IN ROMANCE · ISSUE 118
● 12 SEC「サインを読み取る力をつけよう」。実際に測りに行った研究があります。2015年、面識のない異性の男女52組(104名)を実験室で10〜12分会話させ、「自分は好意を示すふるまいをしたか」と「相手はしていたと思うか」を別々に自己申告させた。正解に置かれるのは、相手本人の申告です。
要旨の結論は一文です——好意を示すふるまいが起きなかったやりとりのほうが、起きたやりとりよりも正確に知覚された。(英語圏ではこのふるまいをフラートと呼びます。以下、好意を示すふるまい、と書きます。)
この号が扱うのは読み取りの技術ではなく、その数字が誰の、何を正解として測られたのかのほうです。よく流通するもう一文——「男性は女性の好意を性的な関心と読み違えやすい」——も、三つの層に分かれました。決着はしていません。
関心シグナル知覚力(Interest Signal Perception)は、脈を見抜く才能の別名ではなく、その正しさがどう測られたか、として置かれています。正しさを出すには正解の側が要り、研究が置いてきたのは相手本人の自己申告です。突き合わせているのは、片方の自己申告ともう片方の自己申告。そのあいだの「本当のところ」を外から測った値ではありません。場面も限られます——実験室、数分の会話、大学生、異性どうし。

その読み取りは、どこまで測られているのか。まず、この3つです。
01起きなかったやりとりのほうが、正確に知覚された。冒頭の設計が第1研究です。結論は、起きなかった側のほうが正確に知覚された、まで。女性が示したふるまいのほうが、男性のものより正確に判定されたとも報告されています。これは比較の形で、「起きた側は読めない」とは書かれていません。測られたのは初対面の数分。その後は測られていません。
02含まれる割合を動かすと、正しさが動いた。第2研究は、そこを実験で確かめます。第1研究の映像から1分のクリップを26本作り、別の観察者261名に8つの条件で判定させました。動かしたのは、含まれる割合(基準率=その場面が起きる頻度)と、男性から動くという伝統的な筋書き。基準率は正答率に影響しました。ここでも起きていないクリップのほうが正確です。分母を動かすと、精度という一語のほうが動く。
03性差は再現し、二つを入れると残らなくなった。2020年の研究は、スピードデート課題の1,226名(男性586・女性640)を分析。性差そのものは再現しました——男性は女性の性的関心を過大に、女性は男性のそれを過小に。ただし判定する側の社会的性志向(気軽な関係への開かれ方)と判定者自身の関心を媒介に置くと、性別による差は無視できる水準に。「性差は存在しなかった」ではなく、統計の上での操作です。01・02とは別の測定で、同じ表には並べられません。

数字そのものは動きません。動くのは、引かれていく途中のほうです。手がかりは3つ。
01開いたままの論争を、確定として運んでいる。「男は勘違いする」も、「性差なんて無かった」も、確定してはいません。層を分けます。①理論——2000年の誤差管理理論の原論文。見落としと勘違いのコストが非対称なら判断は偏るはずだ、と論じ、学部生217名の研究1でコミットメントの過小知覚、289名の研究2でその再現を報告。提案とその検証であって、確定ではありません。②再現と消失——2020年の再現と、二つの媒介による消失(前項)。③反論——2021年、媒介変数の側にも性差があるのだから分析は交絡している、究極の説明(なぜ備わったか)への反論には別の究極の説明が要り、至近の説明(いま何が差を作るか)では反論にならない、と。媒介要因はむしろ、性差が生じる仕組みの説明として解釈できるとも。その再応答が、同じ号に並んでいます。
02「過大に見ている」の、正解の側を確かめない。「過大に見ている」と言うには本当のところが要ります。2015年のもう一本がそこを突きました——女性の本当の性的意図は直接測れないのだから、女性が控えめに申告していて男性の評価のほうがおおむね正確だ、という逆の解釈も成り立つ。3つの研究で性差そのものは再現し、正直に答えると報酬が出る条件でも男性の評価は変わらず、女性は他の女性が申告を控えていると考えていた。この論文も「男性のほうが正確だ」を確定させてはいません。崩れたのは、比較の土台のほうです。
03「よく当たる」を、腕前だけの話にしている。正確さが高く出たのは、起きなかったやりとりのほう。第2研究は、含まれる割合を動かすと正答率が動くと確かめています。「よく当たっている」という手ごたえは、腕前の証明としては読めません。当たった回数ではなく、何を数えているかを見る——これはALIFEが提案する読み方です。測られたのは実験室の数分か短いスピードデートで、あなたが日々関わる相手についてではありません。

測られたのは、実験室で初めて会った相手との数分と、スピードデート課題です。日本で同じ手続きをやり直した記録は、この号がたどった範囲に1件もありません。突き合わせたのは自己申告どうし。当たっていたかを後から語れるのは連絡が続いた側だけで、続いた関係のデータだけが残るという逆向きも排除できません。
動いたのは答えではなく、問いのほうでした。2000年に理論、2015年に「比べている二つはどちらも自己申告だ」という指摘と測定、2020年に再現と消失、2021年に反論と再応答。21年かけて、問いは「なぜ偏るのか」から「何を正解として測っているのか」へ移った——というのが、この号の読み筋です。
正確さが高かったのは、何も起きなかった側だった。
性差は再現し、媒介を入れると残らず、そこに反論が出ている。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。判断の回数を数えると何が起きるかを確かめた研究は、この号にありません。ここからはALIFEが提案する入口です。読み取りを上達させる課題ではありません。
TRY IT TODAY
- 01COUNT
紙かメモアプリを開く。今日1日を思い返して、誰かのふるまいについて「この人は自分に好意的だ」と思った場面の数と、「そうではない」と思った場面の数を、それぞれ数字で書く。
- 02NUMBERS ONLY
誰のことかは書かない。場面の内容も書かない。書くのは2つの数字だけ。数え終えたら、多かったほうに丸をつける。
- 03STOP
推測が当たっていたかは確かめない。相手に聞かない。1件も無ければ「0」と書いて、今日の日付を添えて閉じる。
確かめられたのは四つ。起きなかった側のほうが正確に知覚されたこと。26本のクリップで割合を動かすと正しさが動き、女性のふるまいのほうが正確に判定されたこと。1,226名の課題で性差は再現し、媒介を入れると残らなくなり、そこに反論と再応答が並んだこと。そして、本当の意図は直接測れないため、逆の解釈も成り立つこと。どちらが正しいかを、ここまでの研究は決めていません。今日残せるのは正答率ではなく、2つの数字と、多かったほうの丸がひとつです。
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