IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 132
● 12 SEC先月、いくら入って、いくら出て、いくら残ったか。すぐに言えるでしょうか。よく測られているのは、予測のほうです。2009年の4つの研究で、参加者は来週の自分の支出を実際より低く予測しました。前の週に使ったと覚えていた額と比べても、低いまま。
そして、ここからが本題です。節約したいという目標が強い人ほど、予測額は低かった。ところが、その目標は実際の支出とは関連していませんでした。動いたのは、予測のほうだけです。
扱うのは家計簿のつけ方ではなく、予測と実際のずれ、記録という道具の取りこぼし、上限を置いた家計での支出の動きが、どこまで測られているかです。この号は投資助言ではなく、金融商品も口座も保険も勧めません。「家計簿をつければ貯まる」を、証明も反証もしません。
収支差(フロー)認識力〔Cash Flow Awareness〕は、節約の技術の名前ではなく、期間を切って、入った合計と出た合計の差を1つの数字にできるかという点検です。財務を測る紙は2枚。期間を切って測る紙——その差が収支差。一日を切って測る紙——持っているものと返さねばならないものの差、それが純資産です。
米国の家計の財務を3年ごとに調べる全国調査も、前年1年間の税引き前の所得と、調査時点の純資産の2枚で測ります。2019年から2022年への変化を報告した版では、所得の中央値〔順に並べたときのまんなかの値〕が 67,900ドル(2018年分)から 70,300ドル(2021年分)へ3%増加(いずれも2022年の物価に換算した米国の数字)。報告書自身が、所得と純資産は常に同じ向きに動くわけではないと注記しています。
測られてきたのは二系統——見積もりのほうと、記録と上限のほう。同じ人の中で比べた数字ではありません。

まず測られたのは、この3本。
01予測を下げていたのは、節約したい気持ちだった。原典は、節約したいという目標が予測の楽観的な偏りのほうに寄与していた、と報告します。動いたのは予測だけで、支出の側は動いていません。「節約したいと思うと使いすぎる」ではありません——強く思った人の支出が多かったわけではないからです。
02収入の変化に、支出の変化の2.9倍の重みがかかっていた。将来の余裕を見積もるとき、収入の増加は織り込むのに、支出の増加を織り込まない——2016年の研究が支出の見落とし(expense neglect)と呼ぶものです。著者たち自身の全27研究(未発表分を含む)・8,418人をまとめ直した分析で、収入の変化に支出の変化の2.9倍の重みが置かれ、偏りは遠い将来ほど強い〔まとめ直した分析=複数の結果を1つにまとめた値。2.9倍は金額ではなく重みの比〕。統合された値であって、27研究が一様だった意味ではありません。
03国の調査でも、捕捉率は0.81まで下がっていた。2015年の検証は、米国の消費支出調査の集計を、国民経済計算の個人消費支出と品目ごとに突き合わせます〔捕捉率=国民経済計算の側を 1.00 としたとき、調査の集計がその何割か〕。章がBLSの研究者たち(2009年)の系列として引く比較(比較可能な項目・人口の範囲を調整)では、0.88(1992年・1997年)から 0.84(2002年)、0.81(2007年)へ。酒類 0.2 前後、衣料品は日記式で 0.5 割れ、外食 0.5 前後。家庭内の食品は聞き取り式 0.9 前後に対し、日記式 0.7 前後(0.9対0.7は章の著者自身の比較で、別のものさしです)。米国の統計制度に固有の数字で、家計簿の精度ではありません。

動くのは数字ではなく、そこから結論が引かれていく途中のほう。手がかりは3つ。
01「守れなかった」を、「意味がなかった」にしている。2023年の研究は、英国の家計管理アプリの実データ、カナダの信用組合での実地の実験〔生活の場で条件を割り当てて比べる〕、米国の家計日記調査の組み合わせ。報告は二層です。遵守率は総じて低い——人の立てる予算が、おおむね大きく楽観的だから。それでも支出は減り続け、6か月後もまだ減っている。ただし支出は、予算を超えたままです。どちらの要約も、二層の片方を消しています。衝動的な人が守れない主因は、より多く使うからではなく、より低い予算を立てるから。
02記録の話と、上限の話が、ひとつに溶ける。捕捉率は「記録という道具の取りこぼし」、予算は「上限を置いた家計での支出の動き」で、別のものを測っています。日常の言い方では、二つは「家計簿をつける」に溶けます。この号がたどった範囲に、「個人が家計簿をつけること」を取り出して、つけた群と比べた試験はありません。3つを1本の因果でつなぐ線は、原典のどこにも引かれていません。
03上限の副作用のほうが、先に落ちる。1996年の3つの研究は、人が費目ごとに心の中の予算を作り、それに照らして支出を判断していると示します。予算は消費の機会を完全には予想できず、割り当てすぎも少なすぎも起きます。結果は使いすぎと使わなすぎの両方で、3つの研究が示唆したのは、使わなすぎにつながりうる側でした(抄録の範囲まで)。上限は、総額が減る側と結びついた道具であって、配分を最適にする道具ではありません。

全文まで読めたのは7点のうち4点。2点は抄録の範囲まで、1点は他の論文が引いた値としてだけです。読めていない範囲については書きません。答えたのは、米国の全国調査に回答した家計、英国のアプリ利用者、カナダの信用組合の会員、米国の家計日記調査。抄録までの2本は、対象集団も人数も分かりません。どれも、あなたの口座の来月の見通しではありません。
捕捉率は米国の統計制度に固有の数字で、日本の家計調査とは対象も訊き方も集計の仕組みも違います——比較も、足し合わせもできません。並んだ数字は、その期間・その調査の記録で、同じことが起きる約束ではありません。お金の判断は、あなた自身の状況の中で。必要なら専門家と。返済や生活費に困っているなら、記録より先に公的な相談窓口です。
遵守率は、低かった。
支出は予算を超えたまま、下がり続けた。
次の3手は、研究が命じた順番ではありません。直近30日の合計を2つ出したとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。ALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01CUT
直近30日と決めて、始まりと終わりの日付を書く。「平均的な月」は作らない。存在しない月の上に、あとの計算が全部乗ります。
- 02SUM
合計を2つだけ。①その30日に入った手取り ②口座とカードから出ていった額。費目に分類しなくて構いません。
- 03WRITE
①から②を引いて、**差を1つの数字にして書く。負でも構いません。**年に一度の支払いが入っていたなら、その金額だけ別の行に。判定は書かない。
確かめられたのは4つ。人は来週の支出を実際より低く予測し、節約したい目標が強い人ほど予測額は低かったが、支出とは無関連だったこと。全27研究・8,418人をまとめ直した分析で、収入の変化に支出の変化の2.9倍の重みが置かれたこと。捕捉率が 0.88 から 0.84、0.81 へ下がったこと。予算は大きく楽観的で遵守率は低いのに、支出は6か月後まで減り続け、それでも予算は超えたままだったこと。
「家計簿をつければ貯まる」は、どこにも書かれていません。予測欄に並ぶのは、支出の見積もりというより願望の目盛り——というのが、この号の読み筋です。今日残るのは判定ではなく、日付と、2つの合計と、差が1つ。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS収支差(フロー)認識力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

