IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 138
● 12 SEC総務省統計局『家計調査報告(貯蓄・負債編)』の2024年平均の、いちばん前に出てくる数字。日本の二人以上の世帯の貯蓄現在高は、平均1984万円。けれど同じ図には、まんなかの値も並んでいます。貯蓄ゼロを含む同じ世帯全体の中央値〔小さい順のまんなかの値〕は1099万円。平均が大きいのは、上に大きく外れた世帯がいるから。1984万円は、どこかの世帯の姿ではありません。
この号が扱うのは貯め方でも増やし方でもなく、資産の合計から負債の合計を引いた差額——純資産が、どこまで測られているかです。この号は投資助言ではありません。住宅・借入・保険・口座・金融商品を勧めることも、やめろと言うこともしません。「持ち家は資産か、負債か」の論争にも、どちらの側にも立ちません。
純資産(ストック)認識力(Net Worth Awareness)は、増やす技術の名前ではなく、その差額を、いま1つの数字として言えるかという点検です。守っているのは二つの誤解。資産の合計を知る人が負債の合計を知らないこと。両方を知っていても、同じ紙の上で引いたことがないこと。別々の場所で眺めているうちは、差額は存在しないのと同じです。

測られてきたのは三系統——残高を尋ねた公的統計、100年以上の住宅価格の年次系列、値上がりと家賃を合わせ直した戻り。まず測られたのは、この3本。
01同じ調査に、分母の違う代表値が並んでいる。日本・二人以上の世帯の2024年平均。貯蓄現在高は世帯全体の平均1984万円、同じ世帯全体のまんなかは1099万円、貯蓄を保有する世帯だけの中央値なら1189万円で、分母が違います。負債現在高は平均663万円、うち住宅・土地のための負債612万円(構成比92.3%)・それ以外35万円・月賦・年賦15万円(四捨五入のため合計と一致しないことがあります)。負債を保有する世帯は38.8%、残る61.2%は負債なし。その38.8%だけなら1709万円で、663万円とは分母が違います。
02米国の家族でも、平均は中央値の5倍を超えていた。米国の連邦準備制度理事会の消費者金融調査(SCF)2022年調査。「家族」単位の純資産は中央値192,900ドル・平均1,063,700ドル(2022年のドル)——平均は中央値の5倍超(この比はここでの割り算)。中央値は実質で2019年から37%増、現代の同調査の歴史で最大の伸びだと原典は書きます。持ち家を保有する家族は66.1%、その主たる住居の価値の中央値は323,200ドル。標本は税務記録由来の補助標本で富裕層を多めに抽出し、無回答の偏りを重みで調整します。日本の数字とは単位も訊き方も制度も違い、比較も合算もできません。
03150年の系列では、実質の価格は長く横ばいだった。2017年の論文が、14の先進国の1870〜2012年の住宅価格を年次で組み立てました。以下は実質〔物価の影響を除いた値〕。19世紀末から20世紀半ばまで実質価格はほぼ一定、1960年代でも平均すれば第一次世界大戦前夜と大きくは変わらない水準。20世紀の初め以降でならすとおよそ3倍、戦後の上昇のおよそ8割は建築費ではなく土地の価格でした。米国の1890年から始まる系列も、実質では大部分が横ばい。同じ14か国の日本には、実質の価格が長く下がった期間があります。

動くのは数字ではなく、そこから結論が引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01取得した日に、財産が増えたと読む。住宅を取得すると資産の欄に大きな数字が入り、負債の欄にもほぼ同じ大きさが入ります。差額——純資産——は、この時点でほとんど動いていません。「持ち家は負債だ」——会計で負債と呼ぶのは他人に返す義務のこと。出ていくお金が多いものをそう呼び替えると、引き算ができなくなります。「持ち家は資産だ」——正しいが、欄に載ることと、置いたお金が増えることは別です。返済が進んで差額が増えるとき、増やしているのは値上がりではなく返済です。
02値上がりだけを見て、家賃と揺れを落とす。2019年の論文が、16か国の1870〜2015年の実質の総リターン〔値上がりと、その間の家賃などを合わせた戻り〕を組み立てました。住宅は年7.05%、株式は年6.89%——どちらも年およそ7%。標準偏差〔平均からのばらつきの大きさ〕は住宅およそ10%・株式およそ22%——揺れは必ずセットで読みます。ただしこの10%は16か国を集計した指数の揺れで、原典自身が「集計値は不動産の分散の難しさを覆い隠す」と書きます——1軒の家の揺れではありません。総リターンには家賃——自分で住むなら払わずに済んでいる帰属家賃——が含まれます。値上がりだけを見ると戻りの半分近くを見落とす——というのが、この号の読み筋です。どちらを持てとも、この号は書きません。
03片道でかかる費用を、勘定に入れない。ここからは日本の不動産仲介の制度の話。16か国の長期の記録とは別の対象です。宅地建物取引業者が売買の媒介で受け取れる報酬の上限は、国土交通省の告示(1970年建設省告示第1552号・2024年6月21日改正/7月1日施行)で、代金のうち200万円以下の部分が5.5%、200万円超400万円以下が4.4%、400万円超が3.3%(税込)。上限どおりなら代金3,000万円の売買で、依頼者の一方から受け取れるのは105.6万円——代金の3.5%あまりが片道で消えます。登記や税は改正されるので金額を書きません。上昇が年あたり小さいのなら、片道で数パーセントは何年分かの上昇に相当します。

どれも、あなたの口座の来年の見通しではありません。平均も中央値も、それが計算された集団の話です。日本の家計調査は単身世帯を含まず、貯蓄・負債が不詳の世帯を除いた自己申告。米国のSCFは、最上位の400人を標本の外に置きます。日米の統計は、比較も合算もドル円換算もできません。並んだ数字は、その期間・その調査・その国の記録であって、将来の約束ではありません。
この号は「買うべきか」も「売るべきか」も、「純資産がいくらあるべきか」も決めません。必要なら、ファイナンシャル・プランナーや金融機関の相談窓口へ。返済が滞っている・督促が来ている・生活費が足りないなら、棚卸しより先に、公的な相談先のほうです。
資産の欄に大きな数字が入った日も、
差額は、ほとんど動いていない。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。紙1枚に資産と負債を並べたとき何が起きるかを確かめた研究を、この号は扱っていません。買う課題でも、売る課題でも、動かす課題でもない、ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01LEFT
紙かメモアプリを開き、**左の列に資産の項目**を並べる。現金と預金/勤め先の制度の中のもの/不動産/その他。各項目に金額と、最後に確認した日を添える。分からない項目は空欄のまま「不明」と残す。
- 02RIGHT
**右の列に負債の項目**を並べる。住宅のための借入と、それ以外。ここにも残高と、最後に確認した日を。取り寄せは不要、いま手元で分かる範囲で。
- 03SUBTRACT
**資産の合計から負債の合計を引き、紙のいちばん下に1つの数字を書く。**それがいまの純資産です。判定も、良い悪いも、目標額も書きません。
確かめられたのは、同じ調査に分母の違う代表値が並ぶこと。米国の家族でも平均が中央値の5倍を超えたこと。実質の住宅価格は長く横ばいで、戦後の上昇のおよそ8割が土地だったこと。持ち家が資産か負債かは、どちらの答えも引き算を止めています。家は資産の欄、借入は負債の欄、差額が純資産——それだけ。今日残せるのは、左に資産、右に負債、金額と最後に確認した日。差額が1つの数字として残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS純資産(ストック)認識力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。
