IN ROMANCE · ISSUE 113
● 12 SEC恋愛の助言は、たいてい「まず自分の型を知る」から始まります。安定型・不安型・回避型。出どころは論文に残っています。1987年に学術誌へ出た研究が使ったのは、1985年7月26日、米国の一地方紙のライフスタイル面に載ったアンケート。1週間で1,200通を超える返信が届き、分析されたのは最初の620通でした。三つの短い段落から1つだけを選ばせる形式で、結果は安定319人(56%)、回避145人(25%)、不安両価110人(19%)。
この号が扱うのは型の見分け方ではなく、その数字が、誰の、何の測定だったかのほうです。56%・25%・19%の分母は、その日の新聞を読み、返信を書いて送った620人。人口の分布ではありません。同じ論文の第2研究は、ある授業の課題として答えた大学生108名で、割合は56%・23%・20%。二つは別の標本です。
愛着安定性(Attachment Security)は、恋愛に向いた性格の別名ではなく、人と近づくときの構え——安心していられるか、落ち着かなくなるかの傾きです。測る道具は二つ。面接して語りの一貫性を評定する方法と、質問紙に自分で答える方法です。同じ名前で呼ばれていても、二つは別々に作られ、別々に測られてきました。この理論はもともと親子の観察から出たもので、この号が扱うのは成人の質問紙のほうです。

まず測られたのは、この3つです。
01三つの箱は、新聞の三択だった。分析されたのは、届いた返信のうち最初の620通。回答者は14歳から82歳、中央値34歳、平均36歳です。同じ論文の第2研究は、ある授業の課題として答えた大学生108名という別の標本。どちらも、無作為に選ばれた人たちではありません。
02面接と質問紙は、平均.09しか重ならなかった。「自分の型を知る」には、測る対象が一つという前提が隠れています。米国・2007年の研究の研究1は、公表済みの10本を統合し、合算N=961で、面接の安定と質問紙の愛着次元の関連は平均 r=.09(個別研究は.02〜.17)。r は0なら関連なし、1に近いほど強く一致を表す値です。論文自身がCohenの基準を引き「trivial to small(取るに足らない〜小さい程度)」と書いています。研究2はN=160で、回避が r=-.08(p=.30)、不安が r=-.05(p=.53)。負は逆向きですが、どちらも0のすぐそばで有意でもなく、明確な関連があるとは言えません。
03箱があるかどうかも、測られた。そもそも人は、いくつかの型に分かれているのか。連続した一本の量か、切れ目のある集まりかを判定する手法(分類学的分析)があります。米国・2015年の研究は、2,399人と2,300人——どちらも愛着を測るウェブサイトの訪問者——にこれを当て、個人差は類型モデルよりも次元モデルと一致したと結びました。2019年の総説も、個人差は愛着不安と愛着回避の二次元で表されることが多いと整理します。型が存在しないと証明されたわけではありません。

動くのは数字ではなく、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01返信した人の割合を、人の割合にしている。「人の半分以上は安定型」と、よく言われます。この56%の分母は、その日その紙面を読み、返信を書いて投函した620人です。米国の一地方紙の読者のうち、自分で応じた人の分布です。同じ構造は後にも続きます——2015年の2標本もウェブサイトの訪問者、2011年の縦断研究に答え続けたのも、謝礼つきの調査に毎日または毎週こたえられた20歳前後の(大半が交際中の)人たちです。割合の側ではなく、分母の側を見る——というのが、この号の読み筋です。
02「生涯変わらない」を、測ってみている。米国・2011年の研究は、203人に30日間毎日、388人に1年間毎週、同じ質問に答えてもらいました。よく合ったのは、一時的な変動の下に安定した成分があるとするモデルです。ただし——相手に対する回避の再検査相関は、はじめは高いが、20週後には約.30という漸近値に近づき、そこにとどまる。再検査相関は、間をあけて2回測ったときの順位の保たれ方(1なら完全一致、0なら無関係)。安定した成分はある。ただし「生涯変わらない」が指す大きさではありません。米国・2019年の研究は三つの縦断研究を合わせた13歳から72歳の合計628人で、愛着不安は加齢とともに、とくに中年期以降で低下、愛着回避は生涯を通じて直線的に低下と報告します(抄録の範囲まで)。同年の総説は、変化を示す研究が増える一方、成人の標本は青年より安定と整理します。動いているのは平均であって、あなたの来年の予告ではありません。
03座標を、また名前に戻している。起きやすいのは、結果を名詞で受け取ることです。「私は回避型だから」と言った瞬間、位置は動かない箱に戻ります。ここまでの3つは、いずれも境界線のある箱を支持する材料にはなっていません。だからこの号は、愛着タイプ診断を勧めません。道具どうしが揃っていないからです。型の名前で自分を呼ぶことが害になると測った研究も、扱っていません。

どの数字も、あなたと目の前の相手がこれからどうなるかを教えてはくれません。平均も割合も、計算された集団の話だからです。答えたのは、米国の一地方紙の読者、米国の大学生、愛着を測るウェブサイトの訪問者、縦断調査に答え続けられた人たち。日本で同じ手続きをやり直した記録は、この号がたどった範囲に1件もありません。測り方も自己申告が中心で、面接も評定者が語りを聞いて付けた値で、外から関係そのものを数えた値ではありません。
恋愛と結婚についての助言は、続いた側から書かれやすい構造にあります。いま質問紙に答えられる人のデータが残り、別れた人・出会えなかった人のデータは入っていないことが多いからです。「この構えが関係を良くする」という報告からは、「もともと続きやすい条件にあった二人が、たまたまその構えでいた」という逆向きを取り除けていません。住む場所も、収入も、体の具合も、出会える範囲と続けられる余裕を本人の努力とは別に決めています。関係が続かないことを本人の性格の型で説明する材料は、ここまでの研究の中にはありません。
三つの箱の出どころは、新聞の三択だった。
面接と質問紙は、平均.09しか重ならない。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。場面を二つ書き留めたとき何が起きるかを測った研究は、扱っていません。型を決める必要はありません。場面が二つ並べば足ります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
安心していた場面を1つ、落ち着かなかった場面を1つ選ぶ。交際相手がいなくてよい。継続的に関わる人か、続けている活動で同じ形にする。
- 02WRITE
相手を評価する言葉を使わずに書く。いつ・どこで・何が起きて、そのとき自分の体と頭がどうだったか。
- 03DATE
書けたら、今日の日付を添えて閉じる。誰かに見せる必要はない。
愛着安定性は、恋愛に向いた性格の名前ではありません。確かめられたのは4つ。三択は1985年の新聞紙面に載り、分析されたのは最初の620通だったこと。第2研究の大学生108名は別の標本だったこと。面接と質問紙の重なりは10本・合算961人で平均 r=.09、研究2のN=160では -.08 と -.05 だったこと。2,399人と2,300人の分類学的分析が一致したのは次元モデルで、回避の再検査相関は20週後に約.30へ近づいてとどまったこと。あなたが何型かも、その型が一生続くかも、研究は答えていません。——今日残せるのは型ではなく、場面が二つと、今日の日付。座標がひとつ、記録に残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS愛着安定性を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

