IN ROMANCE · ISSUE 128

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「3組に1組が離婚する」。噂ではありません。厚生労働省の令和4年度『離婚に関する統計』の概況に、「およそ結婚した3組に1組が離婚していることになる」と書かれています。根拠は令和2年のデータで、男は一生の間に平均0.79回の結婚と0.26回の離婚、女は0.84回と0.27回。そこから出た割合が男女とも0.32です。件数ではなく一生ぶんの回数で、その年の離婚件数を婚姻件数で割った値ではありません。

この号は、将来の描き方も、目指すべき未来の形も書きません。見るのは分母と、作り方のほうです。もうひとつ、よく並ぶ数字も見ます——将来を語るときに「私たち」という複数形をどれだけ使うか(英語圏の we-talk)と、関係および個人の機能との関連です。

共同未来構築力(Shared Future Building)は、二人で将来を描く技術の名前ではなく、まだ起きていないことについて確かめられている数字がどれだけあるか、という点検です。集まるのは二系統——「私たち」の使用を質問紙で測った米国中心の研究群と、日本で1年間に出された婚姻届・離婚届の集計。同じ人の中で比べた数字ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
答えたのは米国の研究の参加者、数えられたのは日本の届出。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

では、それぞれどこまで数えられているのか。まず数えられたのは、この3つです。

0130研究・5,288人で、r = .075 だった。2019年のメタ分析〔複数の研究をまとめ直した研究〕が30研究・5,288人を統合しました。固定効果〔各研究が同じ一つの効果を測っていると仮定した推定〕で r = .075(95%信頼区間 .039〜.11)、ランダム効果〔効果は研究ごとに違いうると仮定〕では r = .65(同 .37〜.82)。r は0なら関連なし・1に近いほど一致が強い値で、区間はどちらも0を含みません。論文は両方を報告し、固定効果だけを見る限界にも触れています。.075 は原典の言い方で modest(控えめ)。1件を除くすべて米国の研究で、参加者は主に英語話者でした。

02どちらが先かは、決まっていない。1998年の論文は、コミットメント〔続けたい構え〕と、「私たち」で考えること・複数形の代名詞を使うこととの結びつきを扱いました。縦断で報告されたのは、先行するコミットメントが後の認知の変化と、先行する認知が後のコミットメントの変化と結びつく、双方向の関連でした。どちらが先かは決まっていません。親しい友人どうしでは、弱いか有意ではありませんでした(探索的な分析)。

03令和2年の資料には、0.32と書いてある。日本の側。概況は根拠を定義から書きます——年齢別婚姻率の合計とは、仮に結婚する年齢を80歳までと設定し、男は18歳から80歳まで、女は16歳から80歳までの年齢(各歳)別婚姻率をそれぞれ合計したもの。離婚率の合計も同じ作り方。そこから令和2年のデータで出たのが、男女とも0.32という割合です。0.79回も0.26回も、誰かの一生を追って数えた回数ではなく、その年の各歳の率を足し上げた仮の一生ぶんの回数です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
30研究5,288人で .075・どちらが先かは決まっていない・令和2年の0.32。まず数えられたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01作り方が落ちて、別の割り算になる。最初に落ちるのは比の作り方。資料が示すのは、各歳別の婚姻率と離婚率を合計して作った一生ぶんの回数の比 0.32。定義の一行が落ちると、多くの人が思い浮かべる割り算——その年の離婚件数÷その年の婚姻件数——にすり替わります。令和6年の婚姻48万5092組(婚姻率4.0)と離婚18万5904組(離婚率1.55)で割ると0.383。約38%、2.6組に1組です(資料が示す割り算ではなく、公表値どうしをこの号が割ったもの)。思われている割り算では、3組に1組にすらなりません。

02分子と分母は、同じ集団ではない。その割り算自体も使えません。概況は、本概況は令和6年1年間に日本において発生した日本人の事象を客体としている、と定義しています。分子の18万5904組は令和6年に離婚届が出された夫婦で、その大半は令和6年に結婚した夫婦ではありません。分母の48万5092組は令和6年に婚姻届が出された夫婦。別々の集団です。0.32(令和2年・一生ぶんの回数の比)と0.383は別の計算で、検算にも使えません。

03「小さい」が落ちて、断言になる。「私たち」の側でも同じです。r = .075 は信頼区間が0を含まないので有意です。有意と、大きいは別。二乗すれば1%に満たず、残りの内訳を示すものでもありません。次に落ちるのはモデルの名前——同じ論文はランダム効果の r = .65 も報告しており、名前が落ちれば両方が「関連の大きさ」として一人歩きします。限定が落ちると「私たちと言う二人はうまくいく」という断言になります。この号はその言い方をしません(1998年の結びつきは双方向)。よく引かれる「結婚に求めるものは上がったのに、注げる時間と心理的な資源は減った」という見取り図も、要旨自身が理論論文だと述べています——既存の知見を蒸留したもので、新しい測定の報告はありません。2014年の同じ号には13本のコメンタリーと返答が並びます。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
作り方が落ちて別の割り算に・分子と分母は別の集団・「小さい」が落ちて断言に。 Visual: ALIFE

同じメタ分析は、相手側の使用との関連も報告しています——固定効果で r = .10(95%信頼区間 .049〜.16)。抄録は、本人より相手の使用のほうが関係の機能と強く関連していたと結論しました。全文まで読めたのは6点のうち3点。読めていないものについては書きません。

どれも、あなたと目の前の相手のこれからを教えてはくれません。平均も比も、計算された集団の話だからです。研究の側は米国中心、すでに関係のなかにいる人への一度きりの質問紙が大半。日本の側は届出の集計。足したり、片方で片方を説明したりはできません。しかも「私たち」は続いている関係の中でしか記録されず、離婚は届のあとにしか数えられません。「続いている二人がそう答えている」という逆向きを取り除けていない——というのが、この号の読み筋です。

「3組に1組」は、実在する。
ただし分母は、その年の婚姻件数ではなかった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。やりたいことを二つの欄に分けたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号には出てきません。ALIFEが提案する実践の入口です。未来を当てにいく課題でも、相手に約束を求める課題でもありません。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    紙かメモアプリに、この先やりたいことを3つ書く。今週のことでも数年先のことでもよく、順位はつけない。

  2. 02SPLIT

    3つそれぞれに、**「一人でできる」「誰かと一緒でないとできない」**の印を付ける。迷ったものは第三の欄に置く。

  3. 03COUNT

    それぞれに、いま手元にある材料を1行だけ書く。費用、時間、道具、手続きなど、自分で確かめられるものに限る。最後に「一人でできる」の件数を数え、日付を添えて閉じる。

5分。**採点も、比率の良し悪しの判定もありません。**この先を当てる課題でもありません。**相手を想定して名前を書いたり、相手に確かめたりはしません。**書くのは自分の側の材料だけ。交際相手がいなくても、いま恋愛をしない選択をしていても成立します。誰にも見せなくてかまいません。**相手からの被害や恐怖がある関係は、この課題の対象外です。**その場合は、書くことより先に安全と距離を。苦しくなったら中止し、つらさが続く・強まる場合は医療・支援の専門家へ相談してください。

確かめられたのは四つ。「およそ結婚した3組に1組が離婚していることになる」は公的資料に実在し、根拠は令和2年の0.32——80歳までの各歳別の率を合計した、一生ぶんの回数の比だったこと。令和6年の婚姻48万5092組と離婚18万5904組を割った0.383(約38%)は、分子と分母が別の集団だということ。「私たち」の使用との関連は、30研究・5,288人で固定効果 r = .075、ランダム効果 r = .65 と、モデルで大きく動くこと。コミットメントと「私たち」で考えることの結びつきは双方向で、親しい友人どうしでは弱いか有意でなかったこと。入れ替わっていたのは、分母のほうでした。今日残るのは、やりたいこと3つと、欄への印と、その件数です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS共同未来構築力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。