IN ROMANCE · ISSUE 119
● 12 SEC「ドキドキしたなら、それは恋」。出どころは、1974年にカナダで出た1本の実験です。深い谷にかかる揺れる吊り橋と、低くて頑丈な橋。渡ってきた人に女性の調査員が声をかけ、質問紙に答えてもらい、結果を知りたければと電話番号を渡す。揺れる橋の側のほうが、あとで電話をかけてきた——40年以上引かれ続けている数字です。
この号に出てくる吊り橋の実験の人数・比・信頼区間は、すべて2012年の再解析が数え直して示した値です。扱うのは恋の見分け方ではなく、有名な効果がどの段階の、何人の内訳でできているか、のほうです。
認知バイアス管理(Cognitive Bias Management)は歪みを直す技術の名前ではなく、自分の側に起きていることを相手についての情報として読んでいないか、という点検です。橋の上の実験と追試、そして交際中や新婚の二人を追う縦断研究——同じ人の中で比べた数字ではありません。

では、橋の側はどこまで数えられているのか。まず数えられたのは、この3つです。
01番号を受け取った比率は、ほぼ同じだった。声をかけたのは66名、質問紙に答えたのは45名で、ここまでで3分の1が抜けています。受け取ったのは、揺れる吊り橋で23名中18名、低くて頑丈な橋(統制)で22名中16名。原典はこの段階の分析を示していませんが、再解析が計算すると有意ではありません(オッズ比1.35、95%信頼区間0.345-5.284、分母45名)。「揺れる橋のほうが受け取った」という差は、ここでは出ていません。
02差がついたのは、かけた9人と2人だった。差がついたのは、あとで実際に電話をかけた人数です。18名のうち9名と、16名のうち2名。分母は34名。計算し直したオッズ比は7(1なら差なし、1より大きいほど起こりやすい関連)。ただし95%信頼区間は1.22から40.125まで開いています(χ²(1, N = 34) = 5.44, p < .02。χ² は、実際の内訳が「差なし」の見込みからどれだけずれているかをまとめた値)。下限はかろうじて1超、上限は40超。差の有無は辛うじて言えても、大きさは事実上決まっていません。
031979年の4つの研究は、再現しなかった。米国で1979年、題名がそのまま「4回の再現の失敗」。抄録は——「4つの研究はいずれも、はっきりした嫌悪的な刺激が存在するとき、参加者は覚醒を女性の実験協力者に帰属しなかった(状況のほうに原因を割り当てた)。そして4つの研究はいずれも、もとの魅力についての結果を再現しなかった」。1989年には同じグループが、誤帰属でも負の強化でもなく、すでにある評価の傾向が後押しされている、という代替の説明を出しました。それでも「嘘だった」とはまとめられません。確からしいのは、どちらとも決めきれない、まで。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01分母と信頼区間から、先に落ちていく。落ちるのは、たいてい分母と区間です。34名という分母、1.22から40.125という幅、そして「受け取った比率には差がなかった」という段階。残るのは、揺れる橋と、電話をかけた人という筋だけ。1974年の実験、1979年の再現の失敗、1989年の代替説明、2012年の数え直し。逆向きには進みません。短く、絵になり、自分の記憶に当てはめられる——だから残った、というのが読み筋です。
02「幻想」の定義が、結論の半分を作っている。「恋は盲目だが、その盲目は関係にとって良い」。カナダで1996年に出た研究は、交際中の121組の双方に1年に3回、理想化と充足の尺度に答えてもらいました(第3時点でも続いていたのは73組)。要旨の結論は「盲目というより先を見ていたようであり、関係が進むにつれて、望んだとおりの関係を実際に作り出していた」。見ておきたいのは「幻想」の作り方です。定義は、行為者の知覚=相手の現実+行為者の幻想。相手が自分自身には見ていないもの、つまり相手の自己評価からの上振れ分を「幻想」と呼んでいます。自己評価が控えめな相手なら、普通に見ていても差分は幻想に計上されます。結論の半分は、定義の側にあります。
03「下がらなかった群」を、処方に読み替えている。米国で2011年に出た縦断研究は、結婚2〜6か月の初婚で子どものいない222組を3年間に7時点追跡しました。満足はおおむねはっきり低下。ただし、最初に相手を最も強く理想化していた人たちには、有意な低下が見られませんでした(低い理想化の群は b = −0.169、SE = 0.018, z = −9.39, p < .001。高い理想化の群は b = −0.026、SE = 0.018, z = −1.44。b は時点ごとの満足の動きで、0なら動きなし、負は下がる向き。後者は有意でなく、明確な低下とは言えません)。理想化が関わっていたとも、理想化として測られたものが満足の別の言い方だったとも読めます。「下がらなかった」は、「理想化すれば下がらない」ではありません。

どれも、目の前の相手とのあいだで起きていることは判定してくれません。平均も区間も、計算された集団の話です。答えたのは北米の橋を渡ってきた人と、北米の交際中・新婚の異性愛カップルが大半で、日本の恋愛や結婚を対象にした査読研究は、この号がたどった範囲ではごく少ない。橋の上の初対面と、続いている交際は別物で、測られた期間も短い。全文まで読めたのは6点のうち4点(1点は抄録、1点は書誌情報まで)。読めていないものについては書きません。
この分野は、続いた側からデータが残ります。121組のうち第3時点まで続いていたのは73組。新婚222組も同じです。下がらなかった群のデータは、続いていたから残っています。別れた二人、答えるのをやめた二人は入っていません。「良く見ていたから続いた」の逆向き——もともと続きやすい二人が、たまたま相手を良く見ていた——を、取り除けていません。体の状態は、記録するところで止めるのが妥当です。書き留めた値から、正体を判定することはできません。
番号の受け取りは、ほぼ同じだった。
差がついたのは、かけた9人と2人。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。惹かれた対象と自分の側の条件を1行ずつ書き留めたとき何が起きるかを確かめた研究は、扱っていません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリに、いま強く惹かれているものを1つだけ挙げる。人でなくてよい。仕事でも、場所でも、迷っている買い物でも。短い名詞句で1行書く。
- 02WRITE
2行めに、惹かれた時期に自分の生活で何が起きていたかを、状況の言葉だけで1行。眠れていたか、忙しかったか、どこにいたか。評価は書かない。
- 03DATE
3行めに今日の日付。書き終えたら、読み返さずに閉じる。人を挙げた場合も、その人については何も書かない。
確かめられたのは4つ。2012年の再解析によれば、受け取りは23名中18名と22名中16名で、差は有意ではない。差がついたのは電話をかけた9名と2名、分母は34名。オッズ比7の95%信頼区間は1.22から40.125まで開き、大きさは決まっていない。1979年の4つの研究は、もとの魅力についての結果を再現しなかった。1996年の研究は「幻想」を相手の自己評価との差分として定義した。新婚222組の3年7時点では満足がおおむね低下し、最も強く理想化していた群に有意な低下は見られなかった。恋なのかも、そうでないのかも、決めきってはいません。——今日残せるのは判定ではなく、対象が1行、状況が1行、今日の日付です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS認知バイアス管理を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- オッズ比
- ある状態の「起こりやすさの関連」を表す倍率。1なら差なし、1より大きいほどその群で起こりやすい関連です(確率が何倍、という意味ではありません)。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
