時期の値下がりは、同じ金額を作るのに多く売る事態になる(順序が結果を変える性質=序列リスク)。平均ではなく、順序が悪かった。最も厳しい出発点は日本が1940年、米国が1969年。ただし米国の1969年という帰属は2010年の国際比較の側で、1994年の論文は厳しい年の一つとして触れるにとどまります。「最悪」は文献で揺れ、原典の50/50の図で最短は1973〜74年退職、2013年の研究は1966年。
02平均の不足額を、必要な金額に読み替えている。2019年6月3日の金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書は、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿として毎月約5万円の赤字を示し、それが毎月発生する場合には20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取り崩しになると書きました。同じ報告書の但し書き——あくまで平均の不足額から導いたもので、各々の状況によって大きく異なる、当然不足しない場合もありうる。介護費用や住宅の修繕も含みません。「老後には2,000万円が必要だ」は、この報告書にありません。落ちるのは年金というフローです。令和6(2024)年の財政検証(2024年7月公表)では、2024年度の所得代替率(現役男子の平均手取り賃金37.0万円に対する年金額の比率)は61.2%。現行制度のままなら前提ごとに低下、改正を織り込めば上回るケースも併記。制度は改正されます。
0330年という前提を、余裕のある長さだと思っている。1994年の論文が置いた「最低30年」。厚生労働省の令和6年(2024年)簡易生命表(2025年7月公表)では、65歳の平均余命(その年齢の人が平均であと何年生きるかの計算値)は男19.47年・女24.38年。ただし同じ生命表で、生まれた人のうち90歳まで生存する割合は男25.8%・女50.2%、95歳までは男9.3%・女25.6%。65歳から30年は95歳、25年は90歳。この割合の分母は生まれた時点で、65歳まで生きた人ではありません。簡易生命表自体、その年の死亡の状況が続くと仮定した計算値です。30年は分布の外側ではなく、真ん中のあたりの長さ——というのが、この号の読み筋です。

どれも、あなたの口座の見通しではありません。平均も率も、それが計算された集団と期間の話だからです。米国・17か国の過去の系列と日本の公的統計は、対象も測り方も制度の前提も違います。比較も、足し合わせも、通貨換算もできません。
投資助言ではなく、特定の金融商品・口座・制度・サービスを勧めも否定もしません。「4%で取り崩しなさい」も「2,000万円を貯めなさい」も書きません。お金の判断は、あなた自身の状況の中で決まります。必要ならファイナンシャル・プランナーや金融機関の相談窓口など、専門家と。返済や生活費に困っているなら、記録より先に公的な相談先へ。
4%は、米国の過去を遡って数えた値だった。
17か国に広げると、残ったのは4か国。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1枚に6つの数字を並べて何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。
TRY IT TODAY
- 01DRAW
紙かメモアプリを1枚。**中央に横線を1本引き、上半分は「この1か月(期間)」、下半分は「今日(時点)」**と決める。目盛りも目標額も書きません。
- 02WRITE
上に3つ——この1か月に入った合計・出た合計・その差額。下に3つ——資産の合計・負債の合計・その差である純資産。**記録から書ける数字だけを書き、分からない欄は空欄のまま。**
- 03MARK
**上の差額から下の純資産へ、矢印を1本。**最後に当てはまるものへ印を。①上の差額が正 ②下の純資産が正 ③1週間以内に現金にできる資産が1つ以上ある ④借入があるなら年利を記録から書ける ⑤6つのうち記録から書いた数字が4つ以上。判定は書きません。
確かめられたのは、33年と28年、17か国の4か国と日本の0.47%、6%から57%まで動いた失敗率、平均の不足額の単純計算と生命表と所得代替率です。
「これからも4%なら安全」という約束も、「老後には2,000万円が必要」という一文も、原典にはありません。あるのは、遡って数えた年数と率、仮定を置いたときに動いた失敗率、平均の不足額に月数を掛けた単純計算まで。前提は3つとも、いまも論文に印刷されています。旅に出たのは数字のほうだけでした——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、判定ではなく1枚の紙です。
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