IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 131

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

一番大きな資産は何か。家か貯金を思い浮かべる人は多いはずですが、国の勘定は別の答えを出しました。世界銀行が146カ国について1995年から2018年まで毎年作った富の勘定で、労働力が将来受け取る稼ぎの現在価値〔将来の額を今日の価値に割り引いて足した額〕として測った人的資本は、世界の富の総額の62%(1995年)から64%(2018年)を占めています。

土地も建物も機械も地下資源も、全部足して残りのほうです。ただしこれは、世界の総額に占める比です。

この号が扱うのは、大学の選び方でも、教育費の額でもありません。自分の技能と信用が、これまでどう測られてきたかのほうです。「良い大学に行け」とも「大学は無駄だ」とも、ここまでの研究は言っていません。測られたのは、選抜性の効果と、集まる人の性質をどう分けるかの一点です。

人的資本認識力(Human Capital)は、自分の技能と信用が将来の手取りとしていくらに換算されるか、という見方です。出どころは1962年の理論——教育や訓練を投資として扱い、費用は今、収益は将来の稼ぎとして返るから、価値は合計ではなく現在価値で測る。同じ論文は訓練を、どこでも通用する一般的なものと、いまの勤め先でしか通用しない特殊なものに分けました。前者は本人に残り、後者は勤め先が変わると消えます。

146カ国の富に占める比重という国の勘定と、どの大学に進んだ人の収入という個人の記録。同じ言葉で呼ばれても、別の測定です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
数えたのは146カ国の勘定と、米国で大学へ進んだ人の収入。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

では、どこまで測られているのか。答えを作ったのは146カ国の国民勘定と、米国で大学に合格した人たちの記録。まず測られたのは、この3本。

01世界の富の64%が、人的資本だった。人的資本は、富の最も重要な構成要素であり続けました。残りは生産された資本、自然資本、対外純資産。比重は国で割れます。2018年に60%を超えたのは中・高所得のOECD諸国、低所得国では50%、最も低いのは化石燃料の富に強く依存する高所得の非OECD諸国の34%。豊かな国ほど高い、という単調な階段ではありません。

02出願先をそろえると、6%は消えた。個人の記録へ。2002年の研究は、米国で1976年に大学へ入学した学生の追跡データ。ふつうに比べると、平均入試得点(SAT)が100点高い学校に通ったことは、1995年の収入が約6%高いことと結びつきます。ところが、同じ大学群に出願し同じ合否の組み合わせを受け取った学生どうし——願書には表れない意欲までそろえた組——で比べると、学校平均SATの効果はゼロと区別できなくなりました。明確な差があったとは言えない、ということです。

03就学年数1年は、世界平均でおよそ9%だった。範囲が違うのが2018年の総覧。139か国の1,120件の推計で、就学年数を1年増やすことの私的な収益率〔就学1年が賃金とどれだけ結びつくかを年あたりの%で表した推計値〕は世界平均でおよそ年9%、数十年にわたって安定していると報告されます。中等教育以上の社会的収益率は10%超、女性と低所得国と民間部門で高い。推計を集めた総覧の数字で、個々が一様だった意味ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
146カ国の64%・出願先をそろえた6%・139か国の9%。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01「消えた」を、「教育に意味がない」にしている。消えたのは選抜性の平均効果で、教育そのものの効果ではありません。同じ論文の中で、学校が課す平均授業料の水準は、その後の収入と有意に関連したまま残りました。就学年数1年あたりおよそ9%という報告も、別にあります。

02平均が消えた話を、全員の話にしている。平均としてゼロと区別できなくなったことは、誰にとってもゼロだった意味ではありません。2002年の分析では、予測された対数所得が平均より2標準偏差〔ばらつきを測る単位〕低い家庭に限ると、200点高い大学に通う利得は7%(同じ論文の別のモデルの推定)。同じ著者たちが2014年に行政の収入記録で検算しても、推定はおおむねゼロと区別できない一方、黒人の学生とヒスパニックの学生、学歴の低い家庭の出身者では大きいまま残りました。2002年が切ったのは親の所得、2014年は人種と親の学歴。残ったのは、いずれも不利な側の層です。

03「富の64%」を、自分の口座の見通しにしている。64%は146カ国の富の総額に占めた比であって、あなたの資産の内訳ではありません。スウェーデンで1994年と1998年に行われた成人の読解力調査(IALS)では、1年まるまる就業していないことが、技能の分布で5パーセンタイル〔100人を並べたときの位置〕下がることと結びついていました。関連であって、非就業が技能を下げたと示したものではありません。著者たち自身は、これを経済的に重要だと評価しています。家計簿に「技能の目減り」という行はなく、減っても請求書は来ない——というのが、この号の読み筋です。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
「消えた」を「意味がない」に・平均を全員に・国の勘定を自分の口座に。 Visual: ALIFE

答えを作ったのは、米国の選抜的な34校のいずれかに1976年に入学した学生たち(出願しなかった人は入っていません)、139か国の1,120件の推計、1994年と1998年のスウェーデンの成人調査です。本文まで確かめられたのは7点のうち4点、残る3点は抄録の範囲まで。読めていない範囲については書きません。

日本と米国・スウェーデンでは、雇用の入り口も企業内訓練の比重も訊き方も違います。数字を横に並べての比較も合算もしていません。収益率は、その期間・その市場・その推計の記録であって、将来の再現を約束しません。平均も統合された推計も、あなたの口座の見通しではありません。富の勘定自体、いくつもの仮定と回帰分析に基づき、各国が自前で作る勘定より精度は落ちると原典が注記しています。

卒業生を並べて比べれば、100点の差は6%だった。
出願先と合否をそろえると、ゼロと区別できなくなった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。技能を5つ書いて印を付けたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号では扱っていません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリに、いま実際に使っている技能を5つ書き出す。**資格の名前でなくてよい。**見積書を作れる、機械の癖が分かる——その粒度で。

  2. 02MARK

    5行それぞれの右に、印を2つ。**①勤め先が変わっても残る技能か(一般)、いまの場所でしか通用しないか(特殊)。②直近12か月で使ったか。**迷う行は、迷ったと書く。

  3. 03COUNT

    **「特殊」と「使っていない」の両方が付いた数を数え、下に書き添える。**日付を添えて閉じる。金額を出す必要はない。

12分。採点はしません。**講座に申し込む・資格に出願する・転職を決める課題ではありません。**いま働いていない人は、最後に使っていた技能で成立します。**お金や進路の判断は、ご自身の状況と、必要ならファイナンシャル・プランナーなど専門家と一緒に。**生活費や返済で困っているときは、この課題より先に、金融庁や自治体の相談窓口・法テラスへ。苦しくなったら、そこで中止してください。

確かめられたのは四つ。世界の富の64%(2018年)が、将来の稼ぎの現在価値として測った人的資本だったこと。比重は国によって34%から60%超まで割れること。出願先と合否をそろえると選抜性の効果はゼロと区別できなくなり、授業料の関連と不利な層での大きさは残ったこと。就学年数1年あたりの収益率の世界平均が、およそ9%と報告されていること。

どの大学へ行けとも、行くなとも、どこにも書かれていません。書かれているのは、富のいちばん大きな部分が値札の付いていない場所にあることと、選抜性の効果が、出願先をそろえた瞬間に見えなくなったところまで。今日残せるのは金額ではありません。技能が5つ、印が2つ、「特殊」で「使っていない」の数がひとつ。記録が1枚、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS人的資本認識力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、投資助言や個別の金融商品の推奨ではありません。