IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 139

(仮ビジュアル)暗い室内で黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性。窓の外は夕暮れの空● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

返す順序には、正解が2つあります。算術としての正解と、最後までたどり着く確率としての正解。2011年の論文は、報酬が成績に連動する模擬課題の4実験で、参加者が一貫して、金利の高い大きな借入より残高の小さい借入を先に消そうとしたと報告します。消したかったのは利息ではなく、口座の数のほうでした。

この号は投資助言でも法律相談でもなく、返す順序も、借り換えも、繰上返済も指示しません。いま支払いが滞っているなら、順序の工夫では解けません。記録より先に、公的な相談窓口です——金融庁の相談窓口、自治体の生活困窮者自立支援の窓口、法テラスなど。制度も窓口も変わります。

負債管理力(Debt Management)は、返す順序の正解表ではなく、1件ごとの借入に何が付いているかを見えるようにする点検です。金額だけ見れば借入はどれも同じ顔ですが、実際には年利、いまの残高、完済の期限の3つが付いています。

年利の桁は、国と制度で違います。日本では利息制限法第1条が元本10万円未満を年20%、10万円以上100万円未満を年18%、100万円以上を年15%とし、超えた部分の約定を無効に。出資法第5条は、業として貸付けを行う者の年20%超の利息の契約を刑事罰の対象とします(業としない場合の閾値は同条第1項の年109.5%)。隙間のグレーゾーン金利は2010年6月18日に撤廃。条文の数字は改正されうる、確認した時点の記録です。

一方、米国。連邦準備制度理事会の消費者信用統計(G.19)では、商業銀行のクレジットカードのうち利息が発生している口座で年22.15%、すべての口座の平均で年20.94%(米国・2026年5月時点)。片方は日本の法定の上限、片方は米国で観測された平均——同じ物差しではありません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
答えたのは、模擬課題の参加者と、債務減額の交渉を申し込んだ人たち。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

では、どこまで測られているのか。数字が出ているのは、模擬課題の参加者と、債務減額の交渉を扱う事業者にたどり着いた顧客です。まず測られたのは、この3本。

01模擬課題の4実験では、小さいほうから消えた。報酬が実際の成績に連動する模擬課題——うまくやるほど受け取る額が増える作り——で4つの実験。結果は4実験とも、残高の小さい借入から先に消す側。課題の中では損になる選択でした。著者らはこれを債務口座回避(debt account aversion)と呼びます。効いた介入は2つ、小さい借入を返しきることの制限と、積み上がる利息への注意の誘導。ただし模擬課題で、「そういう課題ではこう動いた」までが射程です。

02顧客データでは、閉じた口座の割合が完済を予測した。2012年の論文は、債務減額の交渉を扱う民間事業者の顧客データで、閉じた口座の割合が完済の成否を予測したと報告します(関連であって、原因ではありません)。対比されるもう一方は「閉じた口座の残高の規模(the dollar balance of the closed accounts)」で、割合を計算に入れると予測しなくなった——差し引いた話で、無関係の証明ではありません。2016年の論文は、借入を複数抱える人を生活の場で調べた記録と3つの実験で、返済を1つの口座に集中させるやり方が分散より動機を高め、より積極的な返済につながったと報告。最もはっきり出るのは、いちばん残高の小さい口座へ集中させたときです。

03明細の最低支払額の側では、平均は下がり、全額の割合に差は出なかった。最低支払額の徴収は、複利で膨らむことから借り手を守るための仕組みです。2009年の論文は、その表示が心理的な錨(アンカー)〔先に目に入った数字が、あとの判断の基準になること〕として働くと報告しました。残高435.76ポンドの模擬明細でいくら返すかを書いてもらう仮想の実験(英国・計413人)。「支払うと答えた額」の平均は、表示ありでおよそ99ポンド(残高の23%)、なしでおよそ175ポンド(40%)、原典の報告は70%上昇。実際に支払われた金額の記録ではありません。そして全額を支払うと答えた人の割合は、表示なし54.8%・表示あり55.1%で、明確な差とは言えませんでした。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
模擬課題の4実験・顧客データの割合・明細の錨。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、そこから結論が引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01どちらか一方を、正解にする。算術に議論の余地はありません。同じ額を充てるなら、金利の高いほうが消える利息は多い。例示の計算で、1万円を年18%の借入に充てて年1,800円分、年15%なら年1,500円分。差は年300円(仮の計算です)。ところが完済までたどり着けたかという別の物差しでは、閉じた口座の割合のほうが成否と結びついた。どちらか片方を「正しい返し方」と確定させることは、ここまでの証拠からはできません。どちらを選ぶべきかも、この号は示しません。

02米国の平均金利を、日本の話に持ち込む。日本の上限は法律が定めた数字、米国の年22.15%・20.94%は実際に付いている水準の統計です。「米国では22%だから日本の20%は安い」という比較も、ドルを円に換算した話も作りません。

03順序の技術論を、滞っている状態にも当てはめる。ここまでは、支払いが回っている人が順序を「選べる」場合の話です。いま支払いが滞っている。督促の連絡が来ている。支払いのために新しく借りている。このどれかは順序の工夫では解けない種類の問題で、この号の技術論の外側です。先に来るのは記録でも順序でもなく、公的な相談窓口のほうです。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
どちらかを正解にする・国の層を混ぜる・滞っている状態に当てはめる。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6点のうち3点。残る3点は抄録の範囲までで、その先は書きません。挙げた研究は、米国とカナダの消費者と、債務減額の交渉を扱う民間事業者の顧客に偏っています。その顧客データはたどり着いた人だけを見ているので、一般の家計より状況が厳しい側です。

並んだ数字は、その課題・その顧客・その時点の記録であって、これから同じことが起きる約束ではありません。平均も割合も、それが計算された集団の話です。必要なら、専門家と話しながら決めてください。

同じ額を充てるなら、消える利息は高金利のほうが多い。
完済の成否を予測したのは、閉じた口座の割合だった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。借入を3列で書き出したとき何が起きるかを確かめた研究を、この号は扱っていません。ALIFEが提案する実践の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリに、いま抱えている借入を1行につき1件で書き出す。列は3つだけ——**①年利(月の支払額ではなく年の利率で)②いまの残高 ③完済の期限。**

  2. 02COPY

    **明細や契約書を実際に見て転記する。記憶で書かない。**分からない欄は「未確認」と残す。

  3. 03SORT

    **年利の高い順で1回、完済の期限が近い順で1回、並べ替える。**記録の整理であって、返す順序の指示ではありません。借入がない人は、契約期限のある固定的な支払いを1件だけ、同じ3つの欄で。

**滞納・督促・借入での穴埋めがあるなら、この課題より先に公的な相談窓口です。**——10分。採点はありません。**借り換え・繰上返済・解約・新規の契約・返済額の変更をする課題ではなく、返す順序も決めません。**明細の画像や口座情報を、SNSや共有の場所に置かないでください。苦しくなったら中止を。つらさが続く・強まる場合は、医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは4つ。模擬課題の4実験で、参加者が残高の小さい借入から先に消し、著者らがこれを債務口座回避と呼んだこと。顧客データで、閉じた口座の割合が完済の成否を予測したこと(割合を計算に入れると、残高の規模は予測しなかった)。集中返済が動機を高め、より積極的な返済につながったこと。最低支払額の表示で「支払うと答えた額」の平均は99ポンドと175ポンド(原典の報告は70%上昇)、一方で全額支払いの割合は54.8%と55.1%で、明確な差とは言えなかったこと。どちらの返し方が正しいかは、どこにも書かれていません。データは、どちらの陣営にも半分ずつ味方して黙っています。年利と、いまの残高と、完済の期限。1枚の紙が、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS負債管理力を、もっと深く学ぶ。→

Next in financial fortune

VIEW ALL
ISSUE 138平均は1984万円。まんなかは1099万円。ISSUE 1404%は日本では、0.47%だった。
ALIFE · ISSUE 139

本コンテンツは学習目的であり、投資助言や個別の金融商品の推奨ではありません。