IN ROMANCE · ISSUE 120
● 12 SEC恋愛の助言は、たいてい「条件を書き出して、優先順位をつける」から始まります。その紙のリストは、実際に誰へ惹かれるかと合っていたのか。2008年の研究は、米国の学部生163名(女性81・男性82)に身体的魅力と稼得見込みの重視度を先に申告させ、1回4分のスピードデートを1人あたり9〜13回、その後30日間・72時間ごとに追跡しました。
この号が扱うのは、条件の立て方でも下げ方でもありません。申告したリストが、何を予測して、何を予測しなかったかのほうです。「条件なんて意味がない」という話ではありません。当たらなかったのは、その日、目の前の誰に惹かれるか、という一点です。
選好の現実的柔軟性(Preference Flexibility)は、条件を緩める技術の名前ではなく、申告した重視度と実際に選んだものがどこでずれるか、という話です。効くのは、測定が二段構えなこと。会う前に申告した重視度と、会った場面でその性質が関心をどれだけ動かしていたかの重み(選び方から割り出した値)。同じ人の同じ性質でも、この二つは別の測定。突き合わせて出てきたのが、72個の相関でした。

では、その二つはどこまで測られたのか。答えたのは、米国の大学生と、オンラインで募集に応じた人たちが中心です。
0172個のうち、有意だったのは3個。事前の重視度と、その日の場面で各性質が関心をどれだけ動かしていたかの重み。二つのあいだの相関は72個。有意で正が2個、有意で負が1個です。残る69個は、有意ですらありません。無関係だったのは魅力や稼得見込みそのものではなく、事前に「重視する」と言ったかどうかのほう。同じ研究の前半では、理想を述べる場面で、昔から報告されてきたとおりの性差が出ています。
02307名の直接の追試も、同じ結果だった。2015年の研究は、その直接の追試です。307名を募集し、スピードデートと30日間の追跡で関心を測りました。参加者は魅力的だと見なした相手や稼ぐ見込みがあると見なした相手により強い関心を持ちましたが、結びつきは性別によって調整されませんでした。進化理論が予測する性差は、対面では成り立たないかもしれない——と論文は述べます。追試が成功して、原典のほうが固まった話です。
03魅力と稼得の結びつきは、両性で同じだった。2014年のメタ分析が対比を出します。紙の上で仮想の相手を評価させると、これらの性質の影響に男女差が出ます。ところが結びつきそのものを統合すると——身体的魅力はどちらの性でも r = .40、稼得見込みはどちらの性でも r = .10(r は関連の強さ。0なら関連なし、1に近いほど強く一致)。統合したのは79本97標本29,414名と、48本56標本50,113名。性差は差にして .03、一律に有意ではありません(男女で明確な差があるとは言えない)。統合値は、個々の研究が一様だった意味ではありません。

数字そのものは動きません。動くのは、そこから引かれていく途中です。手がかりは3つ。
01「予測しなかった」を、「意味がない」にしている。いちばん起きやすい格上げです。当たらなかったのは、「重視する」と事前に申告したかどうかのほうでした。性質そのものは、2014年の統合では両性とも r = .40 と r = .10 で恋愛的な評価に結びつき、2015年の追試でも、参加者は魅力的だと見なした相手により強い関心を持っています。「条件は無意味だった」という一般化は、この72個の相関からは出てきません。
02参加の予測を、選択の予測にしている。2007年の研究は、米国の商用スピードデート事業の全データベース12,892名分から分析に入った8,961名を調べました。掲げた選好が予測したのは、どのイベントに参加するかまで。イベント内での決定は、実質的に予測しません。理想の条件を実験的に動かした2026年の実験(1,639名/2,027名。男性に惹かれる人を対象に募集)でも、非常に強く支持されたのは四つの説明のうち動機づけられた投影と状況の選択の二つで、重みづけの説明は2研究のうち1つでしか支持されていません。行き先の予測と、行った先での選択の予測は、別物です。
0321%を、全体の返信率にしている。2018年の研究は、米国の4都市の無料のオンラインの出会いサービスの、1か月分のメッセージを分析しました。「望ましさ」は優劣の指標ではなく、メッセージがどこへ集まったかを数えた順位です。男女とも、平均して自分より約25%望ましい相手に送っていました(男性26%・女性23%)。差が開くほど、返信を受け取る確率は下がります。「返信率は21%を超えない」は、より望ましい女性へ送った男性についての値で、研究全体の返信率でも、一般的な上限でもありません。

全文まで読めたのは、6点のうち5点。残る1点は抄録の範囲までで、そこを超えては書きません。中心は、異性の相手とだけ会う設計のスピードデートです。2026年の実験は男性に惹かれる人だけを募集しており、他の場合へは一般化できません。日本で同じ手続きをやり直した記録は、この号がたどった範囲に1件もありません。
「条件」は研究ごとに別の形で測られたもので、同じ人の中で比べた数字ではありません。30日間の追跡に答え続けた人と、答えなくなった人も同じではない——というのが、この号の読み筋です。掲げた選好が行き先を予測したことは、行ける場の広さが人によって違う事実を消しません。どれも、あなたと目の前の相手がこれからどうなるかを教えてはくれません。
72個の相関のうち、有意だったのは3個。
掲げた選好が予測したのは、どの場に行くかだった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。条件を二つに分けたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号では扱っていません。ここからはALIFEが提案する実践の入口。条件を下げる課題ではなく、分けるだけ。
TRY IT TODAY
- 01LIST
相手に、あるいは一緒に時間を過ごす人に求めるものを、思いつくまま10個書き出す。順位も、良し悪しの評価も書かない。
- 02MARK
10個それぞれの左に、**実際に会う前に確かめられるものだけ**印を付ける。会ってからでないと分からないもの、相手が自分をどう思うかに関わるものには付けない。
- 03COUNT
印を付けた数を数えて、下に書き添える。今日の日付を添えて閉じる。それで終わり。
確かめられたのは四つ。米国の学部生163名で、事前の重視度と当日の重みの相関72個のうち有意は3個。理想を述べる場面では従来どおりの性差が再現し、会った相手への関心では性差が見られなかったこと。307名の直接の追試が原著を支持し、統合すると身体的魅力は両性で r = .40、稼得見込みは両性で r = .10。12,892名分から分析された8,961名で、掲げた選好が予測したのは、どのイベントに参加するかまで。
条件を下げろとは、どこにも書かれていません。書かれているのは、当たっていた場所が、思われていたのとは違うところにあったというところまで。——今日残せるのは、10個の条件と、会う前に確かめられるものへの印と、その数だけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS選好の現実的柔軟性を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
