IN ROMANCE · ISSUE 125

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「同棲してから結婚すると、離婚しやすい」。長く言われてきた言い方です。ここに年数を入れると、形が変わります。米国で2019年に Journal of Marriage and Family へ出た分析は、全国家族成長調査(National Survey of Family Growth)の6波——1988年・1995年・2002年・2006〜10年・2011〜13年・2013〜15年——を揃え直しました。初婚の女性24,888人、216,455カップル年、解消8,488件。

結婚1年目の解消率は、同棲を経ていない側が4.1%、経た側が3.9%。経た側のほうが低い——原典はそう報告しています。この号が扱うのは同棲の是非ではなく、その数字がどの期間の、誰についての値かです。同じ論文は期間全体では向きが戻るとも報告し、2021年には批判が出て、同じ号に返答が並びました。「同棲すると離婚しやすい」も「その関連はもう消えた」も、確定していません。

コミットメント形成力(Commitment Formation)は、才能の別名ではなく、続けるかどうかを判断として扱えるかという話です。まず確かめたいのは、何を1件と数えたか。カップル年は1組の1年ぶんを1件と数え、10年続いた組は10件になります。216,455は、21万組を調べたという意味ではありません。人数は初婚の女性24,888人、解消は8,488件。回答者は15歳から44歳の女性、記録された婚姻はすべて異性どうしの初婚だと原典が明記しています。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗い上着姿で街の明かりのほうを見ている女性。暗いガラスにその横顔が薄く映り込んでいる
数えたのは組の数ではなく、1組の1年ぶん。単位の違う三つの数が並んでいる。 Visual: ALIFE

では、その数字はどこまで測られているのか。まず測られたのは、この3本です。

011年目は、同棲を経た側のほうが低かった。1年目の解消率は、経ていない側4.1%、経た側3.9%。すでに一緒に住んだ経験の利点かもしれない、と原典は書きます。1年目に解消するのは経ていない側でも100組に4組ほど、差はその0.2ポイントぶん。この生の差は12か月時点では統計的に有意でなく、6か月までは有意とも原典は書き、条件をそろえた多変量の分析では、結婚のごく初期に同棲経験が解消を減らす有意な効果が記録されています。ただしこの利点は、1年目にしか続きません。

02期間全体では、向きが戻った。同じ論文が同じデータで期間全体をならすと、向きは逆になります。統制変数を入れないモデルで1.37倍、入れたモデルで1.31倍——同棲を経た側のほうが解消のオッズ(起こりやすさの比)が高い。統制変数を入れるとは、年齢や学歴をそろえて比べること。別のモデルの値です。1年目の3.9%対4.1%とも、同じ表には並びません。片方は1年目の解消率、片方は期間全体のオッズの比です。

03同居を始めた年齢をそろえると、差は縮んだ。同棲する人としない人は、同棲する前からすでに違っている——2019年の論文自身が、先行研究の説明として、同棲を経て結婚した層は同棲の前からより自由主義的で信仰が薄く、関係が悪くなれば別れを選びやすかった、と書きます。どちらが先かを、この設計では分けられません。2014年の分析は同じ調査の1995年・2002年・2006〜2010年、7,037人で同居開始年齢をそろえ直し、差は大きく縮み、モデルによっては有意でなくなりました(抄録まで)。2010年に Demography へ出た分析は1988年・1995年・2002年をまとめ、新しい出生コホート・婚姻コホートほど正の関連が薄れていたと報告(同じく抄録まで)。3本は同じ調査で、波が重なります。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
1年目は3.9%対4.1%・期間全体は1.31倍(統制あり)から1.37倍(統制なし)・年齢をそろえると縮む。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01年数が落ちて、向きだけが残る。引用のたびに最初に落ちるのは年数です。1年目の解消率と期間全体のオッズの比は、別々の期間の別々の値。年数を外すと、どちらか一方に化けます。「同棲したほうが別れにくい」も「同棲すると離婚しやすい」も、同じデータから作れてしまう。ほかに落ちるのも、書き足すのが面倒なものです。残るのは、いちばん短く言えるもの、つまり向きのほう。

02開いたままの論争を、確定として運んでいる。層を分けます。①元の分析——2019年、上の二つの値を報告した論文。②批判——2021年、同じ学術誌83巻1号の260〜267ページ。婚姻コホートごとに組み直すと最近結婚した層では関連はもっと弱く、最近のコホートでは婚前の同棲は婚姻の不安定さと関連しない、元のモデルは時間を測る変数が交絡しうる(抄録まで。推定値は扱っていません)。③返答——同じ号の268〜279ページ。使えるカップル年の70%以上を捨て、子どもの有無を時間で変わらない変数として扱い、説明なしに1波ぶんを捨てている、と三点を挙げ、婚前の同棲は米国では一貫して高い婚姻解消率を予測する、と結論します。三つの層が、そのまま残っています。

03説明の枠組みを、測られた効果として読んでいる。よく引かれる枠組みがあります——滑るか、決めるか(sliding versus deciding)。2006年に Family Relations へ出た論文の、決めて始めたか、なんとなく続いたかで抜けにくさが変わる、という筋道です。ただしこれは説明の枠組みであって、データを取って効果を測ったものではありません(抄録まで)。名前が付くことと、その効果が測られたことは、別。ここまでの値もどれも観察された関連であり、「同棲が離婚を生む」という読み方は、この設計からは出てきません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
年数が落ちる・開いた論争を確定として運ぶ・説明の枠組みを効果の証拠として読む。 Visual: ALIFE

どれも、目の前の相手がどうなるかは教えません。答えたのは、米国の全国調査に回答した15歳から44歳の女性。内訳は24,888人のうち白人の既婚女性18,674人、黒人4,182人、その他2,032人。原典は、結果は白人の米国人女性に当てはまり、結婚の型が異なる黒人女性には同じように当てはまらない、と明記します。日本で同じ設計を追った査読研究は、読めた範囲にはほとんどありません。0.2ポイントの差も、集団の平均です。

分析はいずれも同じ全国調査で、波が重なっています。同じ回答を、やり方を変えて組み直した結果です。分かれ目は、集め方でも尺度でもなく、どのカップル年を分析に残すかという選択でした。中身は、引用されるところまで運ばれません。同棲は危ない、あるいは同棲は関係ない。どちらの一行も同じ調査から出ています。20年前・30年前の米国の関連を、いまの日本にそのまま持ってくることもできません。

1年目の解消率は、同棲を経た側が3.9%、経ていない側が4.1%。
期間全体では向きが戻り、批判と返答は同じ号に並んだまま。

次の3手も、研究が命じた順番ではなく、ALIFEが提案する実践の入口です。同棲を勧める課題でも、結婚を勧める課題でも、続けるかどうかを決める課題でもありません。

TRY IT TODAY

  1. 01LIST

    紙かメモアプリを開き、今日1日をふり返る。いま近い関係にある相手のために使った時間を、用件ごとに書き出す。**自分の側の行動だけ**を対象にし、相手が何をしたかは書かない。

  2. 02MARK

    用件のそれぞれに、決めて行ったものと、流れでそうなったものの印を付ける。決めにくいものは、その印のままでいい。理由は書かない。

  3. 03COUNT

    合計の分数と、印ごとの件数を書き添える。今日の日付を書いて閉じる。それで終わり。

5分から8分。採点はありません。**続けたほうがいいかどうかを判定できる材料は、どこにもありません。**相手に伝える手順は含みません。誰にも見せなくて構いません。いま近い関係の相手がいない読者や恋愛をしない読者は、続けている活動を1つ選べば成立します。**相手からの被害や恐怖がある関係は、この課題の対象外です。**数えるより先に、安全と距離を。苦しくなったら中止し、つらさが続く場合は医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは四つ。6波で初婚の女性24,888人・216,455カップル年・解消8,488件。1年目は経た側3.9%・経ていない側4.1%だが、利点は1年目まで。期間全体では統制変数なし1.37倍・あり1.31倍と向きが戻る。批判は83巻1号260〜267ページ、返答は同じ号の268〜279ページに並んだまま。同居年齢をそろえた7,037人では差が縮み、新しいコホートほど関連は薄れていた。残せるのは、結論の一行ではありません。用件ごとの時間と、合計の分数と、印ごとの件数。記録が一日ぶん増えるだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUSコミットメント形成力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。