IN ROMANCE · ISSUE 127
● 12 SEC「許すことが、関係を救う」。米国の新婚72組——結婚から平均3.2か月の夫婦を、4回、およそ最初の2年間追いかけた研究があります。ある一時点では、そのとおりでした。許しやすさと婚姻の結果には、正の主効果。
ところが時間の変化を入れると、向きは相手の振る舞いの頻度で変わりました。否定的に振る舞うことがまれな相手では、許しやすいほど満足度が保たれた。多い相手では、許しやすいほど低下が急だった。扱うのは許し方ではなく、向きが変わった場所です。「許すべきだ」とも「許すべきでない」とも、研究は言っていません。原典が結ぶのは、許しの介入がすべての人に利益をもたらすとは限らない、まで。判断も、被害への対処の手順も渡しません。
関係修復・再調整力(Relationship Repair)は、壊れたものを元どおりに戻す技術の名前ではなく、入れたものが返ってこなくなったあと、その関係で何が起きているかという点検です。測られてきたものは二系統。許しやすさと相手の振る舞いを同じ夫婦の中で数年追った縦断研究と、関係教育やカップル療法を、受けた群と受けていない群、前と後で比べた試験とその統合。同じ号に並んでいても、同じ人の中で比べた数字ではありません。

答えたのは、米国の新婚のカップルと、支援を求めて申し込んだカップル。まず測られたのは、この3本。
01向きを変えたのは、相手の振る舞いの頻度だった。新婚72組を4波、およそ最初の2年間(縦断解析は3波以上を完了した69組)。断面では正の主効果。縦断では許しやすさ単独の主効果は有意でなく、相手の否定的な言語行動の頻度と交互作用して満足度の変化を予測(交互作用=結びつきの向きが別の条件で変わること)。夫の許しやすさ×観察された妻の頻度が t = −1.98, p < .05、妻の許しやすさ×報告された夫の頻度が t = −3.26, p < .01。いずれも負。夫側は観察、妻側は報告で、測り方が同じではありません(性差は有意でない、とも原典は報告)。
024年のあいだ、横ばいだったほうがある。同じ72組から、別の変数を4年間追った報告(同一標本。独立した2つの証拠ではありません)。変数は相手からの心理的・身体的な攻撃。許しを表に出す傾向が強い人では4年間ほぼ横ばい、弱い人では減っていきました(4年目の測定は72組のうち37組)。要旨の最後は「許しは万能薬ではない」。「許すと攻撃される」という因果の観察ではありません。
03効果量は、この大きさで報告されている。関係教育のメタ分析は、86件の報告から117研究。関係の質は実験研究で直後 d = .361、追跡 d = .306(一般的な目安では「小」と「中」のあいだ)。準実験(無作為に割り付けていない比較)は d = .150 で、直後は有意ですらありません(明確な差があったとは言えません。追跡 d = .195 は有意)。減衰も二層——関係の質は「追跡時点で有意には減衰しなかった」、ただし両時点を持つ研究に限った意思疎通の分析は .539 から .366 へ「いくらかの減衰を示唆した」。標本の大半は白人・中流・既婚で、深刻な苦悩の無い人たち。同性カップルの報告はありません。統合値であって、個々の研究が一様だった意味ではありません。

数字は動きません。動くのは、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01動かなかった指標が、先に省かれる。低所得の742組(1,484人)を、2つのオンライン・プログラムと待機の統制群へ無作為に割り付けた試験。統制群と比べ、関係機能の5領域——満足度、別れる可能性の見積もり、情緒的な支え合い、葛藤、パートナーからの暴力——のすべてで有意に大きく改善(効果量の絶対値の中央値0.46。終了後4か月まで保持)。同じ段落に、もう一文——どちらのプログラムも、6か月後の別離の頻度を有意には減らさなかった(明確な差があったとは言えません)。d = 0.24 は2プログラム間の葛藤の減り方の差で、統制群に対する主効果ではありません。「受ければ別れずに済む」も「受けても意味がない」も、この試験からは出ません。
02群の中の前後差を、受けなかった人との差にしている。カップル療法のメタ分析は58件の研究、2,092組を統合。二つの値が並びます。治療群の関係満足度の前後差が g = 1.12(95%信頼区間 0.92〜1.31、p < .001)、待機群の前後差が g = 0.12(−0.04〜0.29、p > .05)(後者は信頼区間が0をまたぎ、明確な差とは言えません)。引かれるのは、たいてい 1.12。けれども受けた人の前と後の値であって、受けなかった人とくらべた値ではありません。標本は異性どうしのカップルに限られます。
03準実験の非有意と、誰が参加したかが落ちる。有意ですらなかった準実験の d = .150 は、要約でまず消えます。「効果があった」は、実験研究の値だけから作られた一文(事前の群差による見かけで、考慮すれば実験と同等になるようだ、と原典自身は説明)。同じことが、誰が参加したかにも起きます。低所得の671組(1,337人)をベイズ推定で調べた再検証も、統制群と比べた確かな改善を確認。ただし効果は低所得向け対面型の平均より大きく、対面型の効能試験とはおおむね同等、所得要件の無い苦悩カップルへの同じプログラムやカップル療法よりは小さめでした。どの人たちの、どの指標の、どの比べ方かを落とすほど、当てはまる範囲は広がります。

全文まで読めたのは6点のうち4点。残る2点は抄録の範囲までです。答えたのは米国の、異性どうしの、新婚か支援を求めて申し込んだカップルが大半。日本を対象にした同じ設計の追跡研究は、たどった範囲ではごく少ないのが実際です。平均も交互作用も、計算された集団の話です。
続いた関係のデータのほうが、残りやすい構造になっています。途中でやめた組や、追跡の前に別れた組は、あとの測定に現れません——効果量を作っているのは、残った組です。ただし、プログラムや療法を否定する材料ではありません。742組の試験で、5領域の改善は統制群より有意に大きいものでした。
5つの領域は、すべて改善した。
別離の頻度は、有意には減らなかった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1件書き留めたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。許すかどうかを決める課題ではありません。1件、残すだけです。
TRY IT TODAY
- 01PICK
直近1か月で、そのままにして先へ進めたこと——水に流したこと——を1件だけ選ぶ。つらいものは選ばない。
- 02WRITE
3行だけ。日付、いつどこで何があったかを状況の言葉で、その後に同じことが起きたか(回数だけ)。**相手を評価する言葉や性格の説明は使わない。**
- 03READ
1回だけ読み返し、読み返した日付を足して閉じる。判定は要らない。
確かめられたのは四つ。新婚72組で、断面の正の主効果と、縦断の負の交互作用が同居していたこと。同じ72組の別の報告で、許しを表しやすい人では攻撃が4年間ほぼ横ばい、弱い人では減っていったこと。117研究の統合で、準実験の効果量は直後に有意ですらなかったこと。742組の試験で5領域すべてが改善し、6か月後の別離の頻度は有意には減らなかったこと。
許すべきかどうかは、どこにも書かれていません。書かれているのは、許しやすさの向きが相手の振る舞いの頻度で変わったことと、改善した指標と動かなかった指標が原典では同じ段落に並んでいたことまで。——今日残せるのは判定ではありません。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS関係修復・再調整力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- 効果量 d・g
- 2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

