IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 137
● 12 SEC「よく調べてこまめに売り買いすれば、そうでない人より良い成績になる」。測られています。2000年の研究が追ったのは、米国の大手ディスカウント証券に口座を持つ66,465世帯の、1991年2月から1997年1月までの売買記録。平均世帯の年率リターンは費用を引く前で18.7%、同じ期間の市場(時価加重の指数)は17.9%。ところが費用差引後、投資家の手取りは16.4%。市場を、引く前は0.8ポイント上回り、引いたあとは1.5ポイント下回りました。
この号は投資助言ではなく、特定の金融商品・口座・銘柄・投信・業者を勧めも、やめろとも言いません。扱うのは増やし方の手順ではなく、口座の記録に何が残ったか。数字はすべて、その期間・その市場・その制度の記録です。
資産形成力(Asset Building)は増やす技術の名前ではなく、残った差額をどこに置き、置いたあとに何がいくら引かれたかという点検です。測られた数字は二系統。家計がいつ何を売り買いし、いくら残ったかという口座の記録。上場株が退場までに生んだ富の分布と、アクティブ運用の成績という銘柄と投信の記録。同じ人の中で比べた数字ではありません。

まず測られたのは、この3本。独立した3つの証拠ではなく、著者が重なる同じ研究者たちが、別の市場・別のデータについて出した報告です。
01よく動いた層が、いちばん下にいた。内訳は冒頭のとおり。この論文でいちばん引かれるのは、月々の回転率(売りと買いの平均)で分けた5分位です。最も低い5分の1が費用差引後で年18.5%(市場より0.6ポイント上)、最も高い5分の1が年11.4%(6.5ポイント下。引き算は本号)。論文の題は「Trading Is Hazardous to Your Wealth」——売買はあなたの富に害がある。年に直すと、平均世帯は1年で持ち分のおよそ75%を入れ替えていました。ただし回転率が成績を下げた証明ではありません。無作為割付の実験ではなく、よく動く世帯の別の共通点を取り除けていない。年17.9%上がった市場での記録です。
02損の3分の2は、手数料と取引にかかる税だった。なぜ回すと減るのか。2009年の研究は、台湾証券取引所の1995年から1999年の全売買記録を使いました。個人投資家をまとめた持ち分は、年3.8ポイントの劣後。台湾のGDPの2.2%、個人所得の合計〈投資をしていない人の所得も含む〉の2.8%にあたります。内訳は、判断による損("trading losses")27%、売買手数料32%、取引にかかる税34%、タイミングによる損7%。3分の2の66%は、判断の巧拙ではなく、通り抜けるたびに課される費用でした。ただし割合は台湾の当時の手数料と取引税の制度の上の数字。他の市場へは移せません。
03買ったほうが、売ったほうに負けていた。1999年の研究は、米国の1万口座〈1987年に取引のあった口座からの無作為抽出〉の1987年から1993年までの売買を突き合わせました。買った銘柄のその後1年のリターンは、売った銘柄より平均で3.3ポイント低い。これは手数料を引く前の差で、手数料はここに上乗せされます。著者自身、閉じた口座を補充しておらず後半は成績のよい投資家へ寄る偏りがありうると注記。この標本の平均として、入れ替えがプラスを生んでいなかったという集計です。

数字は動きません。動くのは、そこから結論が引かれる途中です。手がかりは3つ。
01平均が、真ん中だと思っている。ひとつめは、賭けている対象そのものの形です。2018年の研究は、1926年以降に米国の株式データベースに現れた普通株の、生涯の買い持ち(買ってから売るまで)のリターンを見ました。確認できたのは、抄録の範囲までです。大多数の銘柄は、そのリターンが1か月物の短期国債を下回り、創出した富では上位4%の企業が市場全体の純増分を説明し、残りは合計すると短期国債と同等だった。原著は、これが分散の足りないアクティブな運用が市場平均に負けやすい理由の説明を助けると述べます。この形だと、平均は真ん中を指しません。
02どのモデルの、どの段階の値かが落ちる。ふたつめは、数字の層です。2010年の研究が調べたのは、1984年1月から2006年9月の米国のアクティブ運用の株式投信(平均1,308本・平均運用資産6億4,800万ドル。インデックスファンドは原典が全検定から除外)。表には、モデル(CAPM・3ファクター・4ファクター)×重み付け(時価加重・等加重)×段階(投資家が受け取る純リターン・費用を足し戻した粗リターン)の切片〔α〕が並びます。引くときは、どれか一つを指さなければなりません。この号が指すのは時価加重・純リターンの3ファクターで年 −0.81%(t値 −2.50)。同じ区画のCAPMは −1.13%(t値 −3.03)、4ファクターは −1.00%(t値 −3.02)。粗リターンの時価加重・3ファクターは年 +0.13%(t値 0.40)でほぼゼロ——費用を引く前は目安どおり、手取りの段階でその分だけ下回っていた形です。著者らは、費用を賄える期待リターンを生むファンドはほとんどないと検証が示唆すると書き、粗リターンの両端には下回る側にも上回る側にも証拠があるとも書きます。
03米国と台湾の数字を、日本の自分に重ねる。みっつめは、国の層です。この号の数字は米国と台湾に偏っています。税も手数料も年金の設計も国ごとに違い、日本の読者にそのまま当てはまる数字ではありません。日本の家計の金融資産を日米欧で比べた公的統計には、現金・預金が大きく株式等が小さいという向きがあります(四半期ごとに版が入れ替わる資料。使うのはこの向きまでで、比率の数値は扱いません)。口座記録の研究はその証券会社の顧客を、台湾の研究はその市場で売買した人を見ています。そして前半の3本は著者が重なる同じ研究者たちの仕事で、独立した3グループが別々に確かめた形ではありません。

全文まで読めたのは6点のうち5点。残る1点は抄録の範囲までで、読めていない部分については書きません。答えたのは、米国の口座記録と台湾の全売買、米国の上場株と株式投信。日本の家計を対象にした同じ設計の集計は、この号がたどった範囲では扱えていません。
どれも、あなたの口座の見通しではありません。平均も集計値も、それが計算された集団についての記述です。日本の統計とは対象も制度も集計の仕方も違い、比較も合算もできません。過去のリターンは、将来を約束しません。返済が滞っている・生活費が足りないなら、数える前に、公的な無料の相談窓口や専門家へ。
台湾の全売買記録で、判断による損は27%。
手数料と取引にかかる税で、合わせて66%。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1年の回数を数えて何が起きるかを確かめた研究は、ありません。
TRY IT TODAY
- 01COUNT
この12か月に、持っているものの**中身を入れ替えた回数**を数える。売った・買った・乗り換えた・預け替えた——置き場所や名義を変えた操作の回数。金額は書きません。
- 02WRITE
数えた回数を、今日の日付とともに1行で書き留める。その下にもう1行——**「次にこれをやりたくなったら、まず年いくらの費用になるかを金額で書く」。**
- 03CLOSE
書いたら閉じる。**判定は要りません。**多い少ないも、良い悪いも書かない。
確かめられたのは4つ。よく動いた層が、費用を引いたあとでいちばん下にいたこと(証明ではなく、層を並べたときの位置の話)。損失の66%が、判断ではなく通り抜けるたびの費用だったこと。買った銘柄のその後1年が、売った銘柄より3.3ポイント低かったこと。ほぼゼロだった切片が、手取りの段階では年 −0.81%とマイナスだったこと。「売買をやめれば増える」は、どこにも書かれていません。——残るのは、回数が1つ、日付が1行、添え書きが1行です。
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