IN ROMANCE · ISSUE 121

(仮ビジュアル)暗い室内で黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性。窓の外は夕暮れの空● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「会う回数を増やせば、好かれる」。この助言の根拠にいちばんよく引かれるのが単純接触効果です。出どころは米国で1968年、Journal of Personality and Social Psychology の別冊へ出た1本。主張は一文です——「個人が刺激対象に単に反復して接触することは、その対象への態度を高める」。

ただし、参加者が見ていたのは造語と文字と顔写真で、3つの実験の設計に、参加者どうしのやりとりは入っていません。この号が扱うのは会う回数の増やし方ではなく、会うことと知ることがどう測られたかです。

接触・近接の行動力(Proximity Action)は、会う回数を増やす技術の名前ではありません。測られ方は二系統。実験室の側は提示回数と好みの評定、対人の側は相手をどれだけ知っているかと好意の関連、やりとりした量と魅力の関連です。同じ人の中で比べた数字ではありません。確かめられていないのは、実験室から人と人が会う場面へ渡る一歩のほうで、単純接触効果が嘘だったという話ではありません。

(仮ビジュアル)暗い石の台の上に、洋梨とさくらんぼとオーツ麦を盛った器、半分に切った洋梨、水の入ったグラス、麻の布が並んでいる朝食の静物
答えたのは、造語を見た人と、語のリストを評定した人。同じ測定ではない。 Visual: ALIFE

答えたのは、米国の大学生と、オンラインの募集に応じた人たちです。

01原典が見せていたのは、語と漢字と顔写真だった。米国・1968年の論文の手続きです。第一実験は7文字のトルコ語風の造語12語(72人・一度に一人ずつ)、第二実験は別の研究から借りた漢字風の文字、第三実験はミシガン州立大学の卒業アルバムの卒業予定者(男性)の顔写真。測られたのは提示回数と評定(語と文字は意味の推測、顔写真は好み)の関係です。第一実験には実験者に続けて語を復唱する手続きがありますが、評定の対象ではありません。確かめられていないのは、見た回数と会った回数を同じに扱えるかです。

02情報が増えると、好意は平均として下がった。対人の側で測った研究が、*米国・2007年に JPSP 92(1) へ出ています。要旨は——「人はもっと知れば好意が増すと信じているのに、他者についての情報が増えると、平均としては好意が減る」。知っている特性の数と好意の相関は、ある研究で r(76) = −.23(p = .05)、別の研究で r(304) = −.12(p < .05)。r は0なら関連なし、負なら片方が増えるともう片方が減る向き。p は小さいほど偶然では説明しにくい目安。標本は米国のキャンパスの76人と、出会いサービス経由の304人。課題は性格語リストの評定で、この2研究は対面の交際を追いかけていません(同じ論文の別の研究は初デートの前後を測り、デート後の評価のほうが低い)

03801人の追試では、0と区別がつかなかった。2025年4月に Royal Society Open Science 12(4) へ、論文番号250441として追試が出ました。事前登録(手順を結果の前に公開する形式)の報告。標本は米国の学部生801人。原典の6研究のうち3つを直接、2つを概念的に追試(実際の初デートを測った研究は対象外)。要旨は——「全体として、原典の知見への支持は弱かった」。特性の数が好意に影響する徴候は見られません(原典 r = −0.23 [−0.43, −0.005]、追試 r = 0.01 [−0.05, 0.06])。情報の量と好意は r(799) = −0.027、95%信頼区間 [−0.097, 0.042]、p = .325。区間が0をまたぎ、明確な関連とは言えません(区間は推定の幅、799は自由度)。消えなかったのは信念で、より多く知る相手を好きになるという予想は再現しました(原典 h = 0.62 [0.52, 0.70]、追試 h = 0.65 [0.55, 0.75]。h は割合の差の大きさ、角括弧は95%信頼区間)

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真
造語と漢字と顔写真・76人と304人・801人の事前登録の追試。まず測られたのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは数字ではなく、そこから引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01提示回数を、会った回数として数えている。いちばん起きやすい乗り換えです。1968年の実験で増えていたのは、刺激が提示された回数——造語や顔写真を見た回数でした。関係の側は、この設計で一度も動いていません。それでも、この結果は人に会う回数の話として引かれ続けています。会う回数を増やしたときに何が起きるかは、この論文では測られていません。

02消えなかったほうと、消えたほうを入れ替えている。読み違えは、二通りあります。「もっと知ると嫌いになる、が確かめられた」と、「もっと知れば好きになる、が確かめられた」。どちらも、この追試からは出てきません。報告されたのは、関連が0をまたいだことと、信念のほうは再現したことです。要旨の言葉も支持は弱かったまでで、否定されたとは書かれていません。残るのは、そう信じていることと、その通りに動くかどうかが別だという構図です——というのが、この号の読み筋です。

03同性の初対面の結果を、交際の場面へ渡している。実際のやりとりで測り直した研究が、*米国・2011年に JPSP 101(3) へ。要旨は——「知見は、なじみが魅力につながるという仮説を強く支持した。参加者が多くやりとりするほど、互いに強く惹かれた」。ただし、やりとりしていたのは面識の無かった同性どうしの2人です。第一研究は25組48人が対面で会話し(t(23) = 2.23, p < .04)、第二研究の110組は文字のチャットで、一度も対面していません(F(1, 101) = 5.15, p < .03。t・F は差を偶然の揺れと比べた値)。交際の相手を選ぶ場面の再現ではありません。逆説の側の著者たちは同じ誌に反論を書き、2015年には両陣営が Perspectives on Psychological Science 10(1) に敵対的協働として合流します。決着は「どちらが正しいか」ではなく「どういう条件で向きが変わるか」の形になりました。

(仮ビジュアル)夕暮れの大きなガラス壁ぎわに、黒い長袖と黒いパンツで裸足のまま立ち、海と岩場のほうへ目を向けている女性。ガラスにその姿が薄く映り込んでいる写真
提示回数を会った回数に・消えなかったほうを入れ替える・同性の初対面を交際の場面に。 Visual: ALIFE

本文まで読めたのは、7点のうち5点。残る2点は要旨の範囲までで、その範囲だけを書いています。測られた期間も、短いものが中心です。実験室の初対面と、続いている交際は別物です。読めた範囲に、日本の出会いを対象にした査読研究はごく少ないのが実際です。

米国・2019年に PNAS 116(36) へ出た研究は、英語を読める米国成人の全国代表標本の調査です。2017年の調査には、異性の相手がいる回答者が3,086人。構成比の分母は、2009年と2017年を合わせた異性カップル5,421件。2017年に出会ったカップルはオンライン経由39%・友人経由20%、1995年に出会ったカップルは友人経由33%。上回ったのは2013年ごろ。全経路の内訳ではなく2つの経路の構成比で、日本で同じになるかは別に確かめる必要があります。続いた関係のデータほど残りやすく、別れた人は追跡から抜けます。「よく会っていたから続いた」から逆向きは取り除けていません

801人の追試で、知っている量と好意の結びつきは、0と区別がつかなかった。
再現したのは、知れば好きになるはずだ、という信念のほうだった。

この3手も、研究が命じた順番ではありません。2つの欄に分けて数えたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。ALIFEが提案する入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01COLUMN

    紙かメモアプリに、今日の日付と2つの欄を作る。左は「同じ場所に居合わせた回数」、右は「そのうち言葉を交わした回数」。

  2. 02COUNT

    今日1日をふり返って、それぞれの回数を数えて書く。居合わせたとは同じ部屋や車両に一定の時間いたこと、言葉を交わしたとはあいさつ一言でも含める。相手が誰かは書かない。

  3. 03CLOSE

    2つの数と日付が並んだら閉じる。数えきれなかった欄には「不明」と書いて終わり。

5分。**採点はありません。回数を増やす課題でも、誰かに話しかける課題でもありません。**書いたものは誰にも見せなくてかまいません。交際相手がいない読者も、恋愛をしない選択をしている読者も、そのまま成立します。**相手からの被害や恐怖がある関係は、この課題の対象外です。**安全と距離を優先してください。苦しくなったら、そこで中止を。つらさが続く・強まる場合は、医療・支援の専門家へ相談してください。

接触・近接の行動力は、会う回数を増やす技術の名前ではありません。確かめられたのは4つ。原典が見せていたのは造語と文字と顔写真で、やりとりは設計に無かったこと。2007年の相関は負だったこと。2025年の追試では関連が0をまたぎ、再現したのは信念だったこと。2011年の実際のやりとりでは向きが戻るが、相手は面識の無い同性どうしだったこと。書かれているのは、信じていることと、測られることの隔たりまでです。——今日残せるのは、居合わせた回数と、言葉を交わした回数と、今日の日付。2つの数が、記録に残ります。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS接触・近接の行動力を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。