IN FINANCIAL FORTUNE · ISSUE 129

(仮ビジュアル)縦3枚に切り分けられた場面が並ぶ写真。左は寝具が乱れたままの暗いベッド、中央は窓辺で外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「独立すれば、稼げるようになる」。この言い方は、ちゃんと測られています。2000年の研究の要旨はこうです——自営は入口の収入も伸びも低く、事業を10年続けた時点の差は、中央値で35%低い。(中央値とは、順に並べたときのまん中の値です。)分布の反対の端では、別の数字が測られました。ベンチャー投資を受けた企業の創業者が出口で受け取った現金は、平均580万ドル。4分の3近くは、何も受け取っていません。

この号が扱うのは、稼ぎ方の手順ではありません。収入がどの経路から来て、その金額がどんな分布で測られてきたかのほうです。「独立したほうがいい」とも「しないほうがいい」とも言いません。特定の金融商品・口座・事業・サービスも勧めません。並ぶのは、米国の記録の中でどこまでが測られているか、までです。

収入獲得力(Earning Power)は、稼ぐ力の得点の名前ではなく、いま入ってきているものがどの経路から来ているかの点検です。入ってくるお金には経路の名前が付いています——雇われた対価、事業から取った分、利子・配当・賃料、年金や給付。家計では同じ「収入」の欄でも、決まり方も途切れ方も違います。測られてきたのは、個人の収入の側と、事業の側の二系統。同じ人を同じ方法で測った数字ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で外の街明かりを見ている女性。ガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
答えたのは、米国の給与記録と、米国の事業所。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

答えたのは、米国の行政記録と、米国の調査に含まれた人たち、米国で開業した事業所です。まず測られたのは、この3本。

0110年続けた時点の差は、中央値で35%低い。平均ではなく中央値の差で、しかも「10年続けた人」という続いた側で切り取った比較です。要旨は、この差は能力の低い人が自営に集まったことでは説明できないこと、自営には金銭以外の大きな便益があるようだ、とも書きます。「独立すると35%下がる」とは読めません。

02同じ30年で、1.6倍の層と、27.8倍の層があった。2021年の研究は、米国社会保障局の給与記録で25歳から55歳の収入を追いました(分析の中心は男性)。平均収入の伸びは、生涯収入の中央層で60%=1.6倍、95パーセンタイルで4.8倍、上位1%で27.8倍。(パーセンタイルは下から数えた位置。95なら下から95%。)1本の平均線に丸めると、どの層の説明にもなりません。年ごとの変化は対数正規から外れ、負に歪み、尖度がきわめて高い——大きく動く年はまれで、その多くは下向きです。

03平均580万ドルと、4分の3近くのゼロは、同じ要旨にある。2010年の研究が調べたのは、出口——株式公開または売却——で創業者が受け取った現金。確実性等価が当てられたのは分布ではなく、実際に受け取った現金と、無リスクの給与職なら得られた現金との差です。相対的リスク回避度を2とすると、その値はゼロをわずかに上回る程度(確実性等価=確実にもらえるならいくらと同じか)。要旨が期間について書くのは「過去20年」までです。

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布
10年後の35%・60%と27.8倍・580万ドルと4分の3。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、そこから外へ運ばれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01「独立」を一語で扱うと、二つの群が混ざる。2017年の研究は、米国の労働力調査(1995〜2012年)と若年層の追跡調査(収入の分析は1982〜2012年の調査年)で、自営を法人化の有無に割りました。標本は25〜55歳の白人男性のフルタイム就業者(自営の約8割が白人のため著者が限定)。法人化した自営の時間あたり収入は残差ベースで平均52%・中央値26%高く、法人化していない自営は中央値13%低い(残差ベース=年齢や学歴をそろえた上の差)。参入する人は10代時点で学習適性・自己評価が高く、規範から外れる行動が多かった。ただし同じ人の変化で見ても法人化時点で18%(中央値5%)の増加が残り、要旨は増加が分布の各十分位で起きると書きます。

02平均を代表値として読むと、確実性等価が消える。外へ運ばれるのは580万ドルのほうです。4分の3近くがゼロも、給与の仕事とくらべた上乗せの確実性等価も、同じ要旨にあるのに一緒には運ばれません。2002年の研究は、米国の家計の非公開株式への投資が極端に集中して分散が効いていないのに、リターンは公開株式を上回っていなかったと報告。理由として挙げられたのは金銭以外の便益・歪んだ分布への選好・生存確率の過大評価の3つで、確かめられた原因ではなく候補です。

03経路を「一度選んで終わり」と読むと、生存率が落ちる。米国労働統計局の事業所動態統計によれば、2013年3月に開業した民間事業所のうち、1年後も営業していたのは79.6%、5年後は50.6%、10年後(2023年3月)は34.7%。分母は事業所であって、個人でも企業でもありません。閉じた事業所はあとの測定に現れないので、残った側だけで作られた数字を、始める前の見通しには読めません。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
一語で扱うこと・平均を代表値にすること・一度選んで終わりと読むこと。落ちるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

並んだ数字は測り方も対象も違い、どれも、あなたの口座に来月いくら入るかを言い当てません。答えたのは米国の記録で、給与記録の分析は男性が中心です。日本とは税や社会保険の建て付けも雇用の慣行も違うので、この号の数字を日本の数字とならべて比べたり、足し合わせたりはできません。

全文まで読めたのは6点のうち4点。残る2点——10年後の35%と、580万ドルと4分の3——は要旨の範囲までで、その先は書きません。出口までたどりつかなかった事業や、途中で閉じた事業所は、あとの測定に現れません。それでも、「独立せよ」とも「するな」とも書きません。

平均は、580万ドルだった。
4分の3近くは、ゼロだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分の入金を4つに分けて数えたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号では扱っていません。金額を増やす手順でも、経路を変える手順でもありません。

TRY IT TODAY

  1. 01OPEN

    口座の明細か給与明細を開き、直近1か月の入金だけを上から順に見る。合計額も金額も書き写しません。見るのは「どこから来たか」だけです。

  2. 02MARK

    入金のひとつずつに、4つのどれかの印を付ける。①雇われて働いた対価 ②自分の事業や請負から取った分 ③利子・配当・賃料 ④年金・給付・手当。当てはまらないものは飛ばしてかまいません。

  3. 03COUNT

    記録するのは2つだけ。印が付いた種類の数(0〜4)と、いちばん大きい経路が入金全体に占めるおよその割合(10%刻みの概算で可)。いま入金が無い場合は、直近1年で最後に入金があった経路を1つ選び、種類の数を1として記録します。

15分。採点はありません。**口座を開く・買う・解約する・借りる・経路を変える課題ではありません。**記録から「独立したほうがいい」「やめたほうがいい」も出てきません。誰にも見せず、提出もしません。お金の判断は、必要ならファイナンシャル・プランナーや金融機関の相談窓口など専門家との対話の中で決まります。**収入が途切れて生活が苦しいとき、返済に行き詰まっているときは、この課題より先に、自治体の相談窓口・法テラス・金融庁の相談窓口など公的な相談先へ。**数えて苦しくなったら、そこで中止してください。

収入獲得力は、稼ぐ力につけられた得点の名前ではありません。この号で確かめられたのは、10年続けた時点の差が中央値で35%低いこと、同じ30年で1.6倍の層と27.8倍の層があったこと、出口の現金が平均580万ドルで4分の3近くはゼロだったこと、同じ「独立」の中に52%高い群と13%低い群が同居し、事業所の生存率が10年で34.7%だったこと。独立すべきかどうかは、どこにも書かれていません。——今日残せるのは判定ではありません。経路の種類が1つ、割合が1つ。数字が2つ、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

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本コンテンツは学習目的であり、投資助言や個別の金融商品の推奨ではありません。