IN ROMANCE · ISSUE 122

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「数分の会話を見れば、離婚が93%の精度で当たる」。研修でも恋愛の助言でも配られてきた一句です。元になった数字は実在します。1992年・米国の研究の本文に93.6%、要旨に約94%の正確さと印字があります。

この号が扱うのは、その「精度◯%」が誰の、何を数えた割合だったのか——手続きと分母です。「93%は嘘だった」という話ではありません。

93.6%は、答えがすでに分かっているデータの上の分類率でした。別のデータで確かめ直すと値は落ち、事後分析であり交差検証が要る、という但し書きは、提唱者側の1992年のもう1本にありました。落ちたのは数字ではなく、分母と、確かめ直しの層です。

対話表現力(Dialogue Skill)は、うまく話す技術の名前ではなく、会話が関係の何をどこまで言い当てるのか、という射程の話です。数字は二系統——記録から夫婦を離婚か安定かに分類し、正しく分類できた割合を出す予測の精度の側と、やりとりと関係の質・解消の結びつきの強さを統合した関連の側。「◯%の精度」と「関連の強さ」は、別の指標です。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
精度の側と、関連の側。同じ会話の話でも、測っているものが違う。 Visual: ALIFE

まず確かめられたのは、この3つです。

0193.6%は、答えが分かっているデータの上の値だった。1992年・米国。新聞広告で募集した56家族に二人の過去の語り方を聞く面接から9つの変数を取り出し、3年後の追跡に残ったのは52組。本文の一文——判別関数分析は、9つの予測変数を用いて、事例の93.6%で夫婦を離婚か安定した婚姻かに正しく分類できることを示した。ただし表に入るのは52組のうち47組(安定40組・離婚7組)、正しく分類されたのは44組=93.62%で、離婚7組は全て当たり。答えがすでに分かっているデータに、最もよく合う式を作らせる手続きです。別のデータで試し直す交差検証の記述は、この本文に見当たりません。「90%以上」と語られる1998年の新婚130組の研究の要旨は83%と80%です。

02別のデータで確かめ直すと、値は落ちた。2001年・米国。1985年の全国代表標本の調査(回答者6,002人。うち最近離婚した176人など)で、式を作ったデータの上では90%が正しく分類(感度92%・特異度89%。単位は回答者個人)。離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合(的中率)は65%。別のデータで同じ式を試すと、正解率69.31%、感度45.95%、特異度74.55%、的中率28.81%。結婚3〜6年目までに離婚する夫婦の割合(16%)に重みを戻すと20.99%です〔感度は離婚した組、特異度は離婚しなかった組を分母にした割合〕。核心の一文は——分析者はソフトウェアに、予測ではなく再構成を求めているのである。

03「交差検証を必要とする」と、原典に書いてあった。批判より強い一文が、提唱者側の論文にあります。1992年・米国のもう1本は、1983年にインディアナ州で新聞広告により募集した79組のうち、1987年の追跡に参加した73組を追跡。別居は18組(24.7%)、離婚は9組。本文にこうあります——これは事後分析であり交差検証を必要とするけれども、文献にある離婚予測の大きさと比べれば心強い。批判の論文が出る9年前の、提唱者側の自己申告です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
47組の上の分類率・別データでの下落・原典自身の但し書き。まず確かめられたのは、この3つ。 Visual: ALIFE

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。

01式を作ったデータの上の高さを、当てる力として読んでいる。答えの分かっているデータの上で式を作らせる手続きなので、そのデータの上での正解率は高く出ます。知りたいのは、まだ見ていないデータでどうか、のほうです。逆向きも同じで、「93.6%は嘘だった」も、同じくらい話をずらしています。

02別の研究・別の分母の値を、ひとつの下落として並べている。93.6%、69.31%、20.99%。並べると一本の坂道に見えますが、別々の研究の、別々の分母の上の値です。93.6%の分母は1992年の研究で表に入った47組。69.31%と20.99%は2001年の研究の中の値で、前者の分母は検証に使われた全組、後者は「離婚すると当てた組」を分母に、先の16%で重みづけ直した値です。落ちたのは2001年の研究の中、式を作ったデータの上の値と別のデータの上の値のあいだです。

03「予測が当たらない」を、「会話は関係ない」にしている。精度が確かめきれていないことは、会話が関係と結びついていない、という結論ではありません。2022年・米国のメタ分析は、64の二者データ研究・1,784の推定値を統合。関係の質との相関は、肯定的なやりとりで r = .15(本人内)・.09(相手側)、否定的で −.17・−.16〔r は関連の強さ。0なら関連なし、符号は向き〕。関係の解消との関連は、否定的で d = −0.41(p < .001)。一方、肯定的なやりとりでは d = 0.24(p = .105)で、明確な差とは言えませんでした〔d は差の大きさで0なら差なし、p は偶然で説明しにくい度合いの目安〕。結論は——これらの効果は小さく、肯定的・否定的なやりとりの単一の早期の測定は、のちの関係の機能をわずかに予測するにすぎない。統合値は統合値で、64研究が一様だった意味ではありません。ただし結びつき自体は支持されています。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
構築時の高さを能力に・別の分母を一本の坂に・「当たらない」を「関係ない」に。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは7点のうち3点(3点は要旨まで、1点は書誌だけ)。読めていないものについては書きません。答えたのは、米国で募集に応じた異性の夫婦が大半です。2007年・米国の研究は、地域から集めた、困難を抱えた背景を持つ85組(既婚または同棲)をおよそ21歳から約2年半追い、要旨に〔提唱者〕らの主要な知見は再現しなかったとあります。男性が相手の影響を受け入れない・男性が相手の否定的感情を鎮めない・女性の否定的な切り出し方——いずれも関係の状態を予測せず。提唱者側の応答も同じ誌にありますが、本文は読めていないので要約しません。

この30年で増えたのは確かめ直しの側で、助言のほうはほとんど動いていません。日本の夫婦の会話を対象にした査読研究は、たどった範囲ではごく少ない。続いた関係のデータだけが残りやすい、という逆向きも排除できません。どれも、あなたと目の前の相手のこれからを教えてはくれません。

答えは、式を作る前から分かっていた。
「交差検証を必要とする」と、提唱者側が書いていた。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。話した時間を書き留めたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。ALIFEが提案する実践の入口で、関係を診断する課題ではありません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリに、今日の日付と、選んだ会話の場面を1行だけ書く。誰と、は書かない。仕事の打ち合わせでも、店先のやりとりでもいい。

  2. 02SPLIT

    2つの欄を作る。左は「自分が話していた時間」、右は「相手が話していた時間」。分単位のおおよそでよく、正確さは要らない。

  3. 03CLOSE

    会話の中身は書かない。相手を評価する言葉も書かない。日付・場面の1行・二つの分数の4点が並んだら、そこで閉じる。

5分。**採点はありません。相手や関係を診断する課題ではなく、書いた分数から関係の先行きを判定することもできません。**話す時間を増減させる課題でもなく、今日すでに起きた会話を1つ選ぶだけ。相手に尋ねる必要も、人に見せる必要もありません。近い関係の相手がいない読者、恋愛をしない選択をしている読者は、継続的に関わる人とのやりとりで成立します。**相手からの被害や恐怖がある関係は、この課題の対象外です。**安全と距離を優先してください。**苦しくなったら中止を。**つらさが続く・強まる場合は、医療・支援の専門家へ相談してください。

確かめられたのは4つ。93.6%は、答えの分かっている47組の上で9つの変数から計算された分類率(44組正解)だったこと。その本文に交差検証の記述が見当たらず、但し書きは提唱者側の1992年の論文にあったこと。別のデータでは値が落ち、別の85組では再現しなかったこと。それでも、否定的なやりとりと関係の解消の結びつき自体は、メタ分析が支持していること。93.6%も69.31%も20.99%も、別の研究の、別の分母の上の値です。落ちたのは、分母と確かめ直しの層でした。——今日残せるのは精度ではなく、日付と、場面の1行と、二つの分数。一組、増えるだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
効果量 d・g
2つのグループの平均の差を、ばらつきの大きさで割った値。一般的な目安では 0.2=小、0.5=中、0.8=大。g は d を小規模研究向けに補正したものです。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。